VOL.16 最後の結末
――魔人、それは数千年前に全世界を破壊し破滅させようとしていた存在――
さらには、魔人というのはそういう種族ではなく大元を辿れば人間が発端になるらしい。そして人間以外の種族や魔物や魔獣、様々な者の中から破壊や破滅を望む者達がその魔人へと至る儀式を通過すると、目の前の魔人のように晴れて体中に紋様が浮かび上がり、本物の魔人になれるという。
そしてその儀式とは……
「おまえ詳しいな。やはり人族はまだまだ魔人を忘れちゃくれねぇんだな。そうだ、おまえの言うように俺様は魔人だ。それに俺様はあんなちゃちな儀式なんぞ受けてねぇけどな」
その儀式とは、魔人草と呼ばれる魔力が異常に凝縮された、この世界ではすでに人族によって消しさられ絶滅してしまった植物を、さらに凝縮し丸薬にした物を飲み込み、体の変化に耐えられた者が魔人になるという。
だがこいつはその儀式をしていないという……どういうことだ?
「まぁ俺様の計画を邪魔した見事な冒険者風情のおまえらに俺様が何者か教えてやる。俺様はな……」
随分勿体つけて言う奴だが、きっと頭がイカレタ奴なのだろう。なぜならあいつは……
「魔王8人衆が一人。ボージャルドとは俺様の事よー!!」
少しの静寂が辺りを包み込み、俺もエリーもこのボージャルドも空気の1つになってしまった。
あまりの俺たちの無反応差からボージャルドも気まずくなったのか、咳払いを1つして再び喋り始めた。
「かーーー!! これだから人間はいけねぇ! 俺様が自己紹介してやってんのになんだその反応の薄さはよー!」
「いや、お前が魔王だとか訳の分からん事を言うから一瞬意識が飛んでしまったんだ」
「おいおいおい! まさか俺様が嘘を言ってるとでも思ってるのか?」
「さあな。嘘かどうかはわからん。だがお前が相当強いのは分かる。しかし不意打ちは頂けないな」
俺が静かに怒りを湛えてるとボージャルドは不敵な笑みを出してきた。
「ただの不意打ちくれーで死ぬようなのに俺様の計画を邪魔されたとあっちゃあ、この迷宮を壊しかねなかったからよう。よかったぜ~? おまえが簡単に死ななくてよ~。ある程度強い奴に計画が邪魔されたなら仕方ねぇと思えるだろう?」
「そんなくだらない事で俺を攻撃したのか。まぁお前が何者か分かったからいいがな」
こうやって俺が相手の気を引いてる所でエリーが不意打ちにボージャルドとかいういけ好かない奴の足元から数発残っていたアース・ショットガンの弾丸をぶっ放した。
「そうか分かったならいい。俺様は正真正銘本物の魔王様だか――ぶべっ!?――」
「エリー、よくやった。不意打ちには不意打ちで返さないとな」
「そうですね。いきなりやってきた無礼者にはお返しをしなくてはいけません」
エリーのアース・ショットガンを受けた魔王様が体中穴だらけにしながらこちらを睨みつけてきた。
「ほう、さすが魔王様だ。節約魔法程度の威力で穴が開くのか。これでこの魔法が良い魔法だという証明になったな」
「はい。さすがハリスが作った魔法です。魔王様でも穴が開くんですね」
さすがに俺達の言葉が侮辱に聞こえたのか、体中に開いた穴を塞ぎながら怒りの反応を示してきた。
「俺様に不意打ちをするとは……やるじゃねぇか糞共が~!!」
怒りによって体中の紋様が何やら蠢いているようだが、気持ちの悪い事この上ない奴だな。あんなもの体にあったらすぐに体を乗り換えるぞ。
そんな余裕をボージャルドも見抜いたのだろう。最初から手加減無用の大魔法を放ってきた。
「ゆるさねぇ。おまえら俺様を甘く見るなよ!! 《ハイ・フレアボム!!》」
一気に目の前が赤一色に染まり其処彼処そこらかしこで高熱を伴った爆発が起こる。俺とエリーは瞬時に防御膜を張る。だがそれだけでは足りないのかじりじりと防御膜を焼き尽くそうと高熱の爆風はさらに勢いをあげる。
それに危機感を抱いた俺は瞬時に地面に穴を掘りエリーと共に地中へと逃げ込んだ。
思ったよりも魔王というのは強いらしい。油断はしていないが、これは本物が来たと思うしかあるまい。
「はっ。さすがに耐え切れなかったか。塵も残ってねぇってか」
一人馬鹿みたいに勝利の愉悦に酔っているがこちらも反撃をしようじゃないか。
まずは俺が地中から派手に出現し、上位魔法をぶっ放す。
「消え失せろ 《メテオフレア》」
迷宮の洞窟の通路に突如として巨大な炎で燃え盛っている隕石が出現し、ボージャルドを圧殺し燃やす尽くそうと次々とぶつかって行く。
