スープ

 「お姉さん達はどこから来たの。」その問いに私達は顔を見合わせる。

「わからないのよ。」ロサが先に答えた。

「そうなんだ。それは困ったね。家にも帰れないじゃないか。」少年はわからないの言葉に疑問を持つことなく、さも当然かのようにそう答えた。その違和感に気づくことはなく、二人は何も答えられなかった。


 「とにかく家で美味しいご飯を食べよう。そこから考えればいいよ。それに僕のじいちゃんに聞けば何かわかるかもしれないよ。」少年はテンションを高めにそう言った。とても自慢げに聞こえるが、嫌味には聞こえない。少年の子どもらしさ故だろうか。それともそれが少年の魅力なのだろうか。


 「ありがとう。それじゃあそうさせてもらうわ。」ロサが優しく微笑む。

「そういえば自己紹介がまだだったね。僕の名前はソッフィオーネ。フィオって呼んでね。」フィオは私達の方を向いてそう言った。

「私の名前はロサ。よろしくね。」

「僕はヴェレットだ。ヴェルでいいよ。」

「ロサにヴェルだね。よろしく。」心なしかフィオの耳がぴくぴくと動いているようだった。彼は私達に満面の笑みを向ける。

「あ、家が見えたよ。」フィオが指差す先を見る。


 そこには絵本で見るような煙突のついた三角屋根の小さな家があった。周りは森に囲まれており、その中にぽつんと存在する。横には薪割りをするのだろうか、少し大きな切り株の周りには丸太と斧が置いてある。木で出来た扉を開けて中に入ると、目の前には暖炉やロッキングチェアがあり、本当に絵本の世界みたいだった。


「ちょっと待っててね。今じいちゃんを呼んでくるから。」そう言って部屋の奥に消えていった。


 周りを見渡すと部屋の作り自体は普通だった。リビングの先にはキッチンがある。キッチンの方に足を踏み入れる。私が知っているキッチンと同じように、鍋や包丁があった。しかし置いてある野菜や植物の見た目が私の知っているものと少し違うようだ。人参のような紫色のもの、形が四角いかぼちゃのような野菜。葉物の野菜は黄色かった。


 「普通の家っぽいよね。」

「そうみたいね。少し古いような気もするけど。」私達は少しだけ室内を観察した。特に変なところはないし、安心できそうだ。

「じいちゃん早く早く。」フィオに手を引かれ、一人の老人が入ってきた。


 少し腰を曲げた白髭の老人だった。髭は顎から胸の辺りまで長く伸びている。顔は皺が多く、目元もそのせいで瞳がよく見えない。

「わかったから、そんな引っ張るでない。」老人は僕らを見つけると近づき、凝視した。

「おやおや。君らは一体どこから来たんだい。ここの住人じゃなかろう。」

「え、じいちゃんなんでわかったの。」フィオが驚く声を上げた。本当だ。どうしてわかったのだろう。

「とにかく疲れただろう。すぐ飯にするから待っておれ。フィオ、さっさと席に案内してあげな。」老人はその質問が聞こえなかったのか、答えはしない。私の耳にはしっかり届いたのに。

「わかった。二人ともこっちだよ。」フィオはその質問もなかったかのように私達を案内した。リビングの先にあるダイニングに連れていかれた。木のテーブルと椅子が四つ並ぶ。その椅子に腰掛けた。


 老人が奥のキッチンであっという間に何かを作った。老人はそのまま私達の前に座った。フィオがお盆に四人分のそれを持って来た。机の上にはカップに入れられた熱々のスープとパンが並べられた。パンはごく一般的なロールパンだった。スープは先程キッチンにあった野菜を使ったのだろう、紫やピンクのカラフルな野菜が浮かんでいた。


 「とにかく食べなさい。」老人は優しく微笑んだ。フィオは老人の隣に腰掛けいただきますと大きな声で言った。それに私達も続いた。先にパンをちぎり、一口食べる。スープに手をつけるのを戸惑うが、美味しそうに食べるフィオを見て、スプーンを握る。思えば昼食もろくに取ってなかった。口に運んだ温かいスープが食道を通り、胃に落ちる。とても安心する味だ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る