第四話

「こんな感じでいいか」

 博物館の帰り道、ホームセンターに寄って俺は大きめのレジャーシートを買った。といっても、気合を入れすぎて大きすぎてしまったのだが。

 俺たちは家賃が安いがために一階の部屋を借りていた。だがそのお陰で少しだけではあるが小さな庭もついてきた。レジャーシートを本来の大きさの半分にして、今日はそこで見る。

「お〜!裕太気合十分だね」

 丁度風呂から上がったのだろうか。タオルで頭をわしわしと拭いている隼人が、窓を開けて俺に声をかける。微かなシャンプーの優しい香りが心地良い。

「まあな、見るならとことんやりたいからさ」

「じゃあ俺はビールでもとってくっか!」

「ナイス隼人」


 携帯を確認してみると、時間は既に十一時を過ぎていた。あと少しで見られるであろう流星群に、俺は心を躍らせていた。隼人が冷蔵庫で冷やしておいたビールを持ってきた瞬間、一つ、星が流れた。


「「あ」」


それは同時に出た。そして星たちは、堰を切ったように一斉に流れ始める。思っていた以上にスピードが早く、音が聞こえてきそうだった。


「うおやば!流星群の日ってこんなに流れ星見れるもんなのか!今まで気にしたこともなかった」

「すげえな…なんか流れすぎてむしろレア感がない…」

「確かに!」

 ふは、と隼人が笑う。柔らかい月の光が顔を照らし、なんだかそれは、とてもきれいに見えた。

「なあ〜裕太、お前願い事とかないの? こんだけ流れ星見れてるんだから一つくらい願っておけよ」

「願い事は……あるけどお前には秘密」

「はあ!? なんでもったいぶるんだよ〜!」

「いた、いいたいいたい!!ほんとに痛いんだけど!!」

 思い切り二の腕をつままれる。隼人の得意技なのだが、握力が強いのだろう。異様なまでに痛いのだ。

「お前が願い事言わないからだろ〜くらえ〜!」

「隼人お前酔いすぎ!飲みすぎるなって言ったろ!」

「よってね〜もんバカにするな!」

「絶対酔ってるだろ…それより、お前こそ何か願い事とかねーのかよ」

「んぁ俺?俺はな〜そうだな〜」

 少しの間ができる。星が綺麗だ。横からん〜と小さく、ウシガエルのような唸り声がする。変わらず星は降り続けていた。

「お前とのこの生活がずっと続きますよ〜にっ!」

 予想外の答えに、俺は少し反応が遅れてしまった。星を見ていたというのもあるのだが。

「お前それ家賃とか生活費諸々安いからだろ」

「あは、ばれた?」

「バレバレだわ!酔っ払いは冷えるからさっさと寝ときな」

「わ〜っ!裕太ったらオカン〜!」

「はよ寝ろ!」

「はぁ〜い」


 そう言って隼人はそそくさとリビングに戻った。やはり酔っ払っていたのだろう、頬がほんのり赤く染まっている。あいつはいいつけを守り素直に眠った。ソファーの上だったが。

 腹が出てしまっていた隼人に、俺は布団をかけまた天体観測に戻る。



「静かになったな…」

 俺の願い事は ” 金平糖体質の人が現れますように ” だった。ただ見てみたいっていう自分の欲望ではあるが、隼人の前でいえばバカにされること間違いなしと思い言うのを渋っていたのだ。


 ――カラン。と軽い音が後ろから聞こえた。


 振り返ってみると、後ろに置いてあったテーブルの上に小さな金平糖が一粒落ちていた。普通の金平糖は白や赤、黄色などの色合いをしているが、であろう金平糖は透き通った琥珀のような色をしていた。

 つまんで空にかざしてみると、沢山の星が金平糖越しに見ることができた。この世のものとは思えないほど、綺麗だった。


「こんなにきれいな金平糖は初めて見たな。でもこいつ、どこから来たんだろう‥」

 つまんだ金平糖を眺めながら思案する。

 ”金平糖には気をつけて”

 今日、博物館でおじさんに言われたその言葉が脳裏をよぎり、少しドキリとした。

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金平糖症候群 環道 沙樹 @fall_cat0906

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