第2話
自宅近くの都立公園。その中を僕は歩いている。中間試験の最終日、友人たちと学校近くのラーメン屋で昼食を済ませ、下北沢へ遊びに行くという誘いを徹夜明けだからという理由で断り、空いた下り電車に揺られて帰ってきたところだ。
よく晴れた昼下がり。クローバーで埋め尽くされた広場。整備された雑木林。太陽の光が反射するまぶしい緑に、なんだか落ち着かない感じがした。
「緑がわたしを苦しめる」
ふと思い出した亜矢ちゃんの言葉。十七歳になった僕は、あの頃の亜矢ちゃんが感じていた小さな苦しみを少しだけわかった気がした。
スマホがわずかに振動し、友人からのメッセージが入ったことを知らせる。ズボンのポケットへとゆっくり手を伸ばしかけて、止めた。水槽みたいな小さな世界でうまく泳いでいこうとするのは疲れる。まぶしい緑の刺激は、感じないようにしていたことを気づかせてしまう。
結婚して来年には母親になる亜矢ちゃんは、もう緑に苦しめられることから卒業したのだろうか。僕にも緑に苦しむのではなくて、癒される日がくるだろうか。
俯いて、煉瓦のタイルで固められた歩道だけを視界に入れるようにして、僕は歩みを進めた。
緑がわたしを苦しめる 大江 @ooe77
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