それと同時進行でエリーが魔力を溜めていき、次の大破壊魔法を使う為の準備をする。
「がぁっ! うぜぇ!! 次から次へとハエが飛んでくるぜ~~!!」
先ほどまでのアース・ショットガンで穴が開いていたボージャルドの柔やわな体ではなくなっていた。
巨大な隕石が降り注いでいるというのに拳1つで粉々に割り砕いている。これにはさすが魔王と名乗るだけの事はあると感心する。これはまた策を練らねばダメだな。
ようやくいくつもの隕石が降り止み、ボージャルドも息をつく。地面はボコボコになっており、下の階層が所々見えるほどに抉れている。しかしボージャルドの体には所々に細かな傷があるようだが、致命傷らしきものは1つもなかった。
「ふぃ~~~…… ようやく降り止みやがったか。まさか一瞬で高位魔法を練り上げるとはな、やるじゃねぇか。なら俺様も力をみせねぇとなぁ!!」
そうはさせじとエリーが地中から飛び出す。しかしボージャルドも魔力を溜め終わっており、エリーよりも早く魔法を放とうとする。
「あまい! 油断は禁物だろうボージャルドよ」
「何を言ってやがる! もうおせ~~!! メガ・キャノ――がっ……がふっ……」
ボージャルドがエリーよりも早く超高位魔法を放つ直前に運良くボージャルドの足元に転がっていた俺の切り離された右腕を、見えないほど細くした金属糸を操作し、それを右腕に繋げた。そうすれば俺の体だ。簡単にまた操る事ができる。それを一瞬で右手を槍の先端のように尖らせ、ボージャルドの背中に勢い良く突き刺した。
だがそれだけでは貫けないのは分かっている。そこで回転を加え、尖った先端に腕に残っている魔力を使い、エクスプロージョンの魔法を幾重にも施す。するとボージャルドの体に触れた瞬間に爆発を起こし、それで貫けなければまた次の爆発が起きる。それを一瞬で数十発も発動させれば、さすがのボージャルドでも耐えられず見事に背後から体を貫く事に成功した。
「て……てめぇ。ここでも不意打ちかよ!?」
ボージャルドの魔法を途中で止める事に成功した俺はエリーが魔法を放つのを見届けた。
「見事ですハリス。 では私も 《ザ・ダークマター・イン・スペース》」
エリーが魔法を放つ。その次の瞬間にはボージャルドの周囲を光を飲み込む闇が包み込む。そして結界のように中からも外からも何者も通る事のできない空間へと変化していった。
綺麗な丸状の結界になり、外は透明なガラスのように綺麗に輝いている。だが中を見てみると一切の光も通さないほど闇一色だ。
「良くやったエリー。凄い魔法じゃないか。一体どういう魔法なんだ?」
「ありがとうございます。今の魔法は特殊な空間の中に一切の防御を透過する暗黒物質と共に閉じ込める事により、体の内側から破壊するといった魔法です」
あの硬い防御力を透過して内側から破壊か……よくもまぁエグい魔法を考え付いたもんだ。だがそれくらいしなければ魔王と名乗る力はあるボージャルドを倒すなど出来ないかもしれないな。
「これで終わると思うか?」
「いえ、瀕死までは持ち込めると思いますが、倒すとなると無理でしょう」
「やはりそこまで強いか?」
「はい。私一人ではきっと勝てないですね。ハリスがいて不意が付けたので倒しうる魔法が使えましたが、一人では発動すら出来ません」
確かにさっきはエリーの方が魔力が早く溜め終わっていた。だがボージャルドの方が先に唱えていた。これは魔力操作の差だろう。魔力が溜め終わっていてもその魔力を操作して魔法を発動する為、魔力操作が上手ければ上手い程、いち早く魔法を放つ事ができる。
しかしエリーも相当な上手さを誇る。だがそのエリーをあっさり上回るとは……
「魔王と名乗っていましたからね。多分数百年から数千年は生きているのでしょう。私も負けられません」
エリーは生きてたった20年と少し、そして俺の自我を吸収してからは、たった数ヶ月しか経っていない。これからますます強くなる事だろう。だが今死んでは意味をなさない。何が何でも死ぬわけにはいかないな。
そうこうしている間にも暗闇の結界が効力を失おうとしている。
「そろそろ魔力が付きます。空間が壊れます」
エリーの言葉に結界を見てみる。所々にヒビが入り、それがどんどんと広がっていく。そしてついにその結界が砕け散る時がきた。
暗闇の結界だというのに光の粒子が飛び散り、中にいたボージャルドが見えるようになった。
