銀河鉄道は私には高いから

水宮色葉

宇宙パーキングエリアにて

自分より大きい、青色のリュックサックを背負って、相棒のスーツケースをガラガラと引きずる。お気に入りの服を来て準備は万端。そらの様子は穏やかで、まさに旅にはうってつけの日和である。


宇宙パーキングエリアは、色々な星から来た生き物達が、運転の疲れを癒す場所である。車種も様々でありながら、目的も様々だ。


「どうも!ソフトクリーム一つ!」

「あいよ、12ユールだぜ。何味にする?」

「うーん、ここは王道のシニラで!」


冷たくて甘いアイスクリームが綺麗にくるくると巻かれていく。この技術を会得するには相当な鍛錬が必要で、最近は数が減ってきており、30世紀後にはソフトクリームは絶滅するのではないかという予測があるらしい。

それは困る。

宇宙パーキングエリアに寄ったら毎回食べてる程の大好物なのに。


「はい、おまたせ!」


その白銀に輝く1mのソフトクリームは、いつ見ても美しい芸術作品のようだと関心してしまう。絶滅させないためにも、これからも頼み続けますね、おじさん。


「ありがとうございます!」

「はい、20ユールね。お釣りが8ユール。

にしても、すごい大荷物だなぁ嬢ちゃん。こんな時期にキャンプにでも行くのかい?」

「いえ!私、ヒッチハイクの途中なんですよ!」

「ヒッチハイク!?へぇ!今でもやってる子がいるんだねぇ!昔はよく聞いたが最近はめったに聞かないからなぁ。」


最近は、宇宙バスの発達とか、銀河鉄道の普及とかでこういうのは減っているらしい。

でも、人と話すのが好きな私にはこちらの方が性にあっている。何より安上がりだ。


「乗せてくれるいいヤツが見つかるといいな!」

「そうですね!いやぁ、結構大変でしたよ、予定より時間も旅費もかさんじゃって・・・」

「あの・・・ソフトクリーム頼みたいんですけど・・・」

「あっ、ごめんなさい!」

「はいはい、ソフトクリームね。じゃあな嬢ちゃん、頑張れよ!」

「ありがとう!」


近くのベンチに腰掛けて、ソフトクリームをストローで吸う。

うん、いつ食べても美味しい。

ベンチからぼーっと車が動くのを観察する。

旅行中であろう家族連れがお菓子を買っていったり、物運びの運ちゃんが愛車の中で仮眠をとってたり。宇宙パーキングの少しせわしないような、でものんびりしているような、この空気感が私は好きだ。


さて、おやつも済んだしそろそろ乗せてくれる人を探さないと。

スケッチブックにでかでかと、『空の星アース』と書いて、その下に『乗せていってください!』と付け加える。

ここからが大変だ。進む方向が同じ人が多いとは限らないし、同じでも乗せてくれるとは限らない。第一、この宇宙共通文字が読めるとも限らないのだ。ここからは根気勝負。飲み物もおやつも買ったし、準備は万全・・・


「あの、乗って行きます?」

「・・・えっほんとですか!?ありがとうございます!」


意外とあっさり乗れてしまった。

この宇宙には親切な人が多いらしい。

(そもそも親切な人がいなければ成立しないことではあるが)


「あの、お名前よろしいですか?」

「ァクノワ。貴女は?」

「私はニャビァっていいます!乗せてくれてありがとうございます!」


ァクノワさんと私を乗せた、ちょっとだけ古いタイプの反重力車がエンジンをふかした。車内BGMに天の川銀河の地方ラジオが流れている。おちゃらけたDJが、今トップオリコンを走っている大人気ポップバンド、Ailiaの「Point of VieW」を流してくれた。


「ァクノワさんって、すっごい美人ですよね。車の中から目があった時、思わずドキっとしちゃった」

「あらそう?ありがとう。こんな歳になってもそういうことを言って貰えると嬉しくなるわね。」

「そんなぁ、充分綺麗ですよ!まるで映画から出てきたヒロインみたい。ちなみに、今までどれくらい生きてきたんですか?」

「そうねぇ、ざっと3世紀くらいかしら。」

「へぇっ、そうなんですか!」

「ふふっ、ニャビァさんは?アタシよりは若そうだけど。」

「私なんてまだ一世紀ちょっとしか生きてないペーペーですよぉ。まだ大学も卒業してない未熟者です。」


ァクノワさんは、とっても綺麗な人だった。

その髪はストレートで、誰も踏んでいない新雪のような綺麗な銀色。ちょっとつり上がった目は海のような深い青色で、頭にある大きな耳がとってもチャーミングだ。紺色のワンピースが、彼女の髪の美しさをより強調していて、思わずため息が出てしまいそう。そんなァクノワさんと私を乗せて、車は少しずつスピードをあげていく。外に見える近くの惑星のプラネタリィリングがァクノワさんの髪みたいでとっても綺麗だった。


