鶴の鳴く頃に

ねんここさん

小麦色の朝

 赤いサンセットとペンキの剥げかけたフェンスの向こう側に立つ黒い制服を着た少女はいったい誰だったのだろう。


 けたたましい音と焼けたパンの匂いで目が覚める。母が

「ご飯よ」

と階段下から声を荒らげる。

「わかった今行く」

私はおもだるい腰をあげながらそう返事をした。洗面台の前に立ちながら明らかに眠そうな私を見る。『いったいあの夢はなんだったのだろう』見慣れない風景、場所そして彼女。しかしどこか懐かしい感じがした。


 私の家庭は母子家庭であまり裕福でない。父は医者だったのだが心筋梗塞で亡くなってしまったらしい。まさにミイラとりがミイラになるとはこのことだ。母がまた通帳と睨めっこする。そんな母を尻目に私はパンに苺ジャムを塗りたくる。


「行ってきます」

私がテニスラケットをひったくるように取り、玄関を出ようとすると母は

「行ってらっしゃい」

と言った。私は何も言わないまま家を出る。

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