願望

増田朋美

願望

願望

その日は、雨が降ったり止んだり。雨が降って、大きな雷が鳴り、止んで晴れて、また夜のように曇ってきて、また大雨が短時間で降るという繰り返しをするのだった。そんな日だったから、健康な人でも、疲れてしまうのは確かである。そんなことが続いてしまえば、病人にとっても、生活がしづらいということも十分あり得る。

雨が降ったり止んだりして、急激に気圧が変化しているのだろうか。製鉄所の利用者も、少し減っていた。いつもなら、勉強したり仕事したりで、結構満タンになるまで利用者はいるのだが、その日は天気が変だったせいか、製鉄所に来訪する人は、ほんの少数である。

その少数の利用者の中にブッチャーがいた。ブッチャーは、その日も、水穂さんの世話をしていた。

水穂さんに、杉ちゃんが作ってくれた自然薯餅をたべさせようと、やっきになっていたが、水穂さんは、天気のせいなのか、食事を受け付けないのだった。

「水穂さん、天気が悪いのは、誰でも感じてますよ。ご飯をたべないとね、力がつかなくなって、本当に動けなくなってしまいます。ほら、つらくても頑張って、自然薯餅、食べましょうよ。」

ブッチャーは、自然薯餅を水穂さんの口元にもっていくが、水穂さんは、たべようとしない。ほら、頑張って、とブッチャーは、水穂さんの口に半ば無理やり自然薯餅を入れてしまった。すると、かみ砕くことがうまくできないのか、水穂さんはひどくせき込んでしまうのだ。せき込むと、先ほどの自然薯餅だけでなく、血液も出た。あーあ、もう、とブッチャーは、汚れてしまった水穂さんの口もとを急いでタオルで拭いてやったが、まったく、食べさせるとすぐこれだよという気持ちもないわけではなかった。アレルギーの問題なのか、それとも嚥下がうまくできないのか、ブッチャーにはよくわからないけれど、水穂さんは、食べ物をせき込んではいてしまうのである。

「水穂さん、吐き出さないで、何とかして食べてくれませんかね。もう、食べさせている俺の身にもなってください!」

と、思わずいらだって、ブッチャーは、声を上げた。ちょうどその時、

「こんにちは。」

と、玄関先で声がした。声は男性ではなくて女性の声だった。誰の声だと思ったら、お邪魔しますと言って入ってきたのは、医師の小杉道子だった。もし、ここに杉ちゃんでもいたら、何だ、ラスプーチンに用はないぞ、何て文句をいうことがあるかもしれないが、ブッチャーは道子のことを医者だと思っているし、杉ちゃんのようにわけのわからない薬を使うのでラスプーチンということもしなかった。

「ああ、小杉道子さん。今日は、変な天気ですね。晴れたり曇ったり、雨が降ったり。」

とブッチャーが言うと、

「ええ。まるで、すべての天気を一日で体験しているようね。」

と道子もそれで同意した。

「それにしても、ブッチャーさんどうしたの?何か困ったことでもあるんでしょ。その顔に出てるわよ。」

道子にそういわれて、ブッチャーは、なんで俺の顔は、こういうわかりやすい顔なんだろうかと思った。また、体が大きいのでブッチャーがあだ名として定着しているのもなんだかなと思った。

「もし、あたしでよければ話聞くわよ。なんでも言ってちょうだいよ。」

道子がそう聞くと、

「そうなんですよね。もう、水穂さんが、何も食べてくれなくて困っております。食べさせればせき込んではいてしまいます。もう、どうしようもない。」

と、ブッチャーは悩んでいることを言った。道子は特に驚くこともせず、医者らしく冷静な顔をして、

「そうねえ。この病気にかかると、胃とか食道が固まっちゃうのと、炎症を起こして出血するという矛盾した症状が出るのよね。どっちが優先されるかは人によりけりだけど。水穂さんの場合、そろそろ内臓が弱ってきてるかもしれないわ。だから食べなくなるんじゃないの。」

