「懐中電灯…」
低迷アクション
第1話
“怖い話”かどうかはわからないと“友人”は語る。
15年前の夏、伊豆のキャンプ地に、彼を含む男女数人が遊びに出かけた。日中は海で遊び、夕方、山のバンガローに戻った友人は異様な眠気に襲われたと言う。見れば、彼以外の仲間達も皆、一様にうつら、うつらとしている。
“昼間の疲れが出たのかな…?”
思う間もなく、意識が途切れた。
目を覚ますと、辺りは真っ暗…時計の時刻は真夜中…他の者も同様に起き出している。何故か全員が一斉に眠り、一緒に起きて、酷い喉の渇きを覚えた様子だった。
「確か、キャンプ場の入り口に自販機あったな。買いに行くか?」
1人がそう言うと、全員が頷いた。皆、寝すぎて、少し体を動かしたい気分だった。
外は雨が降ったらしく、舗装されたアスファルトを焼く匂いが乾きを促す。
「外暗いし、ケータイのライトじゃ、心配だな」
そう言いながら、友人はバンガローにあった懐中電灯のスイッチを入れる。
自然と先頭になる形となり、この後、行う花火や明日の海の予定に話が弾んだ。そんな中、会話に加わらず、最後尾をゆっくり歩く“女友達”の1人が、友人は少し気になった。
しかし、夏の夜…ましてや、数人の若い男女の事だ。昼間の暑さとはうって変わった山の涼しさや、心地よい虫の声に気持ちは緩み、だらだらとした話も終わらない。そのまま、懐中電灯の明かりを頼りに、自販機を目指す一向は、程よい気分で歩いた。
「止まって!」
強い声に思わず、友人は足を止めた。その弾みで手にした懐中電灯を落としてしまう。
割れる音が響くと同時に、辺りは一変し、轟音を響かせる水音が響き渡る。
「あれっ…ここ、滝か?」
「おいっ、何で、こんな所に?俺達、自販機を探してたよな?」
「でも、良かった、〇〇(女友達の名前)の声が無かったら、アタシ等、そのまま滝に真っ逆さまだよ?」
仲間達の言葉に、当の女友達は、何の反応も見せず、滝に背を向け、
歩きだす。全員が慌てて彼女に続く。目的の自販機に辿り着く頃には、空が白み始めていた。
明るくなったのを機に、滝へ戻り、壊れた懐中電灯回収する。しかし…
「可笑しいな、電池が見つからない…滝に落ちたか?」
「いや、破片が散らばってないから、電池もあるだろ?」
「でも、無いよ?一体、何処に…」
不思議がる友人達から距離を置く、と言うより、滝から離れた所に立つ
女友達が静かに呟いた。
「元から、入ってないんだよ…」
初めて全員の背筋が寒くなった…(終)
「懐中電灯…」 低迷アクション @0516001a
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