俺はロボットなんかじゃない
一粒の角砂糖
俺はロボットなんかじゃない
【昨日未明、40代男性が居酒屋にて暴動か。男性は改造処置を受けたとの事です。】
「また事件かよ笑えるぜほんと。間抜け共が騒ぎを起こしやがって。」
アパートの一室。
家具だけがハイテクな部屋は、ビールの空き缶。食いかけの食べ物。洗濯をしてない靴下やパンツが散らばる。
朝の日課のラジオ体操を終わらせ、今日もニュースを見ながら、鼻をほじる。
「ったく。こういう奴がロボットとかいうやつに改造されて工場から出てくんのかよ。昔みたいに逮捕するなり死刑にでもしやがれってんだ。」
逮捕制度がなくなり、犯罪を犯した人間を改造し、二度とミスが出来ないような人間へと半強制的に更生させることが主流になってしまった世の中に愚痴をこぼす。
「そういや居酒屋で思い出した。帰りに焼き鳥を持ち帰ったような……。」
うろ覚えの記憶を頼りに、体の3分の2ほどの大きさの小さな冷蔵庫を開けるが、それらしきものは見つからなかった。
「……しゃーねぇ。コンビニに買いに行くか。」
酒臭い男は扉を開けて外に出た。
「こういう時はビールに限るな。」
時刻は朝の9時。少し込み合った都会の歩道で中年太りした腹の肉を揺らしながら、パツパツになったズボンのポケットにカッコつけるためか、癖かは分からないが手を突っ込む。
「こんなかにもきっとロボットはいるんやろうな。」横断歩道の赤信号で通勤中の人に囲まれながらそんなことを思い、スタスタと一直線にコンビニに歩いていった。
「しゃーせー。」
クマのできた青年がやる気無さそうに、挨拶をする。態度が悪いが、それは男も同じだ。
コンビニに入ってすぐ大きめのサイズのビールといつものおつまみの裂きイカをレジの横に置いて「シトラス。」と、タバコの名前をボソリと呟いた。
「ジータスでいいっすか?」
男を見下ろすようにして、台の上からタバコの箱をちらりと見せる。
「ちげぇよ黒のシトラスだってんだろ。」
露骨に嫌そうな顔をした。
「番号で言ってくんねーとわかんねーっすって。お会計70……あ、ロボ割使います?」
聞こえないように小さく悪態をついた後「よっと」と言って降りながら、ごく自然にそう聞いた。
「んだとてめぇ!?誰がロボだっつってんだ!?てめぇの目は節穴か!?節穴なら俺が今すぐ潰してやろうか!」
【ロボ割】というロボット限定の割引。その扱いを。ロボットだと思われたことに男は激昂し、青年の胸ぐらをつかんで怒鳴り散らす。
「すんませんすんません間違いましたサーセン……お会計706円っす。」
青年は、殴りかかられそうなのを宥めるように素直に謝り、面倒くさそうにレジ打ちを進めた。
「おらよ……チッ。二度と来るかこんな店。」
不機嫌そうに男はピッタリとお金を払い舌打ちをしながら出ていった。
「あの人寝ぼけてんすかね……それとも俺っちが寝ぼけてんかな……。」
「あー不愉快だぜ全く……ほんとにあー言うやつが人間として残ってるのもどうなんだよほんと。しっかりしろよ政府。」
堂々と歩きタバコを吹かしながら、さっき歩いて来た道を振り返る。
行きに歩いた時は人がもう少しいたはずなのだが、数分違うだけでもここまで人が居なくなるものなのかと、ぼーっとしながら歩いているときだった。
「すんません。少しお時間いいですか。」
肩に手を置かれた中年が振り返るとそこには、青い制服を着て、帽子をかぶった姿の人がいた。
もちろん警察だ。
「やばっ。」
すぐさまくわえていたタバコの先端をを警官の手にグリグリと押し付け、痛がっている隙に走り出す。
「待て!!止まるんだ!!」
片手を抑えながらも男に向かって、そう叫ぶ警官。
「はは!誰が止まるかよ馬鹿野郎!俺はロボットみたいに従順じゃねぇんだよ!!!」
と、捨て台詞を吐いた。その時だった。
グシャッ。
赤色の歩行者信号。青色の車道信号に突っ込んだ男は、大型トラックに勢いよくはね飛ばされた。
男が持っていたコンビニ袋は衝撃で宙を舞い、勢いよく缶ビールが破裂する。
腕がもげ、裂けるとその断面からオイルと漏電したコードが丸出しになる。
飛ばされた腕が近くにあるオフィスビルの窓を割ると同時に、ロボットは道路の真ん中にガシャンという音を立てて、打ち付けられる。
全ての間接はグチャグチャになっており、頭は半回転して、残った片腕は関節とは逆の方向に曲がり、足はコード1本でようやく繋がっている。
はね飛ばしたトラックは、接触した瞬間に前方を大きく破損し、エンジンが壊れてすぐさま止まった。
「だから止まれと言ったのに。」
呆れ顔で、ロボットだったものの背中の部分を見てトランシーバーを持つ。
「No.563。トラックに引かれ破損。工場にて修理をお願いします……。」
「……563。分かりました。あれ……私の間違いでなければこの人昨日初めて工場に来た人では無いですか?」
「はね飛ばされたんだよ。トラックに。不運な奴だ。」
「それはそれは……分かりました。直ぐにそちらに工場員を向かわせます。」
車のない大通りの真ん中で、短いやり取りを終えた彼はトラックの運転手の元へ駆け寄り、「君。ナンバーは背中にあるかい?」
優しく。笑顔でそう聞いた。
___________________________
【昨日の9時半頃、男性がトラックに引かれ重体。運転手は人間だったとして改造処置を受けたそうです。】
「またかよほんと。アホだなこいつら……そういや昨日買ったビールが冷蔵庫に……。」
男性は今日も何事もなくラジオ体操を終わらせニュースを見ていた。
昨日の記憶をめぐらせながら、冷蔵庫を漁る。
「あれ、ねぇや。まぁいいか。コンビニ行くか。」
こうして、ロボットはこれから。
規則的に動き続ける。
気付かぬうちに二度と行かないはずのコンビニに足を進めた。
俺はロボットなんかじゃない 一粒の角砂糖 @kasyuluta
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
恋の方程式/一粒の角砂糖
★3 エッセイ・ノンフィクション 完結済 1話
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます