第三話 中層階

 ドラセナはエレベータシャフトの終端に行きついた。高度的にまだ最上階ではないようだったが、扉を突き破って外へと出た。そこは、天井と床が白く塗装された何もないただっ広い部屋で、ドラセナの真向かいの壁際に『上層階行き』と書かれたエレベータがあった。その中央には、三つの人影があった。

 男たちの全身は銀クロームに輝くスキンスーツに覆われ、頭部はフルフェイスヘルメットめいて凹凸がない。その両腕には、鋭い諸刃の振動剣ヴィブロソードが取り付けられている。三人ともその姿は一様で、まったく差異が見受けられなかった。

 ドラセナはこの男たちが、自分と同じ合成人間であることを直感した。


 男たちが同時に動いた。床を蹴り、ドラセナへと迫る。凄まじい力で蹴られた床が、その運動量に耐えかねて炸裂する。踏み砕かれて白い粉塵と化した床を残して、男たちはさらに加速し、男たちの末端が大気の断熱圧縮で赤熱し始めた。

 ドラセナは男たちよりさらに速く動いた。常人には知覚できないほどの一瞬で男たちとの距離を詰め、自分から見て一番右側の男の顔面に蹴りを入れた。

 ドラセナは驚愕した。男の頭部を粉微塵に砕くつもりの蹴りだったのに、蹴りを喰らった男は大きく仰け反っただけだったのだ。

 その内に、残りの男たちが距離を詰めてくる。蹴りを入れた右足を引き戻す前に、男の一人がドラセナの首筋目がけて、振動剣を振るってきた。ドラセナは引き戻す途中の右足で、刃の腹を叩いて軌道を反らした。もう一人の男が右手で突いてくる。ドラセナは両手でその振動剣を挟み込み、折ろうとした。だが、折れない。

 やむなくドラセナは振動剣を挟み込んだまま、思いきり捻った。突きを放ってきた男の身体が捻じれ、ドナセナの力に負けて回転する。

 空中で独楽のように回転する羽目になった男の頭部に蹴りが入れられ、男が吹っ飛ぶ。

 もう一つの男の袈裟切りを躱して、ドラセナは男のわき腹目がけ、両手で貫手を放った。男の身体を打ち抜くつもりの一撃。だが、男に致命傷を与えることができない。男は大きく後ずさった後、体勢を立て直した。


 ドラセナはプラズマ銃を抜き、最初に攻撃した男に向けて、撃った。男は飛翔するプラズマ塊を両断し、そのままドラセナに切りかかった。ドラセナはプラズマ銃を銃剣バヨネットモードに切り替えた。磁場がプラズマを流動させ、銃身の先に光り輝くプラズマ・ブレードをつくった。

 ドラセナが横なぎに振るった光刃が男の頭部を両断した。すると、すかさず残りの二人の男たちが両手の振動剣を振るって攻撃を仕掛けてきた。息もつかせぬ連続攻撃をドラセナはいなした。完全な連携。なんとかして隙を作る必要があった。

 ドラセナはプラズマ銃の銃剣モードを解除した。光刃を構成していたプラズマが磁場の枷から解き放たれ、飛び散った。小爆発と共に、閃光が迸る。男たちの攻撃タイミングが僅かにズレる。ドラセナはその隙を見逃さなかった。

 二つの首が飛んだ。再構築されたプラズマ刃が男二人の頸部を一閃したのだ。


 粗く息を吐いたドラセナは三人の男の死体を見た。思いがけぬ強敵だった。あの運動性能と耐久性。恐らくモンステラから得たリバースエンジニアリングの成果だ。

 FPROはどこまでヒラバヤシ三重公社の神秘を解き明かしたのだろう?姉は果たして無事なのだろうか?ドラセナはそこまで考えて首を激しく横に振った。

 どんなFPROがどんなモノを繰り出してこようが、叩き潰し、前進するだけだ。ドラセナはそう決心しなおし、上層階行きのエレベータに乗った。


 

 

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