あなたの永遠に。
巡
幼なじみの彼女。
幽霊というものは、この世に未練があるから成仏できずに留まっている、という。
漫画や本、テレビで見る幽霊は皆、成仏されたがっている。
『、、、ねぇ』
人が死ぬことはよく思われないのに、幽霊が消えることは良い事のように語られる。彼らの想いはどうなのだろう。
『、、、ねぇ!』
彼らの未練がなくなり、気持ちが満たされた時、それでも尚彼らがこの世に留まりたいと願ったとしても、それは叶わないのだろうか。
『、、ねぇってば!!』
「うぉぉ、、びっくりした。」
『ずーっと呼んでたんだよ?難しい顔して何考えてたのよ。』
「え、、と、なんだっけ。もう忘れたわ。」
『ふーん、、。ま、いいや!それより今度の夏休みはどこにいく?去年は海行ったよね!その前はキャンプに行ったし、、あれ?山登りだっけ?もうたくさん行き過ぎて忘れちゃった!』
「なんだかんだもう5年くらい続く恒例行事だしなぁ。」
『そうねぇ。もうだいぶ行くところ限られてきてるねぇ。やっぱり遊園地いこーよ!あのお城がある遊園地!いきたいよー!!』
「んー、、子供っぽくないか?」
『もー!毎年そういって断るじゃん!』
俺たちは7年前の8月7日、近所の神社でばったり出会った。その日からずっと一緒だ。今では8月7日は『はなたく記念日』となっていて、毎年どこかへ遊びに出かけている。
「まぁ、それはこれから考えたらいいだろ。そんなことより俺は明日の課題をやらねばなんのだ。」
『そんなことってなによ!大事な日じゃない!』
「今は明日提出の課題の方がよっぽど大事だ。」
『ふーん。あたしとのことより課題の方が大事なんだ。もーいいもーん。』
「おい、どこ行くんだよ。」
『たくちゃんの知らないところ〜』
「あんま遠くいくなよ」
昔からあいつは、少しでも気に入らないことがあるとふらっとどこかへ行ってしまう。行き先を聞いてもいつも、『たくちゃんの知らないところ』としか答えない。そして気づいた時にはまた隣にいて、何も無かったような顔で、ヘラヘラ笑っているのだ。その日は結局、眠りにつくまで帰ってこなかった。
次の日の朝
「お前昨日いつ帰ってきたんだよ。」
『んー、忘れちゃった!』
「忘れたってお前なぁ、、」
『そんなこといいじゃんもう!あ、猫ちゃんだ!かーわーいーいー!』
学校の登校中。いつもと同じ道。いつもと同じ風景。いつもと同じ黄色い声。夏らしい青い暑さに包まれ、額を汗がつたう。
「よぉ!たくひろ!」
「おう、狭山。」
いつもと同じ、駄菓子屋の前の電信棒の下で、同級生の狭山と合流する。
「今日の課題やったかー?死後の世界について、自分はどのように考えるかまとめろ、ってやつ。死後の世界なんて死んでからじゃねぇとわかんねぇよなぁ。」
『あー、あれそんな課題だったんだ!たくちゃん内容中々教えてくれなかったしなぁ』
「、、、まぁでも、あったらいいよな。死後の世界。そこでまた、会いたい人と出会えるならな。」
「んだよ、てめさては彼女でも出来たな?」
『えー!!たくちゃん彼女つくったのー!?あたしというものがありながらー!?』
「おら白状しろよ!」
「うっるせぇな!いねぇよ!」
他愛のない会話。代わり映えしない日常。これでいい。これがいいんだ。これで、、。
放課後
『たくちゃんかーえろ!』
「おう。狭山じゃあな。」
「おう、じゃあな。彼女によろしく。」
帰り道。夕焼け空。薄いオレンジ色の風。視界には赤色の世界が広がる。少し曇ってきたのだろうか。青黒い雲が点々としている。
『たくちゃんたくちゃん。たくちゃんはほんとに彼女はいないの?』
「いるわけねぇだろ。」
『んじゃ、作る気は無いの?好きな子とか。』
「んー、、。いるにはいるけど。その子とどうこうなろうとはおもわないな。」
『それって、あたしに遠慮してる、、?』
「何言ってんだよ。いいから帰るぞ。」
『はぐらかさないで。たくちゃん学校で狭山くん以外と全く話さないよね?家にもすぐ帰るし、それってあたしがいるからでしょ?それに加えて、好きな子もいるのに、それがあたしに遠慮してっていうのなら、やめてよ。』
「いやだからそんなことないってば。それにそんなのお前には関係ないだろ。ほっとけよ。」
『何よそれ。やっぱり、たくちゃんあたしのこと、邪魔だと思ってるでしょ。』
「だから、、」
『もういい。』
「おい、どこいくんだよ!」
『たくちゃんの知らないところ。』
まただ。ただ今回はいつもと様子が違う。いつものあいつならあんなこと言わない。あんな自分を悪くいうような言い方をするようなやつじゃない。
(まぁでも。またその内戻ってくるだろ。その時に聞けばいいか。)
しかしそれから3日間、夏休みに入っても、あいつは帰ってこなかった。過去にも1度だけ、2日間帰らなかったことはあった。その時は、俺が『はなたく記念日』を忘れていて、別の予定をいれていたときだった。あの時、すごく不安になった俺は、どうしたんだっけ。
