第9話 元に戻るには

 あらかた食事を終えてひと段落したとき、おじいさんが話し出した。

「さて、そろそろ本題といこうか。君たちは一体どこから来たんじゃ。」これまでの出来事を全て話した。

「なるほど。光に包まれて気づいたらあの森にいたと。」おじいさんは髭をなぞりながら考えこんだ。

「僕達はどうしたら元の世界に戻れるでしょうか。」

「それは難しい質問じゃの。長年生きてきたワシにもわからん。世の中には理屈じゃ説明できないことは山ほどある。」

「やはりそうですよね。」

「まあ、唯一残された鍵は女王様に相談することかの。」

「女王様!?」私達は口を揃えて言った。

「あの城壁を見たじゃろう。あそこは白の王国と言ってルベル様が治めておる。ルベル様は魔法が使えるらしく、様々な病気を治しては国民を安心させているらしい。」魔法なんて実在するわけないじゃない。このおじいさんは一体何を言ってるのかしら。私の気持ちを悟ったかのように

「魔法なんて本当にあるんですか。」ヴェルが尋ねた。

「詳しいことは知らんが魔法が使えるのは本当じゃ。現にあの国の人々は病気にも滅多にかかることなく、幸せに暮らしとる。彼らはそれをホワイト様の魔法のお力だと言う」

「じゃあ僕達もそこに行けば元に戻れるかもしれないんですね。」ヴェルは興奮して立ち上がった。

「落ち着け。そう簡単に行けるもんでもないんじゃ。」おじいさんはヴェルを宥めてそう言った。

「そんな、、、。」ヴェルは分かりやすく肩を落とした。

「じゃあ私達は元の世界に戻れないんですか。」

「じいちゃん、この人達を助けてあげてよ。お姉さん達はワルドを捕まえてくれたんだ。」フィオが机に両手をバンっと叩いた。ワルドがびくりと驚いてフィオに近づく。

「大きな声を出してごめんね。もう大丈夫だよワルド。」優しい目でワルドを見つめるフィオをみんなが見つめる。

「落ち着きなさい。何も方法がないとは言っておらん。」

「方法はあるんですか。」思わず声を出した。

「あるにはあるんじゃが、少し時間がかかるんじゃ。」そう言いおじいさんは立ち上がった。どこからか鳥籠のようなものを持って来た。その中には真っ白な鳥がいた。

「こいつを使うんじゃ。」

「鳥ですか。」

「こいつを使って向こうにいる私の友人に手紙を送る。あの国に入るには住民である証明か、招待客である証拠が必要なんじゃ。だからワシの友人に二人を招待してもらうようお願いする。」やっと希望が見えた。私達は目を輝かす。

「ただ時間もかかるし、すぐに上手くいくとは限らん。それでもやってみるかい。」私達は顔を見合わせ頷く。そして声を揃えて

「お願いします。」そう答えた。

「元気がいいのう。」

「お姉さん達はよかったね。」フィオは自分のことのように喜んでいた。

「そうしたら今すぐ取り掛かろう。」そう言い紙とペンを用意した。

「え、夜なのに大丈夫なんですか。」ヴェルが尋ねる。確かに鳥は夜飛べないはずだ。

「何を言っている。この子らは夜こそ飛ぶんじゃぞ。」籠から鳥を一羽取り出した。真っ白の羽にグレーの目をした綺麗な鳥だった。

「そう言えばお前らの名前は何と言うんじゃ。」

「自己紹介がまだでしたね。僕はヴェル。」

「私はロサです。よろしくお願いします。」

「ヴェルにロサか。お前ら付き合っとるのか。」

「な、違いますよ。そんな付き合うだなんて恐れ多いです。」ヴェルが必死に否定する。

「たまたま一緒に来てしまっただけです。何の関係もない赤の他人です。」キッパリ言い張った。

「そうなのか。まあ仲間がいることは心強いぞ。大事にしなさい。」

「はい。」ヴェルが大きな声で答えた。おじいさんは頷き、私の方を見た。私は目を合わせないようにした。

「ワシはパドゥーブ。フィオのおじいさんじゃ。パドゥーブでもおじいさんでも好きに呼びなさい。ここでフィオとワルドと暮らしておる。」

「じいちゃんはすごいんだよ。何でも知ってるし、ご飯だって美味しいんだから。」フィオが誇らしげに言う。

「そうだね。」ヴェルが答える。おじいさんは紙に色々書き込み、鳥の足に結びつけた。そして立ち上がり窓辺に立った。私達も後を追った。窓を開けて鳥を飛ばした。

「頼んだよ。」フィオが飛立つ鳥にそう声をかけた。

「今できるだけのことはした。後は待つだけじゃ。二人とも疲れたじゃろ。部屋で休むといい。フィオ、二人を部屋に案内してあげなさい。ついでに風呂の場所もな。」

「わかった。二人共行こう。」おじいさんにお礼を言って、フィオの後を追う。二階の空いている部屋に案内してくれた。何かあったら呼んでね。そう言ってフィオは部屋を出て行く。


 「ふぅ。」思わずため息が出た。ヴェルも疲れたのだろう。ベットに大きく倒れ込んだ。

「優しい人達でよかったね。とりあえずはなんとかなりそうだ。」倒れたまま顔だけをこちらに向けて言う。

「そうね。これで終わるといいんだけど。」私達はそのまま眠り込んでしまった。


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赤の刻印 小鞠 @bbc1207

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