私を知らないSunflower

 練習場の一角に用務員さんが植えている向日葵がある。用務員さんが眺めるわけでもなく季節の花が隔月で植えてある。しかしこの花は私たちの方を見るわけでもなく私たちに日陰を提供してくれる。基礎練が終わり、コーチもいない。私はひまわりの近くのブルーシートに寝転がる。すでに私にテニスの才能がないのはわかっていた。あの夢はなんだったのだろう。またくだらない夢に違いない。

「千鶴!」

驚いて起き上がってみるとテニスボールが私の顔面に激突した。

「千鶴!ごめん!大丈夫だった!?」

「大丈夫だよ!」

双方とも心にも思ってもいないことをはにかみながら言う。彼女はテニスの名門高校から声がかかっていると風の噂で聞いた。私なんかとは大きな違いだ。


 学校の帰りにペットショップの前を通った。ゲージの中に捕らえられながら悲しげな表情で私を見る。私には何もできないことはわかっているはずなのに。


「ただいま」

家に帰ると見慣れない靴が置いてあった。リビングに入ると

「千鶴ちゃん久しぶり!」

厚化粧をした梔子の香りを纏った、母と同年代くらいの女性がソファーに腰をかけていた。確か父の妹。私から見るとおばさんに当たる方だ。

「久しぶりです叔母さん」

安っぽいビジネススマイルで乗り切ろうとするが

「そんなよそよそしくしないでよ!五年ぶりかしら。大きくなったわねー!」

相変わらずの嫌いなタイプでムカつく。そんなことを思いながらも適当にいなしつつ冷蔵庫の中の麦茶を飲む。


 母たちの会話を盗み聞きしていると何やら葬式の日程を話し合っているようだった。『おばあちゃんでもなくなったのかな?』私には疎遠な父方の祖母がいる。祖母の面倒は叔母さん夫婦が行っていたはずだ。おじいちゃんは一昨年くらいになくなったのは知っていたし、食細りしていたのも知っていた。めんどくさいと思いつつも覚悟を決める。とてもいいとは到底言えないけれど、自然は好きだし、学校も休める。

 

 ミンミンゼミの泣き声がうるさい。

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