最終話 何も決断できなかった末の選択

 翌日の朝。

 俺は最寄り駅のホームにあるベンチに座っていた。

 俺はスマホを出すなり、昨日、白瀬妹に返事をしたLINEを見る。返ってくるメッセージを確かめる限り、もうすぐやってくるはずだ。

 俺はため息をつき、白瀬妹と学校の最寄り駅にあるホームであったことを思い出す。

「結局、俺は色々と何も決断できなかったのかもしれないな」

 おもむろに口をしてみるも、反応はない。

 かと思ったが。

「悩んでるみたいだね」

 顔をやれば、正面に制服姿の白瀬妹が小首を傾げて現れていた。

「白瀬……」

 俺が声をこぼすと、白瀬妹はおもむろに横へ座る。

「あの後、姉と何か話したかもしれないけど、わたしは聞かないよ。ううん、聞きたくないという意味の間違いかな」

「白瀬の姉さんも結構、色々とあったんだな」

 俺が言葉を漏らすと、白瀬妹はどこか不満げな表情を浮かべる。

「わたしに姉の話をして、どう感じるかは、成瀬くんはわかってるよね?」

「ああ、嫌というほど、わかるな」

 俺は答えると、おもむろにベンチから立ち上がる。

 目の前にはホームの先、電車がやってきていない線路が敷かれているはず。

 俺はなぜか、そこへ吸い込まれるように足を進ませていく。

 と、ホームの音声自動案内が流れる。

「まもなく、電車が通過します」

 白瀬は気づいたのだろう、慌てて、俺の腕を掴んでくる。

「それは卑怯だよ?」

「何がだ?」

「まさか、わたしを置いていくなんてことはないよね?」

 見れば、白瀬妹は瞳を潤ませていた。

「成瀬くん、LINEで返事くれたよね? わたしが『わたし、本当に記憶喪失になった方がよかったかなって』に対して」

「そうだな」

「その時に返してくれたメッセージ、今度は成瀬くんの口から直接、今ここでわたしに言ってくれないかな?」

「ここでか?」

「そうだよ」

 白瀬妹の催促に俺は困り果てて、髪を掻く。

 もうすぐ電車がやってくる。特急列車で通過をしていく奴だ。直線なので、速度を緩ませずに走っていくはず。

「『それだったら、俺のことを好きにならなかったよな?』だろ」

「あっ、本当に言ってくれた」

「別に、大したこと言ってないだろ」

「成瀬くんにとってはそうかもしれないけど、わたしにとっては特別なんだよ」

「そういうもんか」

「そういうものだよ」

 白瀬妹は言うなり、頬を緩ませる。

 俺は頬を掻き、否応なく照れてしまう。

「じゃあな」

 俺は最後の力を振り絞って、俺の腕を掴んでいた白瀬妹の手から離れる。

「成瀬くん!」

 白瀬妹は叫ぶも、俺は振り返ろうとしない。

 既に、俺の体はホームから線路の方へ飛び降りていて。

 同時に、横から鳴りやまない警笛音と急ブレーキの摩擦音があたりに響き渡っていた。

「間に合わないだろうな」

 俺は当たり前のことを言いつつ、瞼を閉じる。

 その後のことは様々な刺激があった。

 衝撃やら、激しい痛みやら、薄らいでいく意識とか。

 でも、確かに言い切れることは。

 俺がこの世からいなくなったという、ひとりの人間が死んだという事柄が起きただけだ。

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ぼっちの俺が告白を断ろうとしたら、クラス委員長の彼女は電車に飛び込もうとしたんだが。 青見銀縁 @aomi_ginbuchi

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