2 愛は、どこに咲いているのだろう?
愛は、どこに咲いているのだろう?
私たちが出会ったのは、秋桜の咲き始める季節のことだった。
真下沙織
私は、あなたを忘れない。
真下沙織はいつものように、真っ白なワンピースをきて、近所にある大きな公園に出かけて行った。
そこには、木で作られた小屋のような休憩所があって、その休憩所の近くにはとても大きな一本の木があった。
沙織はその休憩所のベンチに座って、その大きな木のある風景を見ることを日課にしていた。
そこには、沙織にとって、とても大切な思い出があった。
……もう、ずっと、ずっと昔に、いなくなってしまった、大好きなあの人との思い出。
その緑色の葉を生い茂らせている、当時からずっと変わらない姿をした大きな木を見ると、(そのずっと変わらないままの雄大な姿は、まるで歴史の見届け人。あるいは、立会人のように思えた)いつも沙織は、大好きなあの人のことを思い出すことができた。
沙織は今も、あの人のことを愛していた。
(そして、一生涯、忘れることはないだろうと思っていた)
「あの、泣いているんですか?」
突然、そんな声をかけられて、「え?」と言って、沙織はとても驚いた。
声のしたほうを振り向くと、そこには一人の若くて美しい女性が立っていた。その女性は心配そうな顔をして、じっと沙織のことを見つめていた。
「なにか、悲しことでもあったんですか?」とその女性は言った。(確かに女性の言う通り、人生はとても悲しことに溢れていた)
「いえ、そんなことはありませんよ」とにっこりと笑って沙織は言った。
でも、沙織は自分の頬を自分のしわくちゃの指で触ってみて、とてもびっくりした。なぜなら沙織はいつの間にか、女性の指摘した通りに、自然と、その目から透明な涙を流していたからだった。
沙織は、なにかとても珍しいものでも見るようにして、自分の涙で濡れた指先を、じっと見つめていた。
「あの、よかったら、どうぞ」と言って、女性は真っ白なハンカチを沙織に差し出してくれた。
「どうも、ありがとう」
沙織はその真っ白なハンカチを受け取ると、そっと自分の目元の涙をぬぐった。
久しぶりに人の温かな優しさに触れて、沙織はその若い女性に、ほんの少しだけ興味が湧いた。
「……あの、出会ったばかりで、少し変に思うかもしれませんけど、……今、少しお時間ありますか?」と沙織は言った。
「え? あ、はい。大丈夫ですよ。どうかしたんですか?」とにっこりと笑って、その女性は沙織に言った。
「老い先短い老人の頼みだと思って、少しの間、私の話を聞いてもらえませんか? あまり面白くない話なんですけど、でも、誰かに聞いてもらいたい話なんです。私の始めての恋の話」木漏れ日のように、柔らかく微笑みながら、沙織は言った。
「私でいいんですか?」自分の顔を指差して、驚いた顔をして女性は言う。
「はい。ぜひ、あなたに聞いてもらいたいです」にっこりと笑って沙織は言う。(するとそう言われて、若い女性は頬を赤くして、とても嬉しそうな顔をした)
「じゃあ、私でよかったら、ぜひ宜しくお願いします」
そう言って、女性は沙織の座っているベンチの上に、沙織と少しだけ距離を開けて、元気に腰を下ろした。
それから沙織は、久しぶりにあの人のことを、じっと昔のことを思い出しながら、その若くて美しい女性に語り始めた。
その女性、鮎川恋は、沙織の話を最後まで真剣に、(まるで自分の恋のお話のように)聞いてくれた。それが沙織は、なんだかすごく、……嬉しかった。
秋桜 コスモス 雨世界 @amesekai
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