金平糖症候群

環道 沙樹

PL

 

 ――金平糖体質。

 

 十八世紀頃に初めて見られた病。

 それは、ある一人の女性から発症した。その女性以外にも数人同じような症状がもられたが、なぜか文献はあまり残っていない。背中に金平糖のいがのようなものができる病。時間が経てば経つほど、その症状は深刻化し、いがの数も増えてゆく。悍ましい病。


 そして、その角が最大二十四個できてしまえば最期。


 なんの前触れもなく、その病に躰を蝕まれた人間はになってしまうのだ。



 カーテンの隙間から太陽の柔らかい日差しが差し込む。眩しい。今日は快晴のようだ。まだ夢の世界から戻りたくない俺はのそのそと寝返りを打つ。


「裕太〜、何してるんだよ!もうお昼だぞ?」


「…………ん」

 頭上で聞き慣れた声が聞こえてくる。幼馴染の隼人だ。朝弱い俺を起こしにこうやって俺の部屋へ来てくれる。

「も〜まだ寝てる…お〜き〜ろ〜!」

 ふんっ! と小さい鼻息が聞こえた直後、俺の身体になりかけていたであろう愛しの毛布――フトンヌくんが剥ぎ取られる。

「のわっ!? さっむ!まだ寝かせろよ!お前は剥ぎ取りババアか!」

「ババアじゃねーし!起こしてやってるんだから感謝しろ!」

 返す言葉もない。ムクリ、と鉛のように重い身体を起こす。目をこするとなんだかいい匂いがしてくる。ベーコンの焼いた匂いだろうか。どうやら俺のためにお昼を作ってくれたらしい。

「早くしないと、授業おくれるよ」

 隼人の言葉でやっと目が冷めた。今日は授業が午後から入っていたのだ。昼過ぎだからといって油断していた。

 さっと準備を済ませ、昼飯を食べ、大学へ向かう。俺達の自宅から大学までは歩いて五分程度の距離にある。遅刻しそうになる時はいつも過去の自分に感謝する。

 学校に入ってからは俺たちは学科が違うので別れて行動する。また会うのはお互い自宅に帰ってからだ。というのも、俺たちはシェアハウスをしている。理由は単純、家賃が安くなるからだ。二人で払えばそれなりに駅の近くで比較的大きな部屋を借りることができた。実際、今の家は結構気に入っている。

 駅までも徒歩で二分ほどだし、部屋の大きさも男二人にしては申し分ない。快く快諾してくれた隼人のおかげだ。


 そしてまた、今日もいつもと変わらない学校生活が始まった。


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