開幕早々わりと地獄絵図

 生徒も職員もゾンビしかいないゾンビの高校に、正体を隠して通うヒト美さんのお話。
 苦労だらけの一日をそのまま活写したような内容で、とどのつまりはコメディです。馬鹿馬鹿しくもあるけど決して気を抜けないゾンビとの日常に、とめどなく悪態を吐きながらも、でもなんやかや適応している主人公。なかなかの苦労人というか不幸な身の上というか、いやもっとまともな高校に進んでいれば済む話ではあるんですけど、でもついつい同情してしまうこのゆるい感覚が魅力的でした。
 というかこの作品、実は結構すごいことしてるのでは、と思います。だってこの主人公、周囲の環境や学友らに対して、わりと言いたい放題言ってるはずなんですよ。基本、人の愚痴とか悪口って、どうしてもきつい険のようなものが出てくると思うんですけど、でもそういうのが全然感じられない。普通にゆるくて馬鹿馬鹿しいコメディのノリを貫いていて、その辺りが技というか肝というか、この主人公の人柄があってのこの物語なのだなと思わせてくれます。
 やっぱりお話を読む上で一番楽しいのは、これが他の誰でも成り立たない、この人物だからこその物語だと思わせてくれる点。いや読んでる最中は全然意識してなかったんですけど、でもその裏でしっかり物語している、カラッと晴れやかな読後感の嬉しい作品でした。