立っているのも不思議なほど体中が崩れており、今にも地に伏す様子なのだがボージャルドは倒れる事無く静止している。
「何故動かないのでしょうか? まだ死んではいない筈です」
「ああ、体中崩れているが死んではいないな。だがまだ動かないだろう」
「まさか……何かしたのですか?ハリス」
「ああ、まぁ見ていろ」
そう言うと黙って二人で見ることにした。
まだ動かない。まだ動かない。
だがエリーも気づいたようだ。この光景が以前もあったことを。
「もしや入れたのですか……? リトル・ドミネーターを」
「ああ、その通りだ。今回は米粒程度の大きさじゃないぞ。俺の右肩から右腕まで全てを使ったリトル・ドミネーターだ。いくら魔王でもそう簡単には抗えまい」
いつでも奇襲に反応できるように準備を整えておきながら、全く動く事のないボージャルドを目を皿のようにして見つめる。
そうして数分、数十分が経とうという時にようやく動きがあった。
「少しづつですが動いてますね。どうしますか?」
「とりあえずリトル・ドミネーターが支配できていない前提で動くぞ」
細心の注意を払いながら注意深く見守る。
「あ……がっ…… うぁ、あぁあ。 うぅ、いいあ……」
言葉にならない言葉が口をついて出るが、崩れ去ろうとしていた体が徐々に再生していく。
「リトル・ドミネーターがやっているのですか?」
「さぁな。だがどちらにしろ最大限の魔力を溜めておけ。何かの際には一撃で葬り去るぞ」
完全に回復した状態ではこちらも多大な被害が出る。ならばリトル・ドミネーターで支配出来ていないと悟った瞬間に全力を持ってして、魔王たるボージャルドを葬り去ろう。だがたとえリトル・ドミネーターで支配出来ていても葬り去るかもしれん。
なぜならそれだけ奴が危険だからだ。完全に支配していてもいつその支配を覆すか分からんからな。信用という名の油断をしてはいけない。
「ああ……あうぃ……。 こここ、これでいけるか……な?」
ついに意味の持つ言葉が口から出てきた。どっちが勝った? 魔王か俺のリトル・ドミネーターか……
「ふぅ……。体の再生が完了しました。脳を支配する事に成功です」
見る見るうちに体が再生し、次の言葉が支配したと発言した。ボージャルドは俺が体や脳を支配できるとは知らないはずなので、これは俺のリトル・ドミネーターが勝ったと言う事だろう。
「やりましたか?」
「ああ、やっただろう。これからこの魔王という奴らについて話を聞こうではないか」
まずボージャルド自身について話を聞く。こいつは最初の自己紹介で8人衆が一人と名乗った。という事は魔王は少なくとも8人いると言う事が前提になるだろう。ならばそのボージャルド含めた8人の魔王の話を聞きだしていく。
そしてここで何をしていたのかを。
「私の名前はボージャルド。8人いる魔王の中の1人になります。魔王というのは――」
ボージャルドを支配したリトル・ドミネーターが話すには、魔王というのは先ほどもボージャルド自身が言っていた魔人になる儀式をせずに魔人になった、つまり自然に生まれた魔人の事をいうらしい。
そしてその自然に生まれた魔人は儀式で魔人になった者達と違い、戦力に圧倒的なまでの差があるという。それは儀式で生まれた魔人が100とするならば、自然に生み出された魔人は10万にも20万にもなるという。
そして……
「その自然に生み出された魔人の中でも特別な者達が魔王になるのです。その戦力差は100万から1000万ほど。つまり、この星で最強の存在ということです」
ただの魔人がAランクからSランクの冒険者に匹敵するのならば、その100万から1000万倍強いという事になる。
だがおかしい。ならなぜ俺達が勝つことが出来たのか。俺達はそこまで強いとは思えない。
「私は本来は違う星にいました。しかし調子に乗りその星を破壊し消滅させてしまった為に、この星に来ました。ですが魔力がこの星は薄いのです。なので本来の数%も力を出せていません。それに8人いる魔王の中では下から2番目に弱いのです」
こいつは下から2番目に弱いという。それに違う星から来た為に、数%の力しか発揮できないと……
本来の魔王というのはどれだけ強いのだろう? すでにSランクは超えているであろうエリーより魔力操作が早い。それでいて実力は数%しか出せていない。これでは星が破壊させられるのも納得だ。誰が抗う事が出来ようか?
