晴天と枯れた鬼百合

 東京の空には曖昧な雲があった。

「今日はよろしくお願いします」

またしても心にもないことを言う。消臭剤の香りが私の鼻腔を刺激する。今日は祖母の葬式に行く日だ。祖母の家は岩手の山奥にある。生まれたから片手で数えられるくらいしか行ったことのない祖母の家だ。懐かしくもなんともない。ただ血の繋がっているだけの人の葬式。


 名も無い小さな橋を渡った頃、叔母たちの車に揺られながらふと車窓を見る。田園の中の小道に日傘を刺した枯れた花束を持っているワンピースを着た少女が歩いていた。私は彼女を思わず凝視していた。彼女が傘を下ろそうとした時にBピラーと重なり彼女は消えた。熱射病だろうか。私はシートにもたれかかる。


「お邪魔します」

私は祖母の家に入る。

「鶴ちゃんいらっしゃい」

義理の叔父さんの声がする。私は彼の声が好きだ。懐かしいような優しい声が。なぜ叔母さんのような人と結婚してしまったのか。いや、私としては嬉しい限りだが…少し叔父さん達と談笑しながら近々に冷えたスイカを食べていると私は徐に立ち上がり

「ちょっとトイレ」

スイカでお腹を冷やしてしまったのかも知れない私はトイレへと駆け出した。あいよ〜と叔父さんの声が聞こえる。


 手洗いを済ました後なぜかトイレの前の部屋が気になった。そっと扉を開けてみるときれいに整理された女の子の部屋があった。得体の知れない何かに引き込まれたように部屋の中に入る。色あせたピンクのカーテン。掃除は行き届いているがどこかおぼつかない家具。そっと学習机の上に置かれたアルバムを開くとさっきの少女が写っていた。日付を見ると十七年前だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

鶴の鳴く頃に ねんここさん @Hananokaori

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