私の余計な惑い

天洲 町

第1話

 22時過ぎ。

 広めのスーパーの駐車場でお別れのキスをして車から降りた。外は暑くて湿っていて、冷えていた足首と腕にしがみついてくる。ぴたぴたと降る雨が余計に鬱陶しかった。


「また土日に来るね」

「うん、待ってるね」


 歩き出してすぐ彼は隣に来て、軽く手を振って、そのまま出口の方に走っていく。時間にすると15秒くらいのその間に、雨はどんどん強くなっていった。傘を持ってきてなければずぶ濡れだった。


「1週間のお別れにしては降りすぎだよ」


 駐車場を照らす街灯に照らされカーテンのように揺れる雨と、激しく打ち付けられアスファルトから跳ね返る雨。映画のわざとらしい演出のようだった。






 付き合い始めてまだ2ヶ月。お互い休みの日に時間を作って会う日々が続いている。映画を借りてきて観たり2人で一日中ゲームしたり楽しく過ごせている。私は彼を愛しているし彼も私を愛してくれている。


 それなのに彼の中に入り込めない気がしてすごく寂しい。


 原因は分かっている。彼が半年前まで3年と少し付き合っていた元カノの存在だ。

 もう終わったことだし未練とか気持ちとか何にもないよ、とは言っていた。多分本当だろう。私から聞かない限りはその子の話は出てこないし、連絡も取っていないみたいだ。疑ってもいない。でも、うまく言えないけど、そうじゃない。


 楽しそうな顔を見た時私よりこの顔をよく知っている人がいるんだ、と思う。

 初めて見た一面に嬉しくなった時、同時に私が知らない彼を知ってる人がいるという痛みがやってくる。

 寂しさが時間という絶対の盾を持っている。そういう種類の辛さだ。







 雨は数分のうちに道路を浅く水に沈めた。傘をさしているのに裾が濡れてしまう。そんなに悲しいわけではないのに、作り物の悲しみが本物のフリして心にもたれかかってきていた。

 彼は今どんな気持ちだろう。雨が作ったハリボテに騙されていないだろうか。いや、いっそ騙されていてくれないだろうか。


 途中のコンビニで杏仁豆腐を買って帰った。

 甘く、いい香りがする。

 しばらくして彼から無事に帰り着いたとメッセージがきた。窓の外の激しい雨音が遠く感じた。





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