しかしなぜこの星に来たのか。それが一番の疑問だ。
「この星に来たのは……あ、の方から少、しでも離れる為……だ……」
質問を繰り返しているうちに、様子がおかしくなってきた。もしやリトル・ドミネーターを打ち破ろうとしているのだろうか?
「エリー。準備しとけ。リトル・ドミネーターが敗れるかもしれん」
「はい。全ての魔力だけでなく、魔力玉も使用しておきます」
魔力玉――これは俺が作り出した丸薬だ。魔人の儀式に使うような飲めば魔人になるといった物ではないが、ありえないほど魔力を凝縮してある丸薬だ。これは俺の魔力を凝縮してあるからエリーが飲んでも問題ないが、もしかしたら赤の他人が飲むと魔人のようになるかもしれないな。他人にやる事など考えていなかったが、注意する必要がある。
だが今はそれ所ではない。目の前の危険に目を向けよう。
「あ……がっ……。よ、く……も、おれさ……まを操って、くれ、たなぁぁああ!!」
ボージャルドの魔力が一気に跳ね上がり、こちらの体が気圧されるほどの圧力を感じる。これではっきりした。今までのボージャルドは遊びでしかなかったのだ。力を出せる限り出せばまだこれだけの魔力を放つ事が出来るのだ。
「き、さまぁぁあ!! なぜここにいる!? 確かにあの時封印したはずだ!」
意識を取り戻したかと思うと突然訳の分からない事を言い出した。
「何を言っているんだおまえは?」
「何をじゃねぇ! なぜここにいるんだ!! この魔力……確かに貴様はあのくそったれ野郎の魔力だ!」
「一体誰の事を言っている?」
「誰じゃねぇ! 貴様だ貴様!! 何を惚とぼけてやがるサタルシア!!!」
ついに聞いた事のない名前まで飛び出した。一体俺を誰と間違っているのか。それとも……?
「サタルシア。聞いた事のない名前だな。誰だそれは?」
「まだ惚けやがるか!? 俺ら魔王を数百人ぶっ殺しといてよく言うぜ!」
「なんだと? 魔王とはそんなにいたのか?」
「てんめぇぇぇえ! 自分でぶっ殺しといて何を言ってやがる! それとも俺達雑魚は魔王でもねぇってか!?」
話が進まないな。ボージャルドは俺を誰かと勘違いしているらしいが、俺には心当たりは一切ない。一体誰なんだ? サタルシアとかいうやつは……
「なんだ? まだ白しらを切きるつもりか!? てめぇの魔力は忘れられるはずがねぇだろサタルシア!! てめぇだよサタルシア!!」
「何度も俺の事を知っているような口ぶりだが、そのサタルシアとは誰なんだ?」
「てめぇ……マジで言ってんのか? それともマジで人違いか? いや、だがこの魔力はあいつしかいねぇ……」
ボージャルドが一人でぶつぶつ言い始めた。何やら悩んでいるようだ。
俺は俺が誰だか分からない。ボージャルドは俺の事をサタルシアという。俺はそのサタルシアなのか? ではサタルシアはどこで封印されたのだ? なぜ俺が出てきたのだ? ボージャルドは少しくらいは知ってそうだな。確かめてみるか。
「そのサタルシアは封印されたのだろ? その封印は解かれたのか?」
「そんなはずはねぇ! 封印が解かれれば否が応にもそこら中を破壊し始めるはずだ。そうなればすぐに気づく!」
「なら俺はそいつではないだろう?」
「いや、そうなんだが。その魔力はどう考えてもあいつだ。俺様が忘れるはずがねぇ。俺様は命からがら逃げ延びたんだ。そんな死の予感をさせる魔力を持ってる奴なぞあいつしかいねぇ!!」
「では俺はサタルシアということでいいのか?」
「なんで俺様がてめぇのことを知ってねぇといけねぇんだ!? てめぇことくらいてめぇで分かるだろ!!」
「悪いが俺は俺が分からない。俺が何者でどこから来たのか、どこから生まれたのか。それが分からないから聞いている。そしてこの星にはそれを見つけに来た」
本来、命を懸けた戦いをするはずの俺達だが、2人して頭に疑問を浮かべながら話しているという滑稽な景色をエリーは静かに眺めている。すぐにボージャルドを殺せる姿勢を維持しながら……
