最終話 後味

 「お母さん!」

 すかさず胸に飛び込んだ。

 「ごめんね武瑠、中々地球に来る許可が出なくて遅くなったの。」

 お母さんの胸の中で泣き崩れそうになったが肩を力強く持たれ、頬を両手で抑えられた。

 「え?」

 「ごめん、私もあなたに会えて嬉しい、沢山話がしたい。でも時間が無いの、武瑠も、私も。だからしっかり聞いてね。今武瑠は死ぬか、まだ少しでも生きられるのならそうするか、決めなければならない。」

 お母さんの話によるとこうだ。俺はもうあと5分もすれば消滅してしまうらしい。つまり死を意味する。しかし今お母さんと一緒に宇宙船に乗って宇宙に行けばそれを回避することができるらしい。だが人間の血が混ざっている俺はそうしたとしても仮死状態になり、1年生きられるかどうかもわからないらしい。

 「それでね、今私の星で透明化を治すことのできる薬を作っている途中なんだけど、いつできるか、完成するかさえもわからない。」

 つまり、今まで育ったこの故郷、この星で安らかにこの世を去るか、体に合わない宇宙で仮死状態になり、薬の完成に身を委ねるか。

 どちらが最良かなんてわからない、俺の最も良いと思っている考えはここで死ぬこと。

 どうせ死ぬのなら親友も去ったこの星で死んでいきたい。

 『幸せ』

 ふと脳裏に浮かんだこの言葉で考えがシャットアウトされる。

 海斗は、今俺が死ぬことを許すのだろうか。

 「お母さん、ちょっと待ってね。」

 しっかりと握りしめていた手紙にもう1度目を向けた。

 『なんか直接言うの照れるから手紙で書くわ!俺、あかねのこと好きでこの前告白したんだ、そしたらなんて言われたと思う?武瑠が好きだから無理だってさ!良かったな武瑠、お前あかねのこと好きだったろ?目線でわかるよ。あいつさ、ああ見えて心弱いから、お前が守ってやれよな。結婚式は絶対呼べよ!てか本当はこんなこと書くつもりじゃなかった。なんたって手紙にするには短すぎる文字数だったから前書きが欲しかったんだよ。』

 何書いてんだよ、結婚式なんてもうこれないくせに、なんだよ、気付いてたなら言えよ!隠してた俺が恥ずかしいよ!


 『一生親友だぞ。』


 当たり前だ。

 手紙を読んで考えが変わった。ありがとう、海斗。

 あの時、俺はあかねの問いかけに答えられなかった。あかねは俺を1番の心の拠り所にしていたのに。

 俺はもう1度、あかねに会って伝えなくちゃいけない!

 「お母さん。決めたよ、俺…。」


 -1年後-


 「疲れた〜。」

 高校卒業してテニスの強豪大学に行ったのはいいけど、私には合わなかった。全部全部、この夏の暑さに投げ捨てたい!

 「丁度この日だ、武瑠が消えたの。」

 1年も行方不明になるともう最悪の事態を考えてしまう。私の気持ち、まだ本人に言えてないのに。

 ため息と同時に光が私の視界を奪い、そして目の瞳孔が通常に戻る。

 そして少し先に人影が見えた、ゆっくりとこちらに近づいて来る。

 「え、嘘でしょ?」

 そこに立っていたのは紛れもなく武瑠、本人であった。

 「沢山話すことがあるんだけどさ、あかね。まずはこれを言わせてよ。」

 強く、強く。あの時よりも愛を込めて抱きしめる。一生離れないように。


 「一緒に生きよう。」

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宇宙避行士〜宇宙少年シリーズ〜 狗帆小月 @koki_1216

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