バーテント・ドール

『プロト1認証コードによる解除を確認... 排水を開始... プロト1を解放...』


システム音声と共にポットの液体が排水される。

その中には1体の【BDバーテント・ドール】がー保管されていた。


「プロト1を回収する。【γ078】および【γ080】は移送用のボックスを用意。残りのγ部隊は周囲の警戒に回れ。」


γシリーズのBD達はそれぞれの役割に展開する。

ビーッ、ビーッ、ビーッ!!

赤色灯のランプがひかり、けたたましい警報が鳴り響く。


『認証ダミーを検知しました。警備ロボは速やかに確認をし、状況を鎮圧せよ。』


再び機械音声で警告が行われる。それと同時に警備用ロボットやドローンが集結する。


「任務は継続するわ。プロト1の収容急いで! 向かってくる物に加減は必要ない、殲滅して!」


指示を出すBD【エルテシア】の号令の下、それぞれが行動を開始する。

侵入者に対し、警備ロボが集結するが暗闇に潜む彼女らを捉えることができない。

黒いカラーが迷彩となりサイズも小さい彼女らは妖精のように舞う。

γシリーズは警備ロボの動力部やカメラなどを的確に破壊し行動を不能にしていく。


『隊長、プロト1の収容完了。いつでも出られます。』

「了解したわ。【γ003】と【γ004】は私と共に輸送艦に搭乗。残りは輸送艦の護衛をしながら作戦通りポイント1026に集合。【γ002】が確認し問題なければ全機帰投。私たちは輸送艦で直接基地へ帰投する。」

『『『了解』』』


エルテシアは的確に指示を出し、輸送艦に向かう。それに追い付くように【γ003】と【γ004】が近づく。3機が輸送艦に乗り込むとエンジンが起動し、発進する。残りの【γシリーズ】もフォーメーションを組ながら周辺のカメラなどを破壊して飛び立った。


「隊長。危険区域を抜けました〜」

「そのようね。でも気を抜くのはまだ早いわ。」

「若干1名もう気を抜いてますよ〜?」


おっとりとした口調で「あらあら〜」とソファーにもたれかかる【γ003】の頭を撫でる【γ004】

【MSBD-Z7348 フォルティナ】コードネーム【γ004】で温厚な性格をしていて面倒見が良い。

サイズはスタンダードサイズのエルテシアより少し大きくそれに比例してかボディパーツもウエスト回り以外大きい。本人は規格武装の締め付けが少し厳しいと少し困っているようだ。

対照的に【MSBD-Z3045 ルチル】コードネーム【γ003】はサイズが小さくスレンダーなボディとなっている。怠け癖がありすぐ休みたがるし寝たがるが、やるときは驚くほどの戦闘力を見せる。本人曰くメリハリがしっかりしてるとのことだ。