だがまだ殺すには惜しい。こいつは俺の正体になる物を知っているかもしれない。出来るならまだ殺さずに聞き出したい。だがそれはこちらも殺される可能性が高いのだ。
しかしこの機会を逃せばまた長い間チャンスがやってこないだろう。何が何でも聞き出したい場面だ。
「ボージャルド。俺は気づいたら暗闇に居た。そこでは何もなかった。だから俺は俺の中にある何かを使ってそれを外に向けて飛ばした。そうしたら他の星に繋がる次元の裂け目を作り出すことができた」
「あん? やっぱりてめぇはこの星の人間じゃないのか。通りで変な体してやがると思ったぜ」
とりあえず俺の身の上話をして気を戦いから引き剥がそう。それが出来れば少しは会話が出来るだろう。だが戦いが始まったらすぐに殺す事をしなければいけない。きっとこいつは俺達2人より遥かに強いだろうから……
「そこで俺はその次元の裂け目に落ちた人間の体を奪い、違う星に来た。それがこの星だ。そして体を作り変えて今に至るという事だ」
「なるほどな。人間くせぇが体を作り変えたのか。だから人間らしからぬ力があるんだな」
「そうだ。そこでだ。おまえはどう思う? おれがサタルシアだと思うか?」
「…………。ああ、てめぇはサタルシアだろう。俺様は絶対に間違えねぇ。だが……」
そこでボージャルドの言葉が途切れる。自分でも頭を整理しているのだろう。自分を死の恐怖に追いやった強敵。それが目の前の奴なのか。それとも強敵に似た何かなのか。
「多分だが……他の魔王達が命懸けで掛けた封印が弱まっているのかもしれねぇ。」
「封印が弱まっているのか。その封印はいつ掛けたのだ?」
「いつだったか……。思い出せねぇくらい大昔だ。俺様自身も数千万年寝ていたからな。封印してから数億年は経っているな。……はっ。そりゃ封印も弱まるはずだ。気づいたらそんなにもサタルシアを放置していたか……。こりゃまた他の魔王共を集めて封印させるしかねぇなぁ」
「数億年か……。俺は多分だが自我を得てから数千万年は経っているはずだ。きっと封印が弱まりサタルシアとか言う奴の中で別に自我が目覚め、こうして俺になったという可能性もあるのか」
俺は自分が何者なのか探していた。だがこうして自分の正体を知るヒントを得られただけでももう満足してしまった。だがここにはエリーがいる。ならばここで死ぬわけには行かない。なんとかしてみたいものだ。
「ボージャルド。最後に聞きたい事がある」
「あぁ? なんだ?」
「他の魔王というのは1つの星に1人だけしか生まれないのか? それに他の星からはどのくらい魔王が生まれるんだ?」
「ああ、1つの星に1人しか生まれねぇ。だからこの星の魔王は俺様が殺した。この迷宮深くに眠ってるぜ。それに他の魔王がどれくらいか、かぁ……。さてな。その時代で大分左右されるからな。魔王が全くいない星もザラだろうぜ。だからてめぇを封印できたのは運がよかったぜ。生き残りの魔王が全世界で8人しかいなくなったんだからよ」
「なるほどな。ではなぜサタルシアの封印はおまえ達魔王がやっているのだ? 他にも強い奴らがいるはずだろう」
「はっ。さっきも言っただろう。魔王というのはその星で最強だと。だから自分が死にたくなきゃ魔王がやるしかねぇんだよ」
「そうか……なるほど」
これで聞きたい事は大体聞き終わった。これからは魔王殲滅に移る。これ以上話を引き伸ばしても奴の気が変わればすぐに俺達は死ぬだろう。ならばこれ以上危険を冒す必要性はなくなった。
すぐさま俺はエリーに心話でボージャルドを殲滅する事を伝える。
「(エリー。聞きたい事は聞き終わった。これよりボージャルドを殺しにかかる)」
「(了解しました。ハリスが動いたらすぐに攻撃します)」
これで攻撃準備を整った。あとはどうやってボージャルドを殺すかを考える。しかし一撃で殺さなければすぐさま反撃されるだろう。それほどの相手だ。さっきまでのボージャルドではなく魔力の波動でこちらが気圧されるくらいまで強くなっている。ではどうやって殺すか……
