第42話憂鬱な夜にて

「これじゃあ、つまらない」

 俺は授業を組み立てながらそう呟いた。

 時刻はすでに23時を過ぎ、ほぼ24に時針がかかり始めた。

「どうすれば……」

 俺は睡魔と戦いながら授業を組み立てていく。その作業も後少しだ。

 元はと言えば、俺は教員免許を持っていない。校長に気に入られてスカウトされてから、軽めに教育について学習しただけだ。生徒の感情を読み解くことも、わかりやすい説明もできたものじゃない……。

 そんな俺があの学校1のエリートクラスの担任をしているわけだから、周囲のプレッシャーは大きい。「俺の方がもっといい授業を……」「実戦より教科書だろ……」

 所々が細切れだが、誹謗を受けたのは確かだ。

「はぁ。つまらない」

 俺は何度目かわからないため息をついた。

 外を見るとフワフワとゴーストが浮いている。

 ゴーストが危険ではないのかって?それは危険じゃないと言ったのが回答だ。

 この世界のゴーストの定義は人間に害を及ぼさない霊のこと。人間に害を及ぼす霊のことはアンデットと呼ばれている。

(こんなしょうもないことを考えてる暇はないな)

 学校は一種のブラック企業だという言葉を聞いたことがあるが、まさしくその通りだ。

 俺は眠気を覚ますためにコーヒーを煎れる。

「美味い」

 ほろ苦い味が舌を包み込み、感覚を覚ましてくれた。

「さて、一仕事やり終えますか」

 こんな時間まで電気をつけているからだろうか。ゴーストたちが数えきれないほど集まってきた。

「うーん……気になってしまう」

 俺はお香を焚いた。

 ガタガタと窓が揺れ、檻の中で何日も餌を食していない獣を彷彿とさせる。

「窓を開けてやるか……」

 俺は窓を開けて、ゴースト達にお香を吸わせてやった。

 次々とゴーストが集まってくる。

「ふぅ」

 ゴーストは嫌気を晴らす特性を持っている。その理由は科学的に解明はされていないが、その効果だろうか。少しだけ気分が良くなった。

 それでもなお憂鬱だと、そう思った。

 今まではフリーターという種類の人間であった。社会情勢に負けたからだ。もう、悔しい思いはしたくない。

俺はペンを止めた。

明日の授業が完成したのだ。

それに安心したのか、俺は眠りについた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る