邂逅
(計算よりプロト1の落下が早い。私のデータよりも重量がある? でも素体のみの
エルテシアは現状の整理をしつつ平行しているルチルの方を向く。
「ルチル、あなたは減速しフォルティナと合流して。」
「え? 何言っているんですか!」
「現状を再度演算したのだけれど、この速度で行くと最悪の場合プロト1と一緒に墜落する可能性があるの。」
「なら、なおさら!」
言葉を強めるルチルに対し、静かに首を振る。
「こんなことに付き合う必要はないわ。それにフォルティナを1人にしたら現場の処理とかに時間がかかってしまう可能性があるわ。あなたも一緒に手伝ってあげて。」
「しかしっ...!」
「【γ003】隊長命令です。【γ004】と合流し周囲警戒を。」
「くっ、了解。でも―――」
命令に背くことはできない苛立ちとエルテシアの手助けができないもどかしさで表情を曇らせる。それでもルチルは力になりたいと思い少し減速したあと再度加速しエルテシアの後ろにつく。
「何してるの! 危ないわ!」
「少しでも間に合う可能性くらい上げさせてください...よっ!!」
エルテシアのバックパックに両手を置き最大出力で押し出した。
ルチルはそのまま留まりエルテシアの背中を見守りながらフォルティナの合流を待った。
(ルチルのお陰でなんとか間に合いそうね。)
エルテシアはプロト1に近づき手を伸ばす。が、突然目の前から姿が消える。
「えっ...!」
エルテシアは体を起こして急制動し地上に着地する。
「【γ004】!」
『はい、捉えてました。飛行型物体がプロト1を乗せそこから南西方向のポイントC2S8です。』
「了解よ。2人もポイントで合流するわ。」
『『了解』』
エルテシアは貰った座標に向けて飛び立つ。
飛行機の上に乗る
「一か八かだったが間に合ったか...」
『ひやひやして画面から目が離せなかったよ、伊那守クン。』
モニターに澄ました顔の霧島が写る。優雅にコーヒーを飲む彼に焦りの感情を感じ取れない。
「とりあえず第1フェイズはこちらの勝ちだ。」
『この後はどうするつもりだい?』
「この森林公園にBDを隠しやり過ごせるならそれでいい。」
『とはいえ、あれが例の噂通りなら...』
「おそらく逃げ切れまい。だからこちらから打って出る。」
『大丈夫なのかい? 今の状態では正面からぶつかれないよ?』
伊那守は出力計のモニターを確認しながらキーボードを打ち続ける。
発進してから今に至るまで調整をしてきたが、それでもテスト時の性能の半分くらいまでしか回復していない。
(どうする。相手は3機に対しこちらは性能が半分しか出せないイクシアのみ...)
『伊那守様。そのままこちらに撤退できないのですか?』
モニターに雛森が表示される。
『それは難しいね〜』
『なぜですか?』
「それは俺たちが【ミストラル】だからだ。俺たちの情報を知られるわけにはいかない。」
『どのみちそのBDを回収すれば場所が特定されてしまうのでは?』
「そうなるかを確認する上でも1度この森に隠す。」
1本の木下に着地したイクシアは車体を傾けてプロト1を下ろす。機体の各部から杭のようなものが地面と木々に打ち込まれる。
「ヴィジョンケープ展開。」
特殊な光の幕がプロト1を囲うように広がると回りの景色と同化し始め、プロト1を隠す。
展開が完了したことを確認してからイクシアはその場を離れる。
『ヴィジョンケープですか...』
『そうだね〜 今
「
『それはいいけど... イクシアは大丈夫なのかい?』
「それは相手の出方次第というほかないな。」
『イクシアにはまだ公開していない技術が使われています。壊すなら形もデータも残さないようにお願いします。』
「安心しろ、雛森。壊す気はない。だが、もしそのときがきたら躊躇うつもりはない。」
不安そうな雛森に伊那守は答える。
2人との通話を切りスラスターを全開にし空へと飛び立つ。
『隊長。プロト1の反応がロストしました。ジャミングでしょうか?』
「いえ、こんな公園でジャミングを使えば、周辺の公共機器に影響が出るはずだけど、見た感じそういう反応はないわ。」
『消えちゃったってことぉ〜?』
「何かしらの方法で隠したのだと思うけど...」
考え込むエルテシアだが、答えが出ることはない。
目標座標に到着したエルテシアは公園内を見回す。この公園は半分が森林になっており一般的な遊具や砂場と木を生かしたアスレチックなどがある。
(隠せそうなのは森の中だけど、スキャナーに引っ掛からないし熱源反応も探知しない。それにしてもタイプ1だけじゃなくて