「俺様もてめぇに聞きたい事がある。てめぇがサタルシアと別の自我だとするならば、てめぇを殺すとサタルシアも死ぬのか?」
ギラリと瞳孔が開き一気に臨戦態勢になる。まずい! と思うが、努めて冷静に対処し、ゆっくりと話していく。
「悪いがその程度でサタルシアという奴が死ぬんだったらとっくに死んでいる。これは他人の体を借りているに過ぎない。ここにいるのはきっと自我だけだろう」
「ちっ。そんなに上手くいかねぇか。だがてめぇは生かしとく訳にはいかねぇ。何せ俺様の死の象徴だからな!!」
言い終わると同時にボージャルドが手を俺の方へ向け、魔力を解き放とうと体中が光り出す。だが俺は1つの勝機を見出していた。それはリトル・ドミネーターで奴の頭を探った時に、奴は魔力の塊である事。そして魔力は意図的に暴発させる事が出来るという事。
だがそれは目の前で核の数百倍もの威力の爆発を食らうということ。果たして生き延びられるか……。
「悪いなボージャルド。おまえには自分の魔力で自爆してもらう」
「何を言ってやがる!! てめぇには死をくれてやっ……がぁっ!?」
全力でボージャルドのまだいるであろうリトル・ドミネーターを最後の魔力を操作して一瞬でいいのでボージャルドの動きを止める為に脳を出鱈目でたらめにいじくり回す。その次の瞬間……
「滅びなさい!! 《フロストフラワー・イン・ルーンフレア》」
「て…めぇえええ!! ふっざけるなぁぁああ……あっ……ぁ……」
エリーの魔法にボージャルドの動きが止まる。
まるで最初から命が尽きていたかのように。
―― フロストフラワー・イン・ルーンフレア。
これは炎と氷の超強力混合魔法である。
フロストフラワーは対象の内部から全てを凍らせる魔法。そしてルーンフレア。これは最強の炎の妖精王であるイグニスの魔法とも言われるほどの威力を持ち、すべてを消し飛ばす超高熱の爆裂魔法である ――
それらの魔法を混ぜ合わせ1度で使うなど、エリーはどれほど無茶をしたのだろう? 絶対に魔力が足りていないはず、もしや与えた魔力玉を全部使ったのか? それではエリーの体が……
そう考えている間にもボージャルドの体は凍っていき、ついには全ての活動を停止させた。もちろん俺のリトル・ドミネーターすらも完全に凍り付き、活動の一切をする事が出来なくなった。
「エリー!!」
そこで俺はエリーを守る為に体を変形させエリーの全てを守るように、綺麗にエリーを包み込む。
そして次の瞬間……
地上に転移したジャンク達はギルドに迷宮の異常を報告をし、そして有志の冒険者達を集めていた。
そしてその数は数百人に上り、中には歴代最高記録の深さまで行った事のある、齢87歳の戦士まで来てくれた。
「おいおいおい! ヨードラムのじいさんまで来たのかよ!?」
「なんじゃ? 来ちゃだめと言うのか。なら帰るか」
「おじいさんごめんなさいね。ジャンクあほが余計な事言って……」
そう言いながらジャンクを杖で叩くお決まりのパフォーマンスをする魔法師のリーミ。
そしてそれをいつも通り苦笑いしているジェイドは黙ってみている。
「とりあえず来てくれて助かったぜ! ようし! これでさっさとあのゴブリンが大群を起こした所までいけるぜ! さぁ! 早く行こうぜ!」
「こらこら。焦る出ない。全く気が早くてかなわんのう」
もうすでに出発しようとするジャンク。それを咎める為、ではないが後から出てきたギルドマスター。これでようやく出発する目処が立った。
「どうれ。そろそろ行けるかのう。では皆の者。きちんと魔法糸は持ったな? 持ってないときちんと転移出来んからのう。最後の確認をしとくんじゃ」
魔法糸とはそれを持っていればパーティーと認識され、転移する際などに一緒の転移出来る道具である。
「さぁて。では迷宮に向け出発じゃ!! んっ……?」
「な、なんだ?」
「なんだこの揺れは?」
「なに? なにが起きてるの?」