と、専門的な知識を交えていった。

「そうなんですか。それは俺にとってはちょっと酷というものですが、水穂さんみたいな病気にかかると、そうなってしまうものでしょうか?」

ブッチャーは、道子に聞いた。

「まあそうね。この病気の人は、ただでさえ、SLEと、全身性強皮症、多発筋炎、皮膚筋炎と、四つの症状が混じって出るわけだから、相当ダメージは大きいわよ。それぞれの四つが単独で発生した場合は、何とか抑えられるんだけど、四つ重なって起こるわけだもの。そういう風になっちゃうわよ。」

「そうですか、、、。」

ブッチャーは、がっくりと落ち込んだ。

「じゃあ、小杉先生、水穂さんは、もう助からないのですか。」

「そうね。まあ、この病気にかかる確率は少ないけど、かかったら致命的になるのはいたしかないわね。でも、あたしたちは、一生懸命この病気を治す薬を開発しているの。たとえば、」

と、ブッチャーの説明に、道子は、にこやかに笑って、カバンのふたを開けた。

「この錠剤ね。最近開発した新しい免疫抑制剤なのよ。之なら、凶暴化した免疫も、一つ飲めば叩けるわ。」

ああ、また始まったよ、ラスプーチンの自慢話、と杉ちゃんならそういうことを言うだろう。しかし、ブッチャーは今日は、それを否定する気になれなかった。というのは、水穂さんが、またせき込み始めたからで。

「ほら、水穂さん、しっかりしてください。何も食べてないからそういうことになるんだ。ちゃんとたべればそういうことは起こらないはずですよ。」

ブッチャーは、水穂さんの口元を拭いてあげながら、そういうことを言った。道子も、タオルをアルコールで消毒したりなど、手伝った。

「ブッチャーさん毎日こんなことしているの?」

と、道子は、せき込んでいる水穂さんの背中をさすったりしながら、ブッチャーに聞いた。

「ええ、一日に三度は起こしてます。」

と、ブッチャーが答える。

「相当、ひどいわね。ここまで、ひどい人はあたしも久しぶりに見たわ。うちの患者さんでもこういう症状を出す人がいるけど、それは、たまにだわ。」

道子は、とりあえず、吸い飲みに入っていた薬を水穂さんに飲ませて、そうつぶやいた。

「ブッチャーさんも大変でしょ。それじゃあ、うちの病院で開発した、新しい免疫抑制剤、試してみない?今、認可されるために、治験の真っ最中なの。その被験者として、水穂さんに投与してみましょうよ。」

薬で眠ってしまっている水穂さんに、道子は鞄の中から、薬を一瓶取り出した。

「今飲んでいる、液体の薬よりいいと思うわ。これを、一日朝晩でいいわ。一回一錠、飲ませてみて。」

瓶の中には、赤い粒が入っていた。

「あ、ああ、はい。わかりました。それじゃあ、これを飲んだら、水穂さんの発作も和らぎますかねえ。」

ブッチャーが聞くと、

「ええ、大丈夫だと思うわ。免疫の凶暴化を止める作用があるから、しっかり飲ませてね。」

と道子は言った。ブッチャーは、副作用のことを、聞くのを忘れていた。水穂さんには、薬物も注意しなければならないという事情もあったので、それもきいておかないといけなかったのだが。

「良かった。治験に協力してくれる人が見つかって。じゃあ、少しでも何かあったら、すぐに私に報告してちょうだいね。」

と、道子は、得意げに言った。ブッチャーも、これを飲んでくれたら、楽になってくれると思ったので、それ以上道子に質問したりしなかった。道子も、ブッチャーにそれ以上なにも言わなかった。

「それじゃあ、あたしは、ひとまず帰るわ。目を覚ましたら、新しい免疫抑制剤が出たとちゃんと説明してあげて、水穂さんに飲ませてあげてよ。治験のレポートのために、あたしも時々こっちにこさせてもらうわね。」

