第43話Who are you

『なぜ、力を使わない?』

 重苦しい声が俺を圧倒する。

「なんだよ。夢の中でも無力さを指摘されるのかよ」

 『なぜ、貴様は私であるのに関わらず、それほど弱いのだ』

「知らねーよ。まず、お前は誰だよ」

 俺はいくつかの疑問を抱きながら声の主に問いかける。

 『貴様のような弱者に語っていいほど安い名前ではない』

 そう突き放すように言われて俺も頭にきた。

「じゃあ、姿ぐらい見せろよ!」

「……良かろう」

 そう声が響くと、霧のような白い空間に黒い玉が現れた。その玉はみるみる大きくなり、一つのゲートのようになった。

「龍?」

 そのゲートから出てきたのは龍であった。たくましい腕、常に相手を威嚇するように鋭い眼光。誰が見ても、龍である。だが、こいつは龍であるはずなのに、龍ではないようだった。

『私の容姿に不満が?』

「いや、なんで透明なんだろうなと……」

 そう、この龍は透明なのだ。だが、内臓が丸見えというわけでもない。輪郭と鋭い目だけが可視化されている。別の表現をするのであれば、この龍は空間そのものではないかと思う。

『透明か。やはり、まだまだだな』

 空間が揺らぐ。おそらく、首を振って呆れているのであろう。

「それは、お前の体は見る者によって色が変わるということかい?」

『あぁそうだ。透明であるということは貴様が弱者であることの証拠。我が発する色を感知できないということである』

「はぁ……」

 もう訳がわからない。こいつは何者で、俺の何を知っているのだ?

 『少しは成長したと思ったのだが……早かったな』

「昔の俺を見たことがあるような口の聞き方をするんだな」

 『実際、見ているからな』

「お前のことは知らねぇよ」

『だが、我は貴様を知っている』

「意味わからねーな」

 俺はもう一度龍のことをよく観察してみることにした。

 すると、俺はこいつと似たような気配を感じことがあることに気がついた。

「お前は聖騎士龍族か?」

『それを知ってどうする?』

「いや、その仮説が正しければ、俺の仲間の言っていたことは嘘になるってだけだ。聖騎士龍は合計25体。俺はその25体全てを管理している」

『知っているさ』

「じゃあ、お前は俺の知らない新たな聖騎士龍となるわけだが?」

『いかにも。我は聖騎士龍なり』

「もう訳がわからんよ」

 『わからなくていい』

 俺はため息をついた。

 『息子よ……抗いたまえ』

「何か言ったか?」

「いや、なんでもない。そろそろ起きないといけないのではないか?」

 そう言って俺の視界からあの龍は消えていった。

 体がひき寄せられる。朝だ……。憂鬱な朝が始まる。

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『落ちこぼれ』の称号を頂いた魔術師の風潮破壊授業 世も末コウセン @kota3383

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