「こら、【γ003】まだ作戦中なのよ。シャキッとなさい!」

「危険区域抜けたんでしょぉ〜、なら大丈夫じゃなぁ〜い?」

「もう、なにかあったらどうするのよ!?」

「なにかあってもエルっちがなんとかしてくれるでしょ?」

「任務中は隊長って言いなさい!」


気が抜いているルチルはテコでも動きそうにない。

輸送艦内のソファーに寝転がるルチルを見てため息をつくエルテシア。

フォルティナがそんな二人を微笑ましく眺めていると突然連絡が入る。


『応答せよ、輸送艦内BD――』


その言葉に3体とも反応し、すぐにエルテシアが応答する。


「こちら【γ001】どうしたの?」

『遊撃隊とポイントに移動中大型ミサイルと思われる機影を確認。』

「迎撃は?」

『失敗。ステルスミサイルのようでレーダーに反応せず、こちらの対応が遅れました。現在そちらの輸送艦に向かって飛翔中。』

「こちらで対応するわ。遊撃隊はそのままポイントに集結後撤退よ。」

『いえ、我々もそちらに!』


【γ002】は対象に気付けず迎撃できなかったことに責任を感じているのだろう。通信から聞こえる彼女の言葉には焦りや不安を感じていた。


「いくらBDとはいえ輸送艦やミサイルのスピードに追い付けないわ。情報をくれただけでも感謝している。そちらは引き続き任務を続行。みんなを頼むわ。」

『.........承知いたしました。』


通信を終了し移送艦内は少し慌ただしくなる。


「もらった情報のポイントに索敵をしても反応ないね〜」

「レーダーに反応しないだけの旧兵器にしてやられたわ。」


フォルティナが索敵レーダーと眺めながら不思議そうに呟いている一方、エルテシアは怒りで拳に力が入る。


「2人とも、聞いての通り迎撃は私たち3人で遂行する。急ぎ武装し輸送艦を護衛する。」

「了解です。」

「りょ〜かぁい」


フォルティナとルチルはそれぞれ武装しハッチから飛び出す。

エルテシアも武装し、ポットに入っているプロト1を横目で見ながら「行ってくるわ。」と呟き飛び立った。




街の明かりが点々と見える夜空を3体のBDが飛ぶ。


「各員、輸送機から離れすぎないように行動を。引き離されたら私たちでも追い付けないわ。」

『それって1発勝負じゃなぁい?』

「大丈夫よ。【γ004】見えそうかしら?」

『目標を視認しました。距離は8000で一直線にこちらへ向かってきます。』

『相変わらず目がいいねぇ~』

『ふふっ、ありがとうございます。』

「目標を6000先のポイント4757で【連装砲塔トライ・ヴィエラ】を使用し、ここで目標の芯管を撃ち抜き空中で爆破させるわ。」

『『了解』』


3体はフォーメーションを組み準備に入る。

それぞれの武装が1つの大きな砲台のような形になり、3体BDがポジションに着く。


『対象まもなく当該ポイントに来ます。』

「【γ004】はそのまま観測及び標準合わせ。【γ003】は本体の管制制御と装填開始。」


エルテシアの前にいくつかの複数のウィンドウが表示される。そこにはフォルティナが見ているターゲットサイトにルチルが行っている管制制御の状態と装填率などが表示されている。

その下にはトリガーレバーがあり、エルテアシアはしっかりと握っている。


『装填率100パーセントそうてんかんりょぉ〜』

『ルチルちゃん。砲台射角2度修正できる?』

『まかせたまぇ〜』


フォルティナとルチルは最終調整に入る。

エルテシアは集中し、ウィンドウに映るミサイルとターゲットサイトを合わせる。


『目標ポイントを通過しました。』

「【連装砲塔トライ・ヴィエラ】目標を撃ち抜くわ!」


放たれた一閃はミサイルのノーズコーンの中心を射抜く。


『目標に直撃を確認しました。』

『おぉ〜』

「.........おかしいわ。」


直撃したことに喜ぶフォルティナとルチルと違い、エルテシアは眉をひそめる。


『なにがおかしいのぉ〜?』

『目標には当たりましたが...』

「確かに直撃はしたわ。でもあの威力で燃料タンクを撃ち抜けていないとは思えないの。」

『それってどゆことぉ〜?』

『あ、爆発が観測できないのが不思議なんですね?』


フォルティナは、理解し手を合わせる。


『【連装砲塔トライ・ヴィエラ】の電磁パルスが影響しててフォルっちの眼が使えないからではぁ〜?』

「【γ004】の眼に頼らなくてもあのサイズのミサイルから想定される積載燃料を考えれば、私たちの眼でも見えるはずなのよ。」

『つまりぃ〜?』

「あのミサイルはただのミサイルではないってことよ! 各機武装を戻し、各々戦闘態勢。」


【連装砲塔トライ・ヴィエラ】が解体され、3体分の武装に戻りそれぞれに装備される。

3体が再びフォーメーションを展開すると同時に電磁パルスが解消される。


『電磁パルスの解消を確認。望遠眼ルミナス・レンズ使用可能です。視覚共有します。』


フォルティナの目線の映像が他の2体に送られる。

ミサイルは撃ち抜いた地点で停止していた。正確には滞空していた。


『なにあれぇ〜?』


ルチルが首を傾げて悩んでいると、ミサイルが動き出す。


『ミサイルの側面が3ヶ所開きました。こ... これは、中に小型ミサイルがそれそれ搭載されています!』

『えぇ〜、どゆことぉ〜!』


驚く2体を他所に、ミサイルと思われていた発射台の内部から仕込まれた小型ミサイルが発射される。


『小型ミサイル射出を確認しました。3発とも目標は依然輸送艦の模様!』

「各個迎撃に回って! あのミサイルなら私たちでも撃ち落とせるわ!」

『『了解』』


それぞれがミサイルに向かう。

いち早く接近したのはルチルだった。射撃装備をそれほど備えていないルチル加速を緩めず一直線に相対する。


「さてさて、悪いけどここは通さないよ。【居合の型 三日月】」


抜刀した刃が弧線を描くようにミサイルを一刀のもとに両断する。

そのままフォルティアの方へと軌道を変え、飛び立つ。


「ターゲット、ろっくお〜ん♪」


ターゲットマーカーを小型ミサイルを何重にもロックする。

フォルティナの全身の武装のハッチが開き、各部のミサイルポットやバレルが展開される。


「【フルオープンアタック】これでどうかしら〜?」


ミサイルと弾丸の一斉射撃が開始され、目標に直撃する。

しかし、全弾当たらず威力が足りなかったようで目標の破壊には至らなかった。

挙げ句に被弾箇所が悪く、小型ミサイルの軌道が逸れフォルティナの方に向かってきた。


「え... ちょ、ちょっと待って... こっちに来ないでぇぇぇ〜!!」


手を前に出し思いきり振って抵抗の意思を見せるが、向かってくる小型ミサイルの軌道は変わらなかった。

フォルティナは最後の抵抗とばかりに、防御姿勢をとって目を瞑った。

そのとき―――


『【抜刀の型参式 流星】!!』


その聞き覚えのある声にフォルティナはゆっくりと眼をひらく。

目の前にはルチルと二つに切れた小型ミサイルが落ちていく光景が広がっていた。


「ルチルちゃぁ〜ん!」

「お、おぅ、もう大丈夫だぞぉ〜」


フォルティナは涙目になりながら、ルチルに抱きついた。

ルチルは胸部パーツに挟まれ顔が半分埋まった状態で宥めた。


(あとは任せますよ、隊長。)


