第15話 紫の上の苦悩
源氏は晩年になって、兄の朱雀院の娘である女三宮と結婚します。女三宮は皇女であるから、源氏の元に降嫁する形になります。源氏は住まいの六条邸に女三宮を迎えます。
それまで、源氏の正妻は紫の上でしたが、身分上、女三宮が上だから、世間的には女三宮が正妻ということになります。
紫の上は悲しみに暮れます。今まで、他の女君とも何とかうまくやり過ごして、ここまで平和に源氏と仲睦まじく暮らしてきたのに、今頃になって、こんな憂き目を見ようとは思いもかけないことでした。それでも、紫の上はそんなつらい気持ちを自分の胸1つにしまい、源氏の前ではなにげないように過ごします。
女三宮は源氏の期待を裏切って、ただただ幼いばかりの姫君で、源氏は、がっかりします。もともと親子ほどの年の差がある年の差婚ですから、妻というよりは、娘のように、いろいろ教え諭して、ご後見します。はたから見たら、とても丁寧に、何事にも気を配り、大切に扱います
それでも、女三宮が期待外れだった分、紫の上への愛情がいや増すばかりで、そんな源氏にとまどいながらも、紫の上は、心の苦しみを表に出さず、源氏の君の前ではどこまでも思慮深くふるまいます。
それでも、独り寝の夜には、女の人生とは何と虚しいものかと、袖を涙で濡らします。
物心ついた時には、もう、源氏の元にいた自分は、源氏の心だけを頼りに生きてきたのに、これからは、若い女君に、その愛情を奪われ、自分など見捨てられるのではないかという思いもこみあげます。いっそ念願の出家をしたいと源氏に懇願しますが、源氏は絶対に許しません。
そうしているうちに、紫の上を病魔が襲います。病状は一進一退、物の怪が取りついているようなのですが、なかなか、消えてくれません。ある日、紫の上は息を引き取ってしまいます。そこへ現れた物の怪が、あの亡き六条の御息所の怨霊で、源氏に恨み言を述べます。それからしばらくして、紫の上は息を吹き返します。
源氏は紫の上の看病に夢中で、女三宮のところへは通いません。そんなどさくさに紛れて、柏木という男君が、女房の手引きで、女三宮に無理やりエッチをしてしまいます。この柏木と女三宮のことについては、また、別の機会にお話するとして、今は紫の上のことについてお話したいと思います。
紫の上は何とか息を吹き返し、生き返りましたが、それからはずっと病気がちで、どんどん衰弱していきます。源氏はあらゆる加持祈祷を行いますが、そのかいもなく、紫の上はついに亡くなってしまいます。
紫の上は最後まで、自分が先に死んでいったら、源氏の君がどんなに嘆かれるだろうとそればかりを気にかけて、死んでいくのでした。
まだ、30代の死はあまりにも早すぎます。
もし、女三宮の御降嫁がなかったら、もしかしたら、紫の上は、もっと長生きしたのではないかと私は思います。女三宮の登場によって、紫の上が心につらい気持ちを抑え込むようになってから、そのストレスから、紫の上は死にいたったのではないかと私は思います。
そして、皮肉なことに、女三宮と結婚してから、源氏がますます紫の上への寵愛が厚くなったのも事実です。
それでも、紫の上にとっては、女三宮と源氏の結婚は、心の中で苦悩となってどうしても割り切れず、つらいことだったでしょう。まして、相手は皇女です。幼い頃から源氏だけを頼りに生きてきた紫の上にとって、若い女三宮との結婚は、自らの寿命を縮めるほど、苦しく、いつも心にのしかかっていたに違いありません。
紫式部は、この紫の上を短命にし、源氏に大きな罰を与えたと私は考えます。断ろうと思えば断れた女三宮との結婚。それを受け入れ、紫の上の苦悩も知らずに、形だけとはいえ、正妻を持ったこと。その罰として、紫の上をこんなに早く、この世から奪ったのだと思います。
紫の上をうしなった後の源氏は、ただただ、嘆いて暮らし、やがて、出家して、亡くなります。灯台下暗しとはよく言ったものです。いつも身近にいすぎて紫の上のその大切さに気が付かなかった源氏。愚かな源氏。紫式部はそんな源氏の姿を描いて、紫の上がどんなに源氏にとって大切な女性であったかを繰り返し繰り返し語ります。
紫式部は、光源氏に、若い頃は浮気心のままにやりたい放題させて、やがて栄華を極め、六条邸に女君たちを住まわせて、いわば、ハーレム状態の人生を送らせます。
しかし、源氏に子宝にめぐまれないこと、最愛の
紫式部は、この世のはかなさ、無常さを最後の最後に、光源氏につきつけるのです。
そういう意味では、源氏物語は、ただのイケメンがもてまくる話ではなく、人生の残酷さを描いた作品であるとも思います。
これは、今の時代にも通じる物語だと思います。
因果応報。
この言葉が源氏物語の大きなテーマだと思います。
読んでいただきありがとうございました。
楽しい源氏物語 有間 洋 @yorimasanoriko
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