第15話

「どりゃあ!!」


 ライエルが振り下ろした長剣によって、グレーウルフは魔石を残し霧散する。


「ふう、そろそろこのスピードにも慣れてきたし、3匹なら余裕だな!!」


「そうね、まあ3匹以上出たことないけど。」


 俺たちは今上層最下層である10階層にいる。


「そろそろ中層に行ってみるか…」


「なんだよ!カイにしてはいいこと言うじゃねえか」


「まあ、とりあえずこの階層までなら危なげなく対処できるようになったしな。」


「そうだね、僕も盾新しくしてからは1度も攻撃受けてないよ!」


「でも、中層からって、」


「うん、ダークウルフがでる。簡単に言えばグレーウルフの上位互換だな。身体能力が段違いらしい。」


「ダークウルフか、よし!!じゃあそいつを倒しに行こうぜ!」


「はあ、今日はここまでだ。いつもより戦闘回数も多かったし、この先には明日しっかり準備をしてから行こう。」


「わかってるよ。言ってみただけだろ?腹も減ったし、俺は早く飯食いてえよ」


「今日は、魔石を換金したら先に飯にするか。それでもいいか?レナ」


「まあ、たまにはそれでもいいわよ」


「んじゃ、レッツゴー」




「今日もお疲れな、兄ちゃん達。お、今日はいつもより多めだな。」


「ジョーさんもお疲れ様です。ええ、今日はちょっと多めに魔物と遭遇できたので!索敵スキルでもあったらもっと楽なんですけどね。」


「兄ちゃん達は索敵持ちはいないんだったか、それでこの量なら大したもんだ!コツコツ頑張れよ!誰かさん達とは違ってな」


「誰かさん?」


「なんだ、聞いてねえのか?こないだ兄ちゃん達に絡んでた新人がいたろ?」


「ああ、ロイ達ですか?」


 そういえばあれから会ってないな。


「そうだよそいつら。なんでもテミア史上最短でダンジョンをクリアしたとかで、話題になってんだよ。たしか、西のダンジョンだったか?」


「あいつらが、」


「ロイくん達すごいね」


「そうだな、今度あったらおめでとうくらい言ってやろうぜ」


「そうだな!」


「なんで?なんであんな奴らにそんなこと言う必要があるのよ?」


「なんでって、すげえことなんだろ?まあ、あのレスターってのはちょっと嫌な奴だったけどよ。ロイはいいやつそうだったじゃねえか」


「私はあいつが1番気に食わなかったわ。どう見ても私たちの事を小馬鹿にしてたわ!!私たちの身なりをじっくり見て、鼻で笑ってたもの。間違いないわ!」


「やっぱ嬢ちゃんもそう思うか?俺もあいつの態度が気にくわねえんだよ。いいやつぶってるが、ぜってえ裏があるぜ。」


 レナもジョーさんもロイ達の事をそういうふうに見てたのか。

 ジョーさんは分からないが、レナはこういうことには人一倍敏感だ。

 そのレナが言うんだ、多分間違っていないんだろう。


 いいやつだと思ったんだけどなあ。


「なんだそれ、あいつあんな顔してそんな事考えてやがったのか」


「そんな風には見えなかったのにね…」


 正直俺はロイが嫌なやつかもしれないってことよりも、同年代の冒険者に圧倒的な差を見せつけられた気がして、悔しい気持ちの方が大きかった。


 その気持ちは、みんなも一緒だったんだろう。

 その日から俺の特訓にライエルとゴードンも参加し、レナはシルさんの店で魔導書を買ってきて、魔法の勉強を始めたみたいだ。


 英雄は1日にして成らずって事だな。

 知らんけど!!




 翌日


「今日は中層まで行くんだよな?」


「そのつもりだ。今日からダンジョンクリアも視野に入れてく。」


「そうね。私たちも負けてられないわ。」


「うん。僕も気合満タンだよ。」


「んじゃ、行くか!」


「「「おう!」」」


 さすがに毎日ダンジョンに潜っているので、10階層まではすぐにたどり着いた。

 2度だけグレーウルフと戦闘になったけど、幸い1匹ずつだったので大して体力も魔力も消費していない。


 ここから11階層、中層だ。


 初めてのダンジョンでの反省も活かして、階段を慎重に降りる。

 スタンピードの時以外は、上層、中層、下層間を移動することはないと言われているが念には念をだ。


「上層と大差ねえな」


「まあ、同じダンジョン内だからな」


「早速おでましみたいだな」


 10メートルほど先の曲がり角から、様子を伺う魔物の姿が見えた。


「グルル」


「あれがダークウルフね。」


「真っ黒なだけで、大きさはグレーウルフと変わらないかな?」


「油断するなよ?」


「わかってるよ」


「ゴードン、前に出てくれ。階段を後ろにして戦う。後ろの警戒はしなくていい。」


「うん。」


「グルルル」


 ダークウルフは黄色い狼独特の鋭い瞳で睨みつけてくる。


 いつでも動けるように腰を落とし、短剣を構えた。


 ダークウルフがゴードン目掛けて突進するが、盾で防ぐ。


 盾に当たって怯んだのかダークウルフは再び距離を取った。


 スピードは体感的にはグレーウルフのほぼ2倍だ。

 たぶんもっと遅いんだろうけど、グレーウルフに慣れたのもあってか、目で追うのがやっとだった。


 それに、予備動作なしのトップスピードで動いてくるので、緩急をつけられると見失ってしまいそうだ。


「はええな」


「たまたま盾に当たってくれたから良かったけど、ほとんど反応できなかったや。」


「あれだけ早いと魔法も当てられそうにないかも」


「こればっかは慣れるしかない。俺たち3人でなんとか抑えるから弱ったところにレナの魔法でトドメをさそう。」


「分かったわ。3人には負担をかけちゃうけどよろしくね。」


「まかせろ!」


 ゴードンに先頭に立ってもらう。

 ダークウルフは先程と同様にゴードンに向かって突進していく。


 間合いを取られないように俺とライエルで回り込んで囲む。


 正直、間合いを取られてスピードを活かされたら、太刀打ちできない。


 こうなってしまえば確変状態だ。


 3人で少しずつダメージを与え、攻撃の的を絞らせない。


 そもそも動物というのは、一撃でも与えれば身体能力は大幅に低下する。いくら魔物の生命力が段違いで優れているとはいえ、そこは大きくは変わらない。


 頭も足も何度も斬り付けた。

 どう考えても、これでまだ動いている方が異常だ。


「ゴードン避けてね!”ファイヤーボール”」


 足を重点的に攻撃したこともあって、ダークウルフは避けることも出来ずレナの魔法によって焼かれる。

 こういった身体能力に特化した魔物は魔法耐性が弱いことが多く、効果は抜群だ。


 先程までダークウルフが悶えていた場所に魔石だけが残る。

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