思考を巡らせていると、突然通信が入る。
『隊長、例の飛行機が確認できました!』
「了解。【γ004】はそのまま観測して、今度は見失わないように!」
『はい』
飛び立つとルチルが待っていた。
その正面にはプロト1を拐った飛行機が目の前で滞空していた。
「隊長。あれ、どうするの?」
「プロト1の場所を知る手がかりだから迂闊には壊せないわ。」
小声で話すエルテシアたちは様子を窺う。
『......まさか本当に存在していたとはな...』
「「―――ッ!!」」
突然の伊那守の言葉にエルテシアたちは驚き身構える。
それを意に介さないかのように伊那守は続ける。
『表舞台で救助活動をしている【αチーム】 家庭用やPR活動などを中心とする【βチーム】 そして破壊工作や犯罪者の拘束などの裏で活動する戦闘部隊【γチーム】......』
「どうしてそれを......」
エルテシアは驚嘆の声をもらす。
【γチーム】は汚れ仕事が多く、表に出ることのないチームでその存在を知るのはエンプレス社内でもごく一部の関係者しか知らないレベルだった。
その情報が見ず知らずの飛行機から告げられたのだ、驚かない方が不思議である。
「あなた、何者?」
『そんな質問に意味はない。こちらからはここから早急にご退場願いたいのだが?』
「―――ッ! 何を勝手な!」
『こちらとしてもあまり目立つことは避けたい。それは
エルテシアが何かを言おうとしたがルチルがそれを止める。
ルチルは眼で後ろを確認するように促す。
「ねぇ〜、飛行機さぁ〜ん。確かにルチルたちも大事にはしたくないんだようねぇ〜」
『ならば早急に撤退を―――』
「そうしたいけどぉ〜、こっちも飛行機さんが持っていった物を回収しないとおこられちゃうんだぁ〜」
ルチルは普段のやる気がない口調で話す。
後ろではフォルティナが長距離ライフルで狙っているのを知っているためこのしゃべり方で時間を稼いでいる。
『ルチルちゃん、準備いいよ。』
「だからさぁ〜、飛行機さぁ〜ん。堕ちてもらうよ!」
ルチルがそういうとエルテシアとルチルの間を弾丸が通過し、飛行の右翼へ飛んでいく。
墜落させ行動不能にした後にデータを奪う算段をつけていたルチルだったが、目論見通りにはいかなかった。
『やりたいことは済んだか? こちらとて時間を無駄にするつもりはなかったが、貴様らの無意味な作戦に付き合ったのだ。こちらの要求も呑んでもらいたいものなのだが......』
弾丸の狙いに間違いはなく、滞空していた飛行機を撃ち落とせていた。
しかし、さっきまで主翼かあったところにはなにもなくさらに飛行機の姿すらなかった。
目の前にいたのは人型のロボットだった。
一瞬の出来事だったが、弾丸が当たる直前に目の前の飛行機が形を変えた。
―――変形したのである。
その
満月の光を背景に浮かぶその姿はスタイリッシュな形状も相まって神々しい輝きを放っていた。
「おぉ〜、変形したぞぉ〜」
「ルチル、そんなことを言っている場合ではないわ......」
キラキラした眼で感動するルチルに呆れるエルテシア。
そんなやり取りをしているとフォルティナが合流する。
「二人ともあれは〜?」
「変形ロボだぞぉ〜 フォルティナ〜、カッコ良すぎるだろぉ〜」
「変形するおもちゃなんてたくさんあるでしょ?」
「違うぞ、エルっち! あそこまで全自動で動けるなんて見たことないよぉ〜」
興奮するルチルの頭をフォルティナが撫でながら宥める。
エルテシアはあの形と照合一致しない未確認の機体、それと高い技術力。それらを統合してひとつの結論にたどり着く。
「あなた、【ミストラル】の人間ね?」
『ふっ...... さすがに気がついたか。だが意味はない。こちらとしては要求の是非を確認したい。』
「ふん、そんなの最初から決まっている。
エルテシアたちは武装を展開し戦闘モードへと移行する。
「【γ003】【γ004】、フォーメーションスリーフォーマルでいくわ! あの
「「了解」」
エルテシアの指示で動き出す。
1番手はフォルティナが務める。長距離ライフルを変形させ、中距離用に切り替えバックパックのミサイルと一斉射撃を行う。
先程まで佇んでいたイクシアは攻撃に反応して回避する。
『なるほど。そちらの意思は理解した。』
冷静に言い放つ伊那森は言葉を続ける。
「———勝負だ!」
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