エピローグ 幸せな時間
テストの結果発表から数か月後。
「隆弘~こーら、隆弘くーん。起きてよー」
「うん……あれ、はるか……?」
「そうよ、そのまま寝たら風邪ひくわよ? それに今日は大切な用事があるんだから。ほら起きなさい」
名前を呼ばれた目を開けると僕の目の前には、吐息が触れるほどの距離にはるかがいた。
今日は僕とはるかの家族に、挨拶とお礼に行く日だ。挨拶って言うのはもちろん、はるかと交際をしていること。
お礼っていうのは、きっかけがどうであれ僕たちが交際するようになったから、それをじいちゃん達にだ。
ただ、夕方からだから、二人でデートしてから行く予定だったんだけど、いつの間にか眠っていたらしい。
「ごめん、ごめん。はるかの膝枕が気持ちよくってつい……」
「もーう。そんなこと言われると断れないじゃない」
そう優しく微笑みながら、はるかは僕の頭を撫でてくれる。幸せな時間だ。
「まぁ、隆弘が風邪ひいたら私が看病してあげるから大丈夫よ」
「そっか、それなら安心だ。でも、そろそろ起きて待ち合わせ場所に向かわないとね」
少々、名残惜しかったがはるかの膝から頭を起こす。家に帰ったらまたお願いしよう、うん。
「ねぇ、隆弘。この格好で大丈夫よね? おかしなところないわよね?」
はるかは僕の前に立つとクルクルと回る。
「大丈夫だよ」
「じゃあ、可愛い?」
「可愛いよ。っていうか、言わせたいだけでしょ?」
「えへへ。バレた?」
「もう……バレバレ」
デートに行く前から何度もしたやりとりだしね。そんなはるかが愛おしくて、僕は頬を指でプニプニとつく。
「きゃっ! くすぐったいわよ、もぉ……」
口ではそう言いながら、嫌そうな顔はしていない。むしろ、嬉しそうな感じだ。
「ほーら、遅刻するから行くわよ。ねぇ、二人ともびっくりするかしら?」
「どうだろ……おじいちゃんたちは大丈夫だと思うけど、直葉(すぐは)がびっくりするんじゃないかな?」
「直葉ちゃんって隆弘の妹よね……将来は私の妹にもなるんだし、しっかりしたところ見せないといけないわね!」
ガッツポーズを作って、気合を入れる様子をみせるはるか。
「大丈夫だって。そのままでいてくれたら何も問題ないよ」
「それでも緊張するし、不安にもなるわよ」
「じゃあ、これで安心できる?」
そう言って、僕ははるかの手を優しく握る。すると、ぱっと表情が華やいだ。
「安心できるけど、ドキドキしっぱなだわ」
「じゃあ、止めとく?」
「だーめ。私が離さないからもう無理でーす」
はるかの握る手の力が強くなった。体温を手のひらで混ぜて、分かち合う。
「じゃあ、仕方ないね」
「ええ、仕方ないわ。ほら行きましょ!」
幸せそうな顔で笑うはるかが僕の手を引っ張って歩いてく。
最初は無理やり決められた同棲生活。しかも相手は品行方正な猫を被っていた優木さん。
一緒に生活していく中で、彼女の様々な一面を知った。気づけば、そんな生活をいつしか居心地の良いものと思うようになった。そして、彼女に恋をして恋人になった。
「ねぇ、はるか」
「何?」
彼女に瞳に僕が映る。
「これからもずっと、よろしくね」
「ええ、こちらこそよろしく! ずっと一緒なんだから」
※
高校を卒業してから数年後。あれからも、僕とはるかの交際は順調だった。僕もはるかも無事に大学に進学して、無事に就職もした。流石に、就職した企業は別々だったけど。
そして、めでたいことに僕とはるかの間に子供もできた。子供の成長を二人で見守っていく中で、我が家ではある習慣ができた。
誕生日には全員で集まって、家族写真を撮ることだった。
「お誕生日……おめで…とう……」
そう泣き腫らしているのはじいちゃん。毎年、曾孫の誕生日になるとこの有り様だ。それを見ると僕もはるかも思わず苦笑してしまう。
「また、じーじないてるのー? あはは、へんなのー!」
「結女(ゆめ)。これでじーじの顔を拭いてあげて」
僕は結女にハンカチを渡す。
「わかった!」
勢いよく歩き出してじいちゃんの顔を拭きに行く。
「隆弘。お義父さんはいつくるの?」
「もう来るんじゃないかな? 直葉と待ち合わせてから来るみたいだし」
「そう、じゃあ、ケーキの準備だけしときましょうか」
はるかと確認を取り合っていると、結女がこちらに駆け寄ってきた。
「ケーキ! はやくたべたーい」
「分かったから。もう少し待ってなさい」
結女の頭を撫でながら苦笑するはるか。最近、結女が可愛すぎてついつい甘やかしすぎてしまうのが、僕とはるかの悩みだったりもする。贅沢な悩みだけどね。
──ピンポーン
「あ、話をしたら」
「だろうね。結女、おじいちゃんが来たから迎えに行こうか」
「おじいちゃん? はーい!」
結女と手をつないで玄関にまで向かった。どうも、結女のなかでは僕のお父さんがじいちゃん。僕のじいちゃんがじーじって感じで分けられているらしい。
「あ、ママもいっしょにいこっ!」
「私も?」
苦笑しながらも結女の手をつなぐはるか。僕とはるかの間に結女がいる形だ。
「あのね! パパもママもだーいすき!」
「私も、結女も隆弘も大好きよ」
「僕だって、結女もはるかも大好きだよ」
そうしてみんなで笑いあう。それから、父さんと直葉を迎え、全員でカメラの前に立つ。
「ほら、結女笑って?」
「えー……ケーキはやくたべたーい!」
「もーうムスッとしないの。そんな子には~」
「あはは! ママ、くすぐったいよぉ!」
はるかが結女をくすぐって笑顔にさせる。僕は、そのすきにカメラのタイマーを切って、結女に声を掛ける。
「結女、カメラの方向いてー」
みんなでカメラの方向を見た瞬間、フラッシュが届いた。
「「「結女、お誕生日おめでとう!!」」」
「えへへ~、ありがとう!」
幸せのピークは絶賛更新中だ。
品行方正な優木さんが猫を被っている件について~婚約し同棲することになったんだけど、彼女の初恋相手が僕ってマジで!?~ 光らない泥だんご @14v083mt
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