この作品の良いところは沢山あるけれど、何より目を見張るのは、日常に紛れる非現実が、艶めかしい程に感じられるところにありましょう。
なんでもない日常を繰り返す街角に落とされた一滴の雨のように静かで、風に煽られる木の葉のように捉えようがない。
そんな怪異に心を惹かれ、読み終えた頃には物語に中に縛られたって構わなくなる。
なんだか素敵な幻を見せられた気になって、前と左を間違える。
ようやく目が覚めて、一つ息を吐く間に、またあそこに行きたいと思ってしまう。
読者はいつしか、ツヤツヤとした異形の姿に取り憑かれるのです。
そんな物語が丁寧に編まれた短編集でした。
皆さんにもぜひ読んでほしい。
心の底から願います。