2部 第4話

 冷たくゴツゴツした岩肌に砂塵が舞い、乾いた風は吹き抜ける。このような時代でも首都となるとやはり美しかった。


   山肌を覆い芽吹く草花たち。雲のように白い綿毛は宙を舞い一面に広がる。長く続く破滅種(ハガル)との戦いによって、大きく激変してしまった世界においても、短い春の訪れを感じさせるものはあるのだ。


 四方を険しい山脈に囲まれ都市。

『皇都ミズガルズ』


 人類圏における最大規模を誇る国家の一つである。


 その南区に設けられている士官学校内の一画にに学生たちが集まっていた。


 ある者はソワソワしながら、またある者はなにか諦めているような達観した感じなど、様々な者が先の試験の結果を今か今かと待っていた。


 やがて試験結果が張り出されると、ところどころで悲喜交交な声があがっていた。


 そのなかに一人の少女が無表情に結果を見つめていた。

 

 肌は白磁器のように白く、髪は艶やかなシルバープラチナの少女。

 

 彼女の名はウルド。今回の試験における首席である。


 無愛想に唇を曲げて、一見すると不機嫌なようにみえるがよくよくみると、唇がプルプル震えている。そうしないと今すぐにでも、にやけてしまうからだ。


 元々ウルドは孤児であった。彼女が霊装士の才能を見いだされ、皇都につれてこられたのは六歳くらいの時だった。

 以来十年近く厳しく過酷な訓練によっていまの実力にまで上り詰めたのだ。

 

 孤児であったがゆえに何も後ろ楯のない彼女がここまでくるのには、想像を絶するような努力があったであろう。


 ウルドはそそくさとその場をあとにした。これ以上無表情を維持するのが厳しいためであるのは明らかであった。


「やぁやぁ、そこのお嬢さん。ちょっと待って貰えるかな?」


 学園を出てすぐ、ウルドを呼び止める声がしたのはその時だった。

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滝本くんに平穏な日常は訪れるの? 小鳥遊 雅隆 @Roaxroa

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