秋桜 コスモス

雨世界

1 私はある日、あなたに恋をした。

 秋桜 コスモス


 プロローグ


 私と、恋をしませんか?


 本編


 私はある日、あなたに恋をした。


 いつか、秋桜が咲く場所。


 ……このお話は、あなたと私の、短い恋の物語。


 道端に、小さな(でも、とても綺麗な)白い花が咲いていた。その花は、秋桜だった。その白い秋桜の花を見て、今日はなんだかとてもいいことが起きるような気がした。(なんだかすごく、いい日になるような気がしたのだ)


 私が、あなたと出会った日は、……雨の日だった。


 その日は、朝からずっと晴れていたのだけど、午後から突然の強い雨になった。


 雨が降り出す前の暗い曇り空からは、とても涼しい風が吹いていて、それからなんだかその風からは、懐かしい雨の匂いがした。


 午後から降り出した雨は、街中の風景を雨模様に変えた。


 さっきまで、夏の終わりのころの太陽に照らされて、焼けるように熱かったアスファルトの道路も、道路脇にある自転車置き場に置いてある、誰かに忘れられているような、幾つかの自転車も、信号機も、道路標識も、花も、草も、全部が全部、雨に濡れていた。


 私も、全身びしょ濡れになった。(傘を持っていなかったからだ)


 それはあなたも同じだった。


 私たちは、偶然、同じ場所で雨宿りをした。(それは駅前にあるケーキの美味しい喫茶店。始まり。の店先だった)


 私とあなたは、……出会ってすぐに、恋に落ちた。


 僕は君と出会って、生まれて初めて、運命というものを感じた、と、恋の告白のときに、あなたは私にそういった。……嬉しかった。


 私たちは、お互いの名前を名乗り、それから、連絡先を交換して、何度か電話で連絡をして、それから少しして、休日の時間に、一緒に、どこかに出かけるようになった。連絡先を聞いてきたのは、あなたからだった。あなたはよく覚えていないというけれど、私は確かにそのときのことをよく覚えていた。(当日の二人の服装だって、私は今も覚えているくらいだ)


 私たちは、恋人同士になった。


 それから私たちがお別れをする三年間の間。私たちはずっと一緒にいた。本当に近い場所にいた。誰よりも、うんと近い場所にいた。(その三年間は、私の二十五年間の人生の中で、……一番幸せな時間だった)


 私たちがお別れをした日も、雨が降っていた。


 それは、秋に降る秋雨だった。


 私はあなたが私の部屋からいなくなったあとも、ずっと一人でその、窓の外に降る秋雨の風景をじっと見ていた。


 ……私の部屋の窓際には、秋桜があった。

 

 その秋桜は、なんだか私と同じで、ずっと、……ずっと泣いているように見えた。

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