第二話

 夕方、俺はいつもより比較的早く帰路についた。いつもなら放課後同じ学部の友人たちとボウリングやら飲み会やらに行くのだが、今日は珍しく予定が合わなかった。そこで俺は以前からずっと気になっていた大学の隣にある古本屋に立ち寄ってみた。

「いらっしゃいませ」

 いかにも古本屋にいそうな、メガネをかけ、エプロンを身に着けたおじいさんが挨拶をしてくれた。よく笑う人なのだろうか。目尻にはシワがたくさん寄っていた。俺はおじいさんに小さく会釈をして、店内を見て回った。

「お」

 そこにはいかにも子供向けに作られたような、あらゆる都市伝説がまとめられた一冊の本があった。

 関晩夫とかが番組をやっている ” いきすぎ都市伝説 ” とか、そういう番組が好きな俺にとってこの本は、この書店に入ってから唯一興味を持った一冊だった。

 ぺら、ぺらと何度も耳にしたことのあるような都市伝説を読み進めていくうちにある一つの都市伝説に手を止めた。

 ――金平糖体質。

 そこにはそう書かれていた。今まで聞いたこともなかった。金平糖と聞くとあの甘いコロコロとした砂糖の塊を思い出すのだが、体質とは一体どういうことなのだろうか。気づけば俺はそのページを食い入るようにして読んでいた。

 文献はあまり残されておらず、残っていたとしてもとても古いものだけらしい。その文献によると、流れ星が降った次の日に、その体質になる人が多かったようだ。現代でも大切にされている文献だそうで、東京の奥の方にある博物館に現物が展示されているらしい。現代でも金平糖体質の人はいると言われている。

「すごいな…」

 初めて聞く都市伝説に俺は驚き、声が漏れてしまった。咄嗟に周りを確認したが誰もおらず、唯一の店員であるおじいさんも、春特有の柔らかい日差しに当たりながらうたた寝をしていた。

 俺はその本をもとの棚に戻し、店を出た。段々と日も落ちてきていた。

 今日の帰り道は、いつもの帰り道と違い、少しワクワクした気持ちで帰った。未だに金平糖体質のことを知った興奮が収まっていない。帰ったら隼人に話そう、そう考えて俺はコンビニで金平糖を買った。

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