「おいジャンクよ。ほんとにゴブリンとオークの大群だけなのじゃろうな?」
「俺を疑うのか!? ならジェイドに聞いてみろよ!」
「ええ、確かにゴブリン共の大群だけだったのですが……まさか何か起きたのでしょうか?」
ジャンクの立っている地面がとても激しい揺れが起き、そして大地を割くほどの揺れに変わっていく。
その揺れに建物が崩れ始め大地に裂け目に崩れたまま建物が飲まれていく。そして冒険者達、人間も一緒になって飲み込まれ、そこらかしこで阿鼻叫喚が叫び飛ぶ。
「やべぇ! みんな街の外へ出ろ! ここにいたら裂け目に飲まれるか建物の下敷きだ!」
ジャンクやギルドマスター達が冒険者や住民に避難を呼びかける。しかしあまりの揺れの大きさに、まともに歩く事もできずに皆、地面に伏せるのみ。一部の身体能力の高い冒険者だけが一目散に街の外目指して逃げていく。
ジャンクら冒険者も逃げられるがそこは上位冒険者の意地。逃げるわけには行かない。
「早くしろ! 立て! 逃げるぞ! 街の外に――――」
唐突にジャンクら冒険者や住民や、そして建物が崩れる音、地震の音さえも止まった。なぜ音という音が消えたかというと……
フロストフラワー・イン・ルーンフレアにより体が凍り付き、内部から暴発するボージャルド。
だがそのボージャルドの持っていた魔力があまりにも多すぎたのだ。
そしてその多すぎる魔力が爆発を起こせば残るのは……
遠くから見ていた者がいた。近くの山にあった村人達だ。その村人達の証言によると……
「消えただ……。何もかもが一瞬で消えただ。目も眩むような光のあと、目を開いたらもうそこは大きな穴っこしかなかっただ……」
多すぎる魔力は周辺にある全てを消し飛ばした。文字通り塵すらも残さずに。
この世界有数の迷宮都市として栄えたパルダーレ。それが一瞬のうちに全てを消し飛ばされ、無に帰された。そのニュースは瞬く間に世界中を巡り、衝撃を与えた。
それから多くの者達が調査に乗り出し、原因究明を図ったが……それは永遠の謎とされた。
調査が進み、パルダーレ跡には何一つ残ってないと報告されていたが、実は1つだけ残っていた物があった。
それはこの星に存在しない不思議な金属だ。
これはこの星にある様々な金属が高濃度で混ざり合って出来た物であり、決して人類では作れない物である。これが何なのか調査が行われているが、きっと永遠に解明されることはないだろう。
そしてその金属の持ち主は……
「エリー……聞こえるか? エリー。体の半分を失ったがおまえはまだ生きている」
どこからともなく声が聞こえる。
「エリー。俺の体を使って再生させる。きっとおまえなら拒絶反応を起こさずに適応してくれるだろう。エリー……おまえだけでも生き残れ。俺はまた必ずおまえを探し出す……なに、大丈夫だ。おまえは俺の分身のようなもの。必ず見つかるさ」
私が目が覚めた所は広い広い草原でした。なんだか夢を見ている気持ちでしたが、体を見てみると、下半身から下の服が一切ありませんでした。不思議に思いながらアイテムボックスを開こうとしますが開きません。
仕方ないので上着を脱ぎ、それを下半身に巻きつけます。
どうやらマジックポーチまでなくなっているようで仕方なしの処置です。
「ここはどこでしょう? なぜ私はこんな所にいるのでしょうか?」
記憶が曖昧です。
ですが時が経つほどに思い出してきた事があります。
それは、大事な人を失った事。
私には大事な人がいました。それは恋愛感情という物はありませんでしたが、兄といえる人でした。
その人が私を生かしてくれたのでしょう。
こうしている間にもどんどんと記憶が蘇ってきます。
よくあの大爆発から生き延びれたものです。
それもこれもハリスが私の為に犠牲になってくれたおかげ。
でも……
「私なぞ捨て置いて自分だけ守っていればよかったのに……。そうすれば助かったでしょうに……」
あれ? 何かが目から零こぼれていきます。これはなんでしょう?