道子は、よいしょと立ち上がって、四畳半を出ていった。ブッチャーが、ああ、ありがとうございます。と言って、彼女が出ていくのを見送った。

「やっぱり専門的な知識はお医者さんでなければだめだなあ。俺、五臓六腑がおかしくなってるなんて、想像もできなかった。」

ブッチャーは、静かに眠っている水穂さんの顔を見て、大きなため息をついた。古い知識を持っている、水穂さんの主治医の帝大さんよりも、よほど知識がありそうな気がする。

「まあいい、この薬を飲ませたら、もうこういう発作も起こさなくなるか。よし、本人に、試させよう。」

と、ブッチャーは、薬の瓶を手に取って、よし、と思った。気が付くと、また雨が降っていた。やれやれ、また大雨が降ってくるのかな、その前に庭の掃除をしておいてよかったと、ブッチャーは思った。

その雨は、いつも降っているしとしと降る雨ではなくて、車軸を流すような大雨であり、瞬く間に富士市内の河川が氾濫危険水域に達するほどになった。幸い製鉄所は、川のそばではないので、土砂災害の危険というものはさほどなかったが、何処かの地域では、避難指示も出たようである。

避難指示は翌日の明け方に解除されたが、近隣では停電もあったようだ。幸い、ブッチャーが住んでいるところは何もなく、テレビも洗濯機も普通に動いていたのであるけれど。

その次の日のことである。自宅にいたブッチャーは、商品である着物の整理をしたり、注文を確認したりしていると、姉の有希がふいにやってきて、一寸天気予報を見せて、と言って、テレビをつけた。するとテレビはちょうど報道番組を流していて、ちょうどトップニュースが報道された。

「えー、次のニュースをお伝えします。今日、静岡県富士市内で、消毒用のアルコールと一緒に、睡眠剤を投与して、精神疾患のある女性を殺害したとして、母親が逮捕されました。供述によりますと、母親は、娘に自殺をしたいので手伝ってくれと懇願されて殺害を決行したということです。」

「一体なんだよ。自殺を手伝ったって。」

ブッチャーは、やれやれ変な事件が起きたなと思って、姉の有希にテレビを止めるように促した。姉の有希もそうねと言ってテレビを止めた。ブッチャーは、姉がまた自殺をほのめかす発言をするのではないかと警戒したが、姉は、そのようなことは一切言わなかった。思わず、ため息をつく。

でも、その事件は、結構大きな事件だったらしく、テーブルの上に置いてあった、朝刊にも、しっかりと載っていた。もちろん、昨日起きた停電の話もちょっと載っていたようであったが、こっちの事件のほうが、大きいらしい。

ブッチャーは、姉が朝食を食べているのをいいことにして、そのニュースを読んでみた。

「なるほど、昨日の停電でパニックを起こして、それで殺してと懇願したのか。」

と、ブッチャーは思わずつぶやく。しかもその睡眠薬というのが気になる。その薬の名前が、どこかで見たことのある薬なのだ。あれ、もしかしたら、昨日道子さんが渡していった薬だったのではないか?ブッチャーは、思わず震え上がった。

「あれ、これは、もしかしたら、昨日水穂さんに道子先生が渡していった薬かもしれない、、、。」

ブッチャーはそうつぶやいて、姉の有希に、一寸俺、製鉄所に行ってくるよと言って、急いで近所のバス停からバスに乗って製鉄所へ向かった。製鉄所は、昨日の大雨で、利用者はちょっと減っていたが、それなりに、来訪していた。ブッチャーが利用者の女性に、水穂さんはどうしていたのか聞くと、

「ええ、昨日はいつも通り寝てましたよ。なんだか、あまりにも静かに眠っているので、市の放送が流れても、目を覚まさなかったわ。まあ、ここは土砂災害警戒地域でもないから、避難する必要もなかったけどね。」

