9/23【条件 春一番の瞬間を描く】(失敗)【お題:翼をください  狐  ​冷蔵庫 】あとバトルもの書いてみたいってなってた。

 その風は廃ビルの砂埃を巻き上げた。もう四月なのに冷たい風。冬が巻き上げた土煙に紛れて、私はがれきからがれきへと移動する。

 私を追うように降ってくる銃声。背中を預けたがれきが私を狙う弾丸を弾いた。私はAK-47を胸に抱いてから一息つく。ずるりと頭を預けて、自分の身体を見下ろした。セーラー服の白と、銃の黒。その上に乗った赤いスカーフ。私の二つの日常を確認してから私は銃弾の中に飛び出した。

 事前に把握しておいた敵の位置を確認しながらそれぞれの死角をなぞる。このフロアにいる敵は五人。全員の視線が重ならない場所を縫うように、私は駆けていく。

 今日数学で教わったベン図を思い出しながら。

 柱の影に隠れた瞑想服の男たちに銃弾を撃ち込んでいく。一つ、二つ、三つ、四つ。そのたびにうめき声が上がり、地面に倒れていった。軍上がりの傭兵と聞いていたが、なんてことはない。昨日のターゲットの方がもっと手強かった。

 そして最後の柱に銃を向けた。けれど、そこには何もなかった。

 念のため、引き金を引いて、影に打ち込む。地面の誇りが跳ねて、反響音がビルを包んだ。


「ここだよ」

 

 後ろからの声に私は銃を構えたまま、振り返る。そこには狐面をした少女が立っていた。ガラスもない窓い窓からは月明かりが差し込んでいて、彼女の制服を照らしていた

 そのセーラー服は私の通う学校のものだった。思わず、引き金から手を離す。

「だめだよ、敵なんだからっさ」

 跳ねた語尾に合わせて、彼女が狐面を取り、一歩前に出る。腰まで伸びた黒髪がつるりと光った。もう一歩前に出る。クラスでも目立つ白い首筋が現れた。もう一歩前に出る。文庫本に落とされる切れ目が私に向いていた。

 彼女は瓜月ななお。私のクラスメイトだった。

 驚いて銃を下ろす私に彼女はウィンクしてくる。

「とりあえずなんか飲んでくかい?」

彼女はそういって、手に持っていたものを投げてくる。放心していた私は慌てて銃を向ける。宙に浮いたそれは銃弾に当たり、はじけた。

 そして私に液体が降ってくる。

「あはー、やるねぇ。でも手榴弾だったら死んじゃうよ。君も私も」

 髪に、制服にまとわりついてくる液体。床に目を向けると、コーラの缶が穴を開けて落ちていた。顔についた液体をなめる。甘かった。

「冷蔵庫から出したばかりだから冷え冷えだよ」

 ななおはとんとんと後ろに跳ねた。私に背を向けて小さな箱に手をかける。扉を引くと光が漏れて、コーラが詰まっていた。

 彼女は一つ取り出して、また放り投げてきた。今度は私も受け取る。痛いほどに冷たい缶。顔を上げると、彼女はにっこりと笑った。そのまま口を開く。

「とりあえず、飲もうぜ。話はそれからだ」

 彼女は缶を取り出して、プルタブを引く。こぼれる液体に慌てて口をつけた。腰に手を当ててラッパ飲み。豪快に口を拭った。

「私たちが向き合っている理由をさ」



 口の開いた缶を見つめながら、私は口を開いた。

「ここのボスが私のターゲット」

「つまり私を殺しに来たということか」

 彼女の言葉に私は顔を上げる。彼女は月を見つめながらコーラに口をつけていた。なんでも内容に目を細めて、窓の外に視線を投げている。

 私の左手に力が入る。コーラの缶がきしりと小さな音を立てた。

「最初は翼がほしかっただけ」

 彼女は夜空を見上げながら言葉を紡ぐ。

「そんな感じで闇の世界に入ったんだけど、今じゃここも廃ビルだし、私を慕ってくれたやつらも、みんな死んじゃった」

 彼女はそう言って、私に目を向けた。

「おまえが殺しちゃった」

 その目には殺意が宿っていた。 

 彼女の手がポケットから抜かれる前に私は引き金を引く。彼女は弾丸で踊り、手からはコーラがこぼれ落ちる。

 数歩下がった彼女は柱に背中を預けて私をにらみつける。手に持った拳銃を私に向けながら、ふっと笑った。

「なにもかも間違ってたのかもね」

 そう言いながら彼女は鼻歌を歌う。小学校の合唱曲によく使われる「翼をください」。そのコーラスを紡ぎながら彼女は地面に倒れた。

 私は彼女に近づいた。身体にあいた穴から血と内臓を流している。首筋に手を当てて、脈がないことを確認した。

 私のスカーフを風が巻き上げた。春一番のように生温かく激しい風。命を感じるような一陣に、私の心はふっと冷えていく。

 そして私はコーラ缶を投げ捨てて何も言わずその場を去った。

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