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 帰り際に浮いた風の先方が、自動車の明るいライトに跳ねていた。画材を足したライトの線を、長い影が解いている。音を響かせるエンジンは強い力で夕暮れを巻き取って、風の先方だけが残されていた。紙、ペン、それかカメラがあったなら、忘れない記録に残せたかもしれない。だけど過去には記録はなくて、結末の多くが生まれていたから。風の先方も珍しくはなかった。バネの軋む太陽の台座は、星に砕けて再生する。月が破いた夜の壁も、風があるうちに直されるだろうか。まだ帰るだけの静けさと、風の先方は、肺に触ると過去へと消えた。

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残るもの フラワー @garo5

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