第三話

「そんなことあってたまるかよ! というか都市伝説の本に乗ってたのになに本気にしちゃってるんだよ」

 隼人特有の少し高めの声が部屋に響く。

「いやいや、だってすごくないか!? 人がこーんなちっちゃい金平糖になっちゃうんだぞ!ロマンの塊でしかないだろ!」

 そう言って俺は買ってきた金平糖の一粒を指でつまみながら隼人に見せた。

「しょうもないなあ‥」

 隼人はソファーに寝転びながらそう言い放つ。なんかこいつ太ったか? 腹が出ている。俺はその少し出てきている腹を叩きながら博物館に行こうと誘った。少しごねられたが俺の熱意に折れて今度の休みに一緒に行けることになった。本物の文献をこの目で見れるなんて! 嬉しすぎて筋トレがしたくなってきた。早く日曜日にならないだろうか。そう毎日考えながら日曜日までを過ごした。



――日曜日。空は快晴で暖かい。絶好のお出かけ日和だった。


 今日は二人揃って文献を見に行く。心做しか隼人はウキウキしているように見えた。意外とあの話、信じているのだろうか。そう思うと少し笑ってしまった。

 二人で電車を乗り継ぎ、博物館の最寄りの駅に降り立つ。周りは山に囲まれていて、鶯などの野鳥の鳴き声が鮮明に聞こえてくるとても自然あふれる場所だ。

 いつもは都会のコンクリートジャングルで生活をしているので、こういうところに来ると心の汚れが落ちていくような気がして、自然と活力が溢れてくる。

 駅から博物館までは歩いて十分程だった。少し汗ばんだ状態で館内に入ったので少し涼しく感じた。博物館特有の少し不思議な香りが、鼻孔を通り抜けた。

 しばらく館内をみて回ると金平糖症候群についての文献が――ほんの少しではあるが――おいてあるのを見つけた。ここの地域では伝説として語り継がれてきているものらしい。


 すると、隣で同じ文献を見ていたであろう、少し小太りなおじさんに声をかけられた。

「この体質、信じていますか?」

「ええ…まあ」

 突然見知らぬ人に声をかけられたため、まともな返事ができなかった。小太りなおじさんは続ける。

「それはそれは。なかなかそういう人にあったことがなくてねえ。私もこれ、信じているんですよ」

「…!そうなんですね」

 自分以外にもこの話を信じている人がいるのか。そういるものではないと思っていたので、少し親近感を覚えた。

「ええ。あ、そうだ、お兄さん達。今日は流星群の日ですよ。今日は快晴なのでよく見えると思います。くれぐれも、金平糖だけは気をつけて」

 そう言って小太りなおじさんはスタスタと出口に向かっていった。


「「何だったんだあのおじさん‥‥」」


 集中して文献を見ていた最中、突然見知らぬ人から声をかけられた緊張で満足に息ができなかった俺は、そっと胸を撫で下ろす。隼人も同じ気持ちだったようだ。

「今夜、流星群って言ってたな、あのおじさん」

「だな。しかも”金平糖には気をつけて”って…本当に信じてんのかなあのおっさん」

「まあ信じてる人は少なからずいるだろ、俺みたいに」

「たしかにな。じゃあ今夜、せっかくだし流星群見てみるか!”金平糖には気をつけ”ながらな〜」

「なっ…お前!からかうな!」

 からかわれた恥ずかしさに大きな声が出てしまった俺は、ハッと周りを見渡す。幸い周りには隼人と俺以外にはいなかった。隣りにいた隼人はにやにやとこちらを見ながら笑っていた。

 帰り際、スマホで流星群について調べて見ると、本当に今夜十一時頃流星群が降るそうだった。


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