異世界上司とゆかいな同僚たち

りくのゆうき

第1話 入社の挨拶

「今日からこの会社で皆さんと働くことになりました」


 東京丸の内にあるオフィスビルの一角。フロア全員の注目を一身に浴びながら、その大男はマイクを握り直した。


「えー、前職ではフローラル王国第3騎士団の団長を務めていました」


 男は悪びれた様子もなく、厚い胸板を堂々と反らしながら、確かにそう言った。……いや、僕の耳にはそう聞こえた。


「前年度まで続いたブルタン帝国との戦争を和平に導き、全王国民の生活の安定に寄与しました。この業界は未経験ですが、一日でも早くお役に立てるように頑張ります」


 聴衆から拍手が上がる。男の横に立っていた社長、役員、部長、一般社員、誰もがごく普通に手をたたいた。顔を見合わせることもなく、訝しむ様子すらない。新入社員紹介の朝礼は、何事もなかったかのようにそのまま散会となった。


「あの人の紹介、なんだったんですかね?」


 僕は自席に戻るなり、隣の席の女の子に小声で訊いた。


「え? なんだったって、何が?」


 何がおかしいのかわからない、といった口ぶりで、彼女はすぐに自分の作業に戻る。


「あの、ウチってそういうネタをやる文化とかあるんですか?」


 半年前に転職してきたばかりの僕には、まだ知らないことがある。そう思って食い下がったが、彼女は逆に僕のことを訝しむような目で見るだけだった。騎士団の団長のことなど、誰も気にも留めていない様子で、先週と同じ月曜日が始まろうとしている。


 ……この転職、間違っていたんだろうか?

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異世界上司とゆかいな同僚たち りくのゆうき @nyansuke_0513

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