月火
白水悠樹
月火
私と彼との最後の記憶。忘れたくても忘れられないあの記憶は、今も私の心をきつく縛っている。
たしか彼は、火が怖いといっていた。
「そんに怖いの?」
私は無邪気に聞いてしまった。
「あぁ、怖いなぁ。僕の火はいつのまにか誰かを燃やし尽くす」
「悲しいの?」と私が聞くと、これはきっと悲しみなんて生易しい物ではないさ、と彼は言う。
「ただ、照らすだけでありたかった…」
「暖かいだけじゃだめなの?」
私は興味本意で聞いてしまった。
きっと同じことだよ、と彼は言う。
「照らしたくて、暖めたくて、僕はどんどん火を大きくした。でも、全てを包み込めるようになった頃には、僕は太陽みたいに全てを業火で焼き尽くす」
暗がりに雲の隙間から月の光が射した。
「私はあなたに酷いことをしてしまったのね」
「いや、そんな事はないよ」
太陽の光を盗んだに過ぎないはずの月の光が、何も言わずに私達を包んだ。
「僕も君も、元々何も出来ないんだ。だから君は悪くないんだ」
月の光はただの照明に成り下がった。
やがて、彼の火が消えてしまうその時まで。
立派に空に浮かんでいた。
月火 白水悠樹 @1804
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