と、女性がそう返した。まあ確かに、製鉄所の近所に大きな川もないし、鉄砲水が発生するようなものはない。ブッチャーが、停電はなかったのと聞くと、ええ、何もありませんでしたよと利用者は答えた。

「何だ、それでは何もなかったということか。それならよかったなあ。」

と、ブッチャーがいうと、

「ええ、水穂さんも新しい薬で落ち着いて眠ることができて本当によかったわ。あたしたちも、おかげでテレビは故障したけれど、何もなくてよかったわ。」

と、女性利用者はそういうのだった。

「まあ、テレビは故障しても、あたしたちはテレビより動画サイトのほうが好きだから、別に心配いらないけどね。」

「そうか、そういうことだったのか。水穂さん、発作も何も起こさないで、静かに眠っていてくれたか。」

「ええ、こういう危険な災害の時は何もない方がいいでしょう。それでは、良かったじゃない。」

と、彼女はそういうのであった。まあ確かに、こういう災害があったときは、誰でも人の事なんて考えられなくなるものである。それはそうなっても仕方ないが、ブッチャーは製鉄所の人たちが水穂さんを邪魔な存在だと思ってしまわないか、不安になってしまうのであった。水穂さんは、一人では何もできない。移動するにも誰かの支援が必要だろう。それを、黙らせておけば幸せだなんて、そういう考えが広まってしまったら、水穂さんは何も存在価値がなくなってしまうことになる。

「そうだなあ。それで、あの、水穂さんに、道子先生が飲ませろと言った薬、また投与したのかな?」

ブッチャーが、そう聞くと、彼女はええもちろんといった。

「もちろん、朝食を食べた後、一回一錠でしょ。ちゃんと飲ませましたよ。おかゆを食べてもらって、そのあとに。」

「おかゆ、ちゃんと食べてくれたんでしょうか。また吐き出してしまったりとかそういうことしなかった?」

ブッチャーが聞くと、

「ええ、しなかったわ、ちゃんと茶碗一杯食べてくれたわよ。それに、食欲がわいてくれたみたいで、たくあん一切れも食べて。」

と、彼女は答える。ブッチャーがじゃあ水穂さんは今何をしているのと聞くと、

「今は、その新しくもらった免疫抑制剤で眠ってるわよ。静かにね。」

と、彼女は当然のように答えるのであった。

「そうか、その免疫抑制剤だけど、まだあるのかな?」

と、ブッチャーが、また聞くと、

「ええ。なくなったら、また道子先生に言えばいいでしょ。」

という彼女。何なのよブッチャー、そんなこと言って、という感じの顔つきであるが、ブッチャーは、先ほどのテレビのニュースが気になって、一寸そわそわしながらこういうことを言った。

「ちょっと水穂さんに会わせてくれ。」

と、ブッチャーは彼女に言った。彼女は眠っているときに、話をしたらかわいそうよといったが、ブッチャーは、横車を押して、四畳半に向かった。

ふすまを開けると、水穂さんは、静かに眠っている。確かにその免疫抑制剤が聞いているのか、発作を起こすことはなく、静かに眠っているのである。ブッチャーは、枕元にある、小引き出しを開けてみた。やっぱり、その薬はあった。テレビで放送していた、あの母親が凶器としてアルコールと一緒に飲ませた薬と同じものだ。