止め方が分かりません。延々と透明な液体が流れていきます。どうした事でしょう。私は壊れてしまったのでしょうか?
ハリス。あなたのいなくなった世界はとても胸が痛いです。
この胸の痛みはいつ治おさまるのでしょうか?
それとも永遠に収まらないのでしょうか?
どうか教えてくださいハリス。
なぜあなたは私の目に映らないのでしょうか? 声を聞かせてくださいハリス。
私は決心しました。
ハリスのいない世界なぞ意味がないです。
なので……
ハリスが見つかるまで探し続けます。 たとえ寿命が来ても体を作り変えて生き延びます。
そしてまた探し続けます。 待っていてくださいハリス。 きっとあなたを見つけて見せます。
また戻ってきてしまった。この暗い暗い何もない真っ暗闇の世界へ。
俺はまた1から始めなければいけないのか……
また何万年も時間を掛けなければいけないのか……
そんな虚無感が俺を覆い尽くす。
だが……
この感じは……そうか……おまえがサタルシアか。 やはりおまえだったんだな。俺を生み出したのは。
巨大なすべてを飲み込むほどの圧倒的な生命力に俺は闇の中で目を凝らす。
何も見えるわけがない。だがなんとなく見える気がする。その存在を……その姿を。
おまえは何がしたい? おまえは何の為に生まれてきたのだ?
いつもは俺が思う事を、俺を生み出した奴に問うてみる。
だが答えは帰ってこない……
でもなんだか伝わってきたような気がする。
こいつは何もないのだ。
あまりに強すぎる為に何も持つことは出来ないのだ。
友も……家族も……優しさや怒りや憎しみも……感情の1つさえ持つことが出来ないのだ。
だから壊す。破壊する。 自分が持てない物がある限り、すべて壊す。
それがこいつ、サタルシアが存在している理由だ。
だが……
それならば何故俺は生まれてきたのだろう?
破壊の化身から生まれた俺もまた、破壊の化身ではないのか?
わからない。だが1つだけ分かる事がある。
俺には家族がいる。
俺の帰りを待ってくれている奴がいる。
感じるんだ。 見えないはずのこの世界で、心の奥の温かさを感じることが出来る。
エリー
きっとおまえは生きている
ならば俺がすべき事は1つ……
必ず俺はおまえを探し出す。
そして……
この破壊する事しか出来ない俺自身をこの世から葬り去る。
それが俺の死を意味する事だろうとも。
必ずやり遂げる。それがきっと俺が生まれてきた意味だろう。
ようやく見つけた俺の存在意義。
これからの事に思いを馳せながら……
まずは俺の家族を探す事から始める。
また何年掛かるか分からない。
次元の裂け目を作り出し、あちこちに飛ばす。
だがそんなに時は掛からないだろう。
なぜなら……
エリーの暖かさが分かるからだ。
どこにいても感じる暖かさ。
これを感じる所へ飛ばせば、きっとすぐにエリーに会えるだろう。
その時にはまた新たな人生の始まりだ。
待っていろよサタルシア……
きっとおまえを倒して見せるからな。
そう言った後に、たしかにサタルシアが笑った気がした。
なんだ。 おまえは破壊して欲しくて破壊していたのか?
俺の疑問は永遠に返ってはこないだろう。
だがそれでもいい。ようやく存在意義を見つけられた。
俺はここにいる。
そして目的も見つけられた。
それだけでこの暗闇で生きて行ける……
エリー
待っていろよ
もうすぐ会えるはずだ
そうしたら目の前の奴をぶっとばしてやろう
エリー
もう少しだけ待っててくれよ
会えたらまた旅でもしよう
そしてまた迷宮でも行こうじゃないか
きっと楽しいだろう
なぁ エリー ……
―――――――――― 第一部 完 ――――――――
俺は誰だ? ~WHO AM I ?~ テトとジジ @tetotozizi1
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