第16話
「ギリギリって感じだったな」
テミアに帰っている途中にライエルが言う。
同感だ。特にスピードが厄介すぎる。多分チーターの2倍はある。
と言っても、普通の日本人だった俺がチーターを見たことがあるわけもないんだが、そのくらい速いっていうことだ。
結局あの後、11階層で3匹のダークウルフと戦った。
幸い誰も怪我無く終わることができたが、上層とは疲労感が違う。
みんなクタクタだし、これに慣れる日くんの?と思ってしまう。
ま、コツコツだなコツコツ!
なぜかジョーさんみたいな結論に至ってしまったが、結局はこれしかない。
「中層はまだ、少し早いと思ってたが、怪我が無くて何よりだ。コツコツが大事だからな!!」
ジョーさん!?
ボーッと歩いていたらいつの間にか冒険者ギルドについていたみたいだ。
「何ボケッとしてんのよ!早く魔石出しなさいよ。」
そうだった。換金のためにきたんだった。
俺は行き帰りで倒したグレーウルフの分も合わせて合計6つの魔石を出した。
ダークウルフはいくらになるんだ。
「おつかれみたいだな。これなら、金貨3枚と銀貨75枚だ。」
すくねーーー!!!!
これだとダークウルフ1匹で銀貨75枚の計算になる。
グレーウルフと銀貨25枚分しか差がないなんて、どう考えても割に合わない。
「俺ももっと出してあげたいんだけどな。ダークウルフのランクの魔石に出せば出すだけ、さらに上位の魔石の値が張るんだとよ。」
俺たちの顔を見て悟ったのか、それとも大体の冒険者が同じことを思うのかは分からないが、ジョーさんが説明してれた。所詮は低級なダンジョンってことか?くそったれ!!!
正直に言うと既に貯金はほとんどない!!!!
パーティー資金が多少残っている程度だ。師匠やシルさんがいなかったらホームレスだったかもな。
はあ。飯に宿代、武器の手入れに日用雑貨。生活しているだけでも金がかかるってのに。
まだ上層だけの方が稼げたくらいだ。そんなに大差は無いんだけどね。
金のために冒険者をやってないとは言っても、やっぱ大事だよな。
アイリスやルーク、それにノアに楽させてやるのはまだまだ先になりそうだ。
思い出したらちょっと泣きそうになっちまったぜ。やっぱ家族っていいよな。前世の俺に教えてあげたかったよ。
金も大事だけど、今は飯だ!と言うことになり宿に戻って、銭湯からの飯、修行、就寝というルーティンを済ませた。
正直身体はダルいし修行をする元気もなかったが、ここでサボって英雄になんか慣れるわけねえだろ!!という至極真っ当な事を、よりにもよってライエルに言われてしまい、なんとかやり切った。
この日この訓練をやって本当に良かった。
というのも、ついにライエルにもスキルが発現した。
スキル 「スラッシュ」
これがライエルのスキルらしい。
剣をクロスさせて薙ぎ払うようにして攻撃する。
訓練の途中、休憩を挟んでいた時に、ライエルがふざけてゴードンの剣を使って「今日から二刀流になるぜ!」とか言っていたら急に発現した。
ライエル曰く、スキルを使おうとすると身体が半自動的に動いてくれるらしい。
もちろん、スキルを使わなくても同じような動きはできる。でも、威力やスピードが段違いだった。スキルを使った後にコンマ数秒だけ、硬直時間があるのであまり連続しては使えないが、それでもマナを使ったりはしないので汎用性は高そうだ。
何よりライエルが死ぬほど喜んでた。
俺の方が先にスキルを発現したことも相当悔しがっていたみたいだったし。
俺としてもパーティーの攻撃力が上がることは喜ばしいしね。
ということで、今日はライエルのスキルに合わせて、シルさんの所で剣を購入してからダンジョンに向かっている。
割引きしてもらったとはいえ、さすがに懐が寂しい。
「今日は俺に任せとけよ!!新必殺技スラッシュで黒い狼なんざ切り刻んでやるぜ!!」
た一晩たった今もこの調子のライエルを見てイラッとしてしまいそうだ。
いや、イラッとする。
「おい、昨日も言ったけど乱用するなよ。撃ち終わった後の隙でやられたら意味ねえだろ!あいつら素早いんだ、使い所を考えてだな」
「わーってるよ!!カイとゴードンのフォローが入れるような位置で使えばいいんだろ?」
「そうだけどさ、」
ライエルなりに一晩考えていたらしい。まあ、こいつも馬鹿ではないし心配しすぎか。
それよりも、ゴードンがちょっと元気なさそうなのが気になるんだよなあ。
元々口数が多い方では無いけど、今日は特に話さないし。
たぶんライエルにスキルが発現したのを気にしてるんだろうけど、正直言って今パーティーへの貢献度が1番高いのはゴードンだ。
ゴードンがいなかったら、間違いなくこのパーティーは成り立っていない。
こんな時なんて言えばいいんだよ!はあ、コミュ力上がるスキルってあんのかな?
「ようし!早速行こうぜ!!」
「カイ、今日はライエルがスキルに慣れるまで低層で戦った方がいいんじゃない?」
「ああ、そうだな。連携が取れるようになったら中層に行こう。」
「まあ、いいか。とりあえず早く行こうぜ!」
ゴードンには今日の夜にでもそれとなく言っておこう。
とりあえず今はダンジョンに集中だ。宵越しの銭を持たせてくれ!!
「”スラッシュ”」
ライエルの持つ2本の剣が淡い銀色を纏いグレーウルフを切り裂く。
「ふうー。やっぱグレーウルフには手こずらないんだよな」
「そうだね、成長できてるのかな?」
「あったりめえよ!そろそろ中層行ってもいいぜ俺は」
「まあ、要領はだいたい掴めたしいいか。」
「それならそこを真っ直ぐ行って突き当たりが——」
「ん?どうしたんだ、レナ」
「おかしいのよ」
「おかしいってなにが?」
「ちょっとこれ見てみて!!マップではあんなとこに曲がり角なんてないはずなのよ」
レナに言われてマップを見てみるがたしかにマップには無い道があった。
「じゃあ、マップが間違ってたんじゃねーの?」
「そんなわけないでしょ!もし本当に間違ってるんなら誰かがギルドに報告しているはずよ。それだけでいくら貰えると思ってるの?」
「でもよ、それならあの道はなんなんだよ!」
「それは、」
「罠か、もしくは…」
「「「宝箱!!!」」」
ダンジョンに無邪気な少年達の声が響き渡った。
転生したけど俺YOEEE かかか @kaiseeeeei
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