朱殷

楪 玲華

#d20a13

「一緒に死んじゃおうよ。」

そうやって言った癖に、君ばっかり先に逝っちゃってさ。あーあ。死ぬ勇気は君が全部持っていってしまったし、生きる希望は今こうして目の前で段々と冷たくなっているし、全く僕はどうしたらいいんだ。いつも曲がりなりにも答えをくれていた君はもういない。阿呆らしいな。きっと朝になれば僕はまた現実に捕まってしまうから、せめて最後になってしまった君との時間を楽しもうと思う。


君は、僕の理想形だった。嫌な所が無かった訳ではないが、僕が知っている人間の中で一番理想に近かった。だから、君が死にたいと口に出した時、嬉しいような、悲しいような、複雑な気分になった。そんな所まで理想通りじゃなくて良かったんだよ。神様はいつも加減を知らない。


僕の死にたいはきっと君への嫉妬くらいの感情でしかなかった。この心に渦巻く混沌としたものに名前が付けば何でも良かった。でも君の死にたいは僕のそれより何十倍も重たくて、いつかは自然と実行されるものだったんだと思う。そのきっかけがたまたま僕だっただけ。そう思う事にするよ。そうだ。当然の結果だったんだ。どの道を選んだって、ここに辿り着いてしまうのだろう?何故死んでまで君がこうも美しいのか、僕みたいな愚鈍な人間には到底理解出来そうにない。


いつもなら君が笑って、また馬鹿な事考えてるでしょって、そんな難しい顔しないでって、そう言ってくれるのに。君がいないと僕の思考は簡単に沈んでいく。人間とは、案外脆くて弱い。君を失って初めて知るなんて皮肉にも程があるだろ。いや、脆くて弱かったのは君だからかもしれない。現に僕はまだ、こうして息をしているんだから。


僕のこの無駄な強さを死ぬ前に君に分けてあげたかった。君がずっと隠していたその弱さをもっと早く知っておきたかった。僕は無力だ。いつも甘えてばかりで、君の事が見えていなかった。こんなにも大切な存在だったのに。馬鹿だった。気が付くべきだった。君は僕に一度も助けてとは言わなかった。最後の最後まで、君は僕の手を借りようとはしなかった。


なあ、一つだけ訊かせてくれ。

君は今、幸せかい?


僕の事も、その幸せな世界に連れて行ってくれよ。


償いという名に変えてしまえば生きる意味として正当化出来るなんて卑怯だ。君はそれほどに策士だったのか。そんな事しなくたって既に君は僕の頭にずっと住み着いているし、どうせこれからだって一時たりとも出ていきやしないのに。それとも、君も知らなかったのかい?はたまた僕の考えすぎかい?ああ。いくら悩んだって答えは出ないのに、な。君の体温はもう、これっぽっちも残っちゃいなかった。


もうじき夜が明けるだろう。鳥の囀りが聞こえる。仕方ない、認めよう。僕の負けだ。これでいいだろう、なあ?だから、戻ってきてくれよ。答えてくれよ。命ってなんだよ。死ぬってなんだよ。教えてくれよ。分からないんだ。僕はまだ、分かりたくないんだよ。



君の冷えきった体の傍ら、眠っている僕が、数時間後に大人達の力によって発見されました。

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