スタバの神様
すでおに
スタバの神様
強く想えば願いは叶う。少し形は変わっても、ちょっぴり理想と違っても、欲しいものはきっと手に入るのです。
ようやくスタバの新作にありつける。
発売されて10日。すぐにでも飲みたかったけれど、おりしもダイエット中。食欲との戦いは、自分の意思との代理戦争であって、一度敗けてしまえばなし崩しに落城してしまうから、瞳を閉じて、甘い誘惑に抵抗する。
期限と決めた昨日まで、甘いものは断ち続けた。3週間、お菓子を一切口にしなかった。そのかいあって体重が1.2キロも落ちた。目標より200グラムも多い。私はやればできる子。前から思っていたことを実感した。
甘いものを解禁する。リバウンドには用心するが、自分へのご褒美も大切で、いよいよ念願のスタバの新作と対面する。
何度も店を覗いた。すぐに売り切れることもある新作だけど、『どっさりあまおうフラパチーノ』は私をきっと待っていてくれる。通勤時に店を覗いたらまだ「SOLD OUT」の札は貼られていなかった。
昼休みが待ち遠しくて、仕事中も何度も『どっさりあまおうフラパチーノ』に想いを巡らせた。その甘味を、その酸味を、その食感を。いままでも、これからも、スタバは私を裏切らない。
時計が12時を差した。私は鎖から解かれたようにデスクを立ち、一直線にスタバに向かった。ダイエット中はフラパチーノはやめ、ラテで我慢していた。砂糖も入れなかった。
ふとミニストの前で足が止まった。ソフトクリームの新作は『江戸前こしあんソフト』。フルーツ系は出尽くしたと思っていたら、そうきたか。口の中で繰り広げられるあんことソフトクリームのハーモニー、ひんやりとした食感。これも食べずにはいられない。明日か明後日。次のターゲットは決まった。
スタバに到着すると、いつものようにレジの前には何人か並んでいた。後ろについて一つ息を吐く。『どっさりあまおうフラパチーノ』は目と鼻の先。
私の番が来た。迷うことはない。欲しいのは一つだ。
「申し訳ありません。『どっさりあまおうフラパチーノ』は売り切れてしまいました」
うそ・・・。
少し前の人が注文していたのに、それでまだあると安心していたのに、あれが最後だったってこと?あと少しだけはやく来ていれば。『江戸前こしあんソフト』に目移りして、バチが当たったのかもしれない。
しかたなくラテを注文した。そのまま帰ってもよかったけれど、流れで注文していた。いつの間にか『どっさりあまおうフラパチーノ』のメニュー看板に「SOLD OUT」の赤い札が貼られていた。
ラテを受け取って、テーブル席に座る。手に温もりが伝わって来て、アイスにすればよかったと今さら思っても遅い。仕方なくテーブルに置く。と、赤と白が混じった透明のカップが目に飛び込んできた。前の席に置かれたそれは『どっさりあまおうフラパチーノ』に違いなかった。
愛しのあまおうフラパチーノが目の前にあった。自分よりいくらか若い、20代前半ぐらいの、最後の1つにありついた幸運な女性。ラッキーガールがそこにいた。
「一口ちょうだい」のどから出そうになる。一口でいいから分けて欲しい。じっとカップを見つめた。想像していた味が口の中に広がる。よその店舗に行けばまだ売っているところもあるはず。でも、今すぐに飲みたかった。
その時、スタバの神様が舞い降りた。
ラッキーガールが不意に後ろを振り向いた拍子に、肘が当たってカップが倒れ、蓋が外れて中身がこぼれた。不思議の国の雲のような赤と白のまだら模様がテーブルに広がった。
流れる液体から身を避けるように立ち上がった元ラッキーガールは、その場を持て余し、店員を呼びに行った。
後ろ姿を見届けると私は身を乗り出し、前傾姿勢を取り、テーブルに広がったそれに唇をつけ、吸引音を響かせて吸い込んだ。テーブル味が混じるなんてことはなく、口にあまおうが広がった。酸味があるけれど強すぎない。甘味も甘すぎずで、形を残したあまおうが心地よく口を楽しませてくれる。これこそ私が求めていたもの。なおも一心不乱に、粉の中の飴を探すように吸い込んだ。これぞ『どっさりあまおうフラパチーノ』。
店員を連れて戻ってきた女性に気づき私は立ち去った。ラテは席に置いたまま。いまはほしくない。口に残った後味を楽しみ、唇を舐めながら、店を後にした。
ミニストの前で立ち止まる。空き容量があるから、今日の帰りに食べられる。『江戸前こしあんソフト』に頷いた。
この物語はフィクションです。
スタバの神様 すでおに @sudeoni
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