第23話 その後 ディアンとリリア

〈ディアン〉


上司であり、妹の夫でもあるサイオンに言われた通り、すっかり婚約者に振り回されている。


いや、考えたら初対面から、振り回されてはいた。彼女が18歳になったら、結婚する、と言うか結婚したい人ができたから、婚約解消される予定が、今私は可愛い姫に叱られているのだ。


「貴方は、自分が素敵だと、自覚してください。貴方が、その気にならなくても、近づいてこようとする女性はたくさんいるのですよ!私と言う可愛い婚約者が泣いてしまっても良いのですか?」


と、私の膝に乗りながら、喚いている。

お菓子を口に運んでやると、モグモグ食べる。紅茶を口に運んでやると、小さな口で優雅に飲む。


「リリアは怒っても可愛いね。」

耳元で囁くと、喜ばれる。が、今日は嫌みたいだ。耳に蓋をされてしまう。


だから、こちらも意地になって、手を剥がして、耳元に口をつける。勿論、部屋には二人きりだ。


リリアは、怒っている風を装っているものの、もう怒っていないことは、バレバレだし、私の真剣な顔に見惚れているのもわかっている。


「リリア、こっち向いて?」

優しく抱きしめて、囁けば真っ赤な顔で、見つめてくる。

子どもだ、子どもだ、と思っていた婚約者が、少女から淑女に変わるのは思ったより早くて、何の対策もしていなかった私はうっかり深みに落ちてしまった。


彼女が可愛くて仕方ない。

おでこにキスぐらいで、我慢できる時間は過ぎた。


今は、色んなところにキスをしたい。

口にしてしまえば、我慢ができなくなるからしなかったが、今無性にしたい。


…したいけれど、我慢した。はー、危なかった。ちょっとした殺気をあの扉の奥から感じたからだ。


もうすぐ18歳になる彼女にキスすら満足にできないのは、私がヘタレであることと、義家族が怖いからだ。


早く結婚したくてたまらない。私はこの歳まで結婚を意識していなかったのは、単に興味がなかったからだ。


恋愛もリリアを好きになるまでは、おままごとみたいなものだったと思う。リリアには苦労を決してさせたくはないし、悲しませたくないし、泣かせたいのは少しあるのだが、いつも笑っていてほしい。下世話な話をすると、リリアの初めては私が貰いたい。


リリアの初めてのキスは、絶対に素敵な思い出にしたいと思いすぎるから、未だにできないのかもしれないけれど。


過去の自分に言いたいのは、観念して早いことリリアのディアンになれば、幸せを手に入れられるぞ、と言うことだ。


愛し愛される人生は意外と悪くない。




〈リリア〉


婚約者に一目惚れしてから、私はずっと彼が何を考えているかわからなかった。何にも興味を持っていないような様子で、でも嫌われてはいないようで。妹さんがいらっしゃるからか、女の子の扱いには慣れてらっしゃるみたい。


いつだったか、私と婚約したのは私から婚約破棄もしくは解消を言い出すだろう、と言う希望があったからだと聞いたことがある。


私は衝撃を受けた。そう言うことをしそうと思われていたことに気づかずに、私はただ浮かれていた。素敵な大人の婚約者ができて、私は世界一幸せだと思っていた。


だから、少しの間、恋心を封印していた。私ばかり好きなのも癪だし、意地もあって、立派な淑女になって振り向かせたいと思った。


私がしたことといえば、少しだけ彼に期待するのをやめただけ。期待しなければ傷付くこともないから。


けれど最近、結婚が身近になってから、彼の攻撃が止まらない。私が長い時間かけて、建てた壁を一瞬で突き破る。お膝に乗せておしゃべり、は幼い頃良くされたが、最近は毎回だ。


美味しいお菓子だって毎回私が喜ぶ物をご自身で買われてるみたいだし。あと、スキンシップが必ずある。おでこにキスも胸がドキドキしたのに、最近は耳とかほっぺとか、首とか…あの色気ムンムンで。耳元で囁くように話されると