(まぁ、あいつのことなんだから、待ってたら帰ってくるさ。もう俺も、子供じゃないんだ。)
しかし、それから4日たっても、あのヘラヘラした笑い声は聞こえない。瞼をとじて、またひらいても、そこにピンク色の頬はない。
おはよう、と声をかけても、誰も、おはようと返してはくれない。
(なんだよ、、あいつ、どこいったんだよ。)
そして、8月6日、ついに耐えきれなくなって、俺は家を飛び出した。あぁ、そうだった。あの頃の俺も、こうやって家を飛び出したんだ。不安で、怖くて、消えてしまうんじゃないか、どこかへいってしまうんじゃないか、二度と会えないんじゃないか。そんな思いを抱えて、灰色の道路を駆け抜けて、緑色の壁をかきわけて、そして、俺は。
この神社へ、来たんだ。
「はぁ、、、はぁ、、。ここに、、いたのか、、。」
『、、、たく、、ちゃん、、?』
「いつまで家あけんだよ。1週間も家出してんじゃねぇぞ、、。」
『、、だって、私がいるとたくちゃん、自由に生きられないでしょ?いつまでもこのままじゃ、、だめじゃない。』
「何がだめなんだよ。何勝手に人の自由決めてくれてんだよ。」
『だめだよ。もっと普通に友達と遊んで、話して、普通に放課後、遊んだりして、高校から一人暮らしをはじめたのだってあたしのためでしょ?バイトもそのせいでいっぱいで、、、恋愛だって、もっと好きな子とたくさん過ごして欲しい。あたしは、たくちゃんに自由に幸せな生活を、、』
「だから!!勝手に俺の自由とか幸せとか語んなよ!!、、俺はお前のために、こんな生活送ってんじゃねぇんだよ。俺はな、俺のためにこの生活を選んでんだ。俺の幸せのためにこの生き方を選んでるんだよ。」
『たくちゃん、、、』
「だから、帰ってきてくれよ。お前がいてくれるから、俺は、幸せでいれるんだよ。」
『たくちゃん、、ごめん、、、なさい、、あたし、、、、。うん、、帰る。たくちゃんと一緒に帰る。』
「それとな、はな。」
『、、へ、、、?』
「俺は、ずっとお前が好きだ。昔から、今も、これからも好きだ。はな。」
『、、、もうばか、、これ以上泣かせてどうするのよ、、。』
「嫌か、、?」
『ううん、、嬉しい。あたしも大好きだよ、たくちゃん!』
そのまま俺たちは2人でうちへ帰った。
帰っている間、俺は、すごく幸せだった。隣をみると、こっちを見てヘラヘラ笑ってるはながいる。2人で、これからどう過ごしていこうか話す。大変だろう、辛いだろうけど、はなとなら生きていける。そう、心から、思えた。
「それじゃ、寝ようか。はな。」
『えへへぇ、名前で呼ばれるのなんだか恥ずかしいよぉ。』
「俺もなんか慣れないし恥ずかしい。けど、もうそう呼んでもいいだろ?それに、いい名前だろ?はな。」
『うん、たくちゃんが最初にくれたプレゼントだね。ほんとうに、ありがとうね。』
「、、そうだ、はな。」
『んー?どうしたの?』
「明日、はながずっと行きたがってた遊園地へ行こう。あの、お姫様のお城がある、遊園地。」
『、、ほんとに?いいの、、、??!』
「あぁ、明日はもう普通の『はなたく記念日』じゃない。新しい特別な日だからな。」
『うれしい、、!!!』
「じゃあ、早く寝よーぜ。おやすみ。はな。」
『おやすみ!』
『あぁ。あたし今、すごく、幸せ。』
翌朝
「んー、、、、ん?はな?」
部屋の中は、静かだった。
その日から、はなは消えた。
俺は急いで神社へ向かった。地面に頭をこすりつけて、雑草まみれの林の中へ体をのりこみ、喉が張り裂けるほどの声で名前を呼びながら、探した。
しかし、はなは、消えてしまった。
心のどこかでは、わかっていた。想いを告げてしまったら、こうなってしまうんじゃないかって。怯えていた。しかし、無意識にその考えを隠していた。これでいいんだ、大丈夫だ、と。
幽霊は、その気持ちが満たされたら、成仏してしまうらしい。本人の想いはどうなのだろう。あれから10年たった今でもそう考える。あの時、はなは、消えたいと思ったのだろうか。それとも、想いとは反対に、消えてしまったのだろうか。
初めてあったときから、高校生の見た目でずっと変わらず、隣に居続けてくれた、『はな』。彼女は、きっと永遠に俺の心に消えることなく居続けるだろう。人は、死んだその時から、1番強く人の心に生き続けられる。『はな』もまたそうだった。
当たり前は、いつか当たり前ではなくなる。
今までの日々は、これからどうなるかわからない。
『はな』は最後に俺に、永遠とは、たった一つを除いてありえないと教えてくれた。
これからも彼女は、俺の永遠であり続ける。
あなたの永遠に。 巡 @megumegu6915
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