「ァクノワさんはなんで空の星アースに行くんですか?」

「残念ながら、仕事。私達の星はまだまだ未発達だから、周りの星を調査する調査隊が作られたのよ。」

「へぇ〜っ、いい仕事だなぁ、星旅行に仕事で行けちゃうなんて!私、旅行大好きだから、そういう仕事に就くのも良かったかもなぁ。」

「あら、私も好きなのよ、旅行。せっかくの初めての星なんだから、私も仕事じゃなくてプライベートで来たかったわ、空の星アースには。」

「いいですよねぇ、空の星アース。私も初めて行くんですけど、もう息を飲むほど綺麗らしいですよ!」


空の星アースは、その名の通り、空のある数少ない星である。近くの恒星から光のエネルギーを受け、自身の纏った大気でその光を分散させて綺麗な青を宙に映し出すというなんとも珍しい光景。時間によって様々な顔を見せる空は、「死ぬまでに見たい綺麗な星100選」に選ばれる程の人気がある。


しかし、当の空の星アースは随分と文明レベルが遅れ、未だに宇宙進出を果たしていない。なぜなら、ここに他の星が文明を持ち込もうとした結果、原生生物が文明を独自に進化させ、結果的に星そのものが危機的状況に陥ってしまったからである。

宇宙星景観保護委員会うちゅうほしけいかんほごいいんかいにより、空の星アース指定景観保護惑星していけいかんほごわくせいに認定された。文明レベルはここでストップされ、旅行者には原生生物の擬態が義務付けられた。


「私、美術大学の二年生なんですけど、もう、空を直接見て、それを絵に描きたくって!」

「あら、そんなステキな理由があったのね。いいわねぇ、なんか、青春してますってカンジ。羨ましいわ。」

「ハイ!あと、単純に観光もしたくって・・・」

「ねぇ、空の星アースにはどれくらいいるつもり?」

「えーっと・・・まぁ一年くらいですかね。お母さんも心配するし、旅費もあんまりないし。」

「じゃあ帰りも似たようなタイミングになりそうね・・・。あっ、そうだわ!」


ァクノワさんは、かわいい子供のような声を出して、私の方を向いた。


「ねぇ、連絡先交換しない?私、貴女と一緒に空の星アース観光したいのだけど・・・。ごめんなさい、やっぱり迷惑かしら?」

「えぇっ!?そんな全然!むしろ嬉しいです!でも、ァクノワさんお仕事が忙しいんじゃ・・・」

「大丈夫よ、地質の調査なんて星観光と対して変わらないわ。(そんなわけがない)

それに、私こう見えて、仕事はできる方なのよ?」


ァクノワさんがちょっとワルっぽく、ニヤリと笑う。その笑顔から、「仕事なんてあっという間に終わらせてやるのよ」という意思が見て取れて、私は思わず吹き出してしまった。


「アハハ、嬉しいです!一人旅になるかと思ったけど、まさかこんな出会いがあるなんて。ヒッチハイクも捨てたもんじゃないですね!」

「ホントね。そうだ、知ってた?空の星アースって、実は温泉の質がとってもいいらしいのよ。」

「ええっホントですか!」

「そうそう。二人でお肌スベスベにして帰りましょ!」

「えーっ、やだーっ、超楽しみ!」


フロントガラスに、『空の星アースまで残り100光年』の標識が映る。

道路に設置された外灯の光はまるでトンネルみたいで、私の期待感をより煽った。


「ところで、ァクノワさんって彼氏とかいるんですか?」

「うふふっ、ヒミツ。」

「えーっなんで!いいじゃないですかぁ!教えてくださいよぉ!」


私の旅は、まだ始まったばかり。






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銀河鉄道は私には高いから 水宮色葉 @Water_blue

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