「やっぱりこれは危ないな。道子先生に返した方がいいや。」

とブッチャーは思う。水穂さんに自殺をする兆候があるのかは、断定はできないが、ただでさえ、同和地区の出身者となれば、いつでも自殺の恐れはあるかもしれない。

「よし、俺、道子先生に電話をしなくちゃだめだ。」

と、ブッチャーは、急いでスマートフォンを取った。

同じころ、道子は、杉浦さんという患者と、病院で話していた。杉浦さんは、道子に、申し訳なさそうな顔をして、

「先生。お願いなんですけどね。あの強い薬、やめさせてもらえないでしょうか。」

と、いうのである。

「なんであたしがそんなこと?このまま治験を続けてくれればいいじゃない。そうすれば、咳も出ないし、体の痛みも取れるわよ。」

と、道子が言うと、

「そうなんですけどね。この病気が、治らないのは、道子先生も知っていますよね。だったら、なんでも、直さないで、それと一緒に生きていくということは、できないものでしょうかね。あの薬、確かに体の痛みは消えますけど、意識も飛ぶ、つまり眠ってしまうんですよ。それでは、残された時間を、、全部無駄にするじゃないですか。それに、最近は天災も多いですからね。それも私に残された時間を減らす要因にもなりますから、私は、時間を無駄にせず、好きなことをやって最期を迎えたいんですよ。」

と、杉浦さんは言った。どうしてなのだろう、この病気の人は、みんなそういう事を言う。道子は、できるだけ薬を飲んで、長く持ちこたえてもらいたいと思うのだが、患者たちはある種のあきらめがついてしまうようなのだ。彼らは、残された時間を、自分の好きなことをやって、楽しく過ごしたいというばかりなのだ。家族がいる人も、一人の人も。みんなそういうことを言う。薬は、つらい症状が消えればそれでいい、根本的に治そうということはできなくたっていいからと。

そういうことがあって、道子は、患者たちのやる気のなさに、困ってしまうことがあった。

「道子先生、新薬の実験に私たちを使うのも結構ですが、私たちは、私たちで、それぞれの生活があるんですから、その生活を、眠気でずっとどうのこうのではなくて、もうわずかしか時間がないんですから、充実した生活をしたいんですよね。」

「そうですか。其れよりも、私は、治りたいという意思を持っていただきたいのですが?」

と、道子は言うが、杉浦さんは、首を横に振った。

「いやあ、病気と闘い続けて苦しみながら逝くよりも、最後は好きなことをやって、思いっきり楽しく過ごしたいと考えるのは、不自然ですか?だって先生、この病気を治す方法なんか、いくら暗中模索してもどこにもないんでしょう?それだったら、今までやれなかった、好きなことをやろうと思うのは、おかしなことでしょうか?」

「そうね、、、。」

こういう風に患者から言われてしまうこともある。何だか病気についての情報は、医者でしか何も知らないという時代ではなくなっている。治療法がないとか、役に立つ薬が何もないとか、そういうことを患者が勝手に調べて、情報を入手してしまう時代になっている。それが良いのか悪いのかわからないけれど、患者もその家族も、どうかこの人を治してくださいと医者に懇願する時代は、もう終わっている。

「先生、こんな事件もあったじゃないですか、ほらあの、嘱託殺人事件ですよ。あの事件は、報道では睡眠薬とされていましたけど、私、SNSを見て、実は私たちが飲む薬だということを知りましたよ。あの女性は、単なる精神疾患ではなかったのかもしれないじゃないですか。そういう事もありますから、殺人の道具になるような薬は、飲みたくありませんよ。」

と、杉浦さんは、そういうことを言っている。道子はそれとこれとは別よと言おうとしたが、杉浦さんは、じゃあ、私を治験の被験者から外してくださいね、と言って、イスから立ち上がり、診察室を出ていこうとする。道子は、彼に、先ほどの薬を処方することはできなかった。

「道子先生、患者さんではないんですが、一寸、お願いしたいことがあるという方が見えておりますが。」

と、看護師が、道子に言った。

「はあ、誰ですか?」

と、道子が聞くと、

「ええ、須藤聰さんという方です。なんでも、水穂さんという方のことで、お願いがあると言っています。」

と、看護師は答えた。何だ、須藤聰が、こんな病院まで何をしに来たのかしらと道子は思うが、その時、杉浦さんが、

「先生、いろんな方に治験を申し入れて治験をしているようですけど、薬というものは、生活をよくするためにあるものですよね?それを悪くされたら困ります。」

と、言った。そうね、と道子は思った。患者さんには患者さんの生活というものがあり、同時に、薬は自殺を助長するために使ってはならないのだ。


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願望 増田朋美 @masubuchi4996

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