ルチルは残りの小型ミサイルを眼で追いつつ願いを託した。




迫り来る小型ミサイルの正面でエルテシアは静かに眼をあける。

左眼には小さなスクリーンがありターゲットの情報や距離、速度などが表示されている。


「対象との距離100、電磁相転砲稼働開始。対象の機能不全及び周囲の影響を算出。【ラ・メイレス】展開、GGCスラスター出力調整。エネルギー循環率80パーセントオーバー。反動対盾アルステラ正面に始動。コンパレーションシステムオールグリーン...」


バックパックから長身の砲台が伸び、手に持っているライフルに覆い被さるようにドッキングし、大型ライフルに変わる。

脚部及び肩部から粒子が放出され周囲をほんのり照らす。

発射時の反動を抑えるために各バーニアに熱が入り、バックパック横に

取り付けてあった大型の盾のようなパーツが射線の邪魔にならないように前方に展開してそこからビームを発しシールドを形成する。


「照準誤差0.023... 『αιアルタ』システムに接続。空間演算調整開始。」


射程圏内の目標を捉え構える。


「【ハイドラ・ディスチャージ】!!」


エルテシアがトリガーを引いた瞬間――――――


「―――えっ?」


さっきまで周囲を照らしていた粒子が弾けるように消えると、すべての武装とシステムが機能を停止した。

状況を急いで整理するエルテシアの目の前に【Power down】の警告が表示される。


「パワーダウン... どうして!?」


一瞬動揺を見せるエルテシアだったが、すぐに冷静になり状況を整理する。


(出力系に問題はなかった... いえ、今はそんなこと気にしている場合じゃないわ。再起動リブートまで待ったところで再度撃つ頃にはもう全てが終わっている。導き出される最善策は―――)


エルテシアは武装全てに再起動をかける。

その横を小型ミサイルが通過し、輸送艦へと近づく。

再起動が完了しすべてのシステムが起動する。


『いきてるぅ?』

『お身体は大丈夫ですか〜?』


通信機能が回復し、ルチルとフォルティナは心配そうに声をかける。


「武装のシステムダウンだから私自身は問題ないわ。」


元気そうなエルテシアに安堵するルチルとフォルティナ。

しかしすぐに表情が固くなる。


『ミサイルどうするぅ?』

「ターゲットは移送艦になっているはず。だから輸送艦を破棄するわ。」

『プロト1はそうするのです〜?』

「ミサイル着弾前にハッチより保護ポットごと射出するし、その後ポットからプロト1を出すわ。」

「そんなことして大丈夫なの?」


ルチルが不安そうに見つめる。


「計算上、それが唯一プロト1を回収できるプランなの。二人はすぐにこちらと合流して。フォルティナは移動中に移送艦からポットの射出準備を!」

『『了解』』


ルチルたちの合流を待つ間に落下ポイントと推定時間を割り出す。

浮遊しているだけなら別駆動の補助スラスターでなんとかできるが、移動するとなるとメインブースターで移動せざるを得ない。

システムの回復はしたものの武装自体の再稼働にはルチルたちが合流する頃までかかる。


(すべてタイミングを合わせて20分。この武装ならギリギリ間に合うわ。)

「フォルティナ、2.31秒後にポットを射出して!」

『少し早いような気がしますが...』

「爆風によるポットの加速を抑えたいのと衝撃で遠隔開閉に問題が発生するリスクを下げたいの。」


エルテシアのもとにルチルたちが合流する。


「二人とも、行くわ!」

「「了解」」


エルテシア含む3体は共有したポイントに移動を開始する。


「ハッチ解放、ポットをカタパルトに接続。射出します!」

「フォルティナはそのまま観測を。私とルチルは先行してポット周辺まで降下するわ。」

「了解、ポットのいつ開くの?」

「高度2000で開けるようにしてあるわ。その場合私たちは高度800から500の地点でプロト1の回収ができる想定よ。」


エルテシアとルチルは速度を上げてさらに降下する。

それと同時に小型ミサイルが輸送艦に直撃し大破する。輸送艦の破損状況やパーツによる被害はエルテシアの予想通りで大きな被害がでないことが窺えた。


『ポット開放を確認。プロト1自由落下開始。』

「確保に向かうわ!」


先行するエルテシアとルチル、それを追うような形でフォルティナが続く。

プロト1の地表到着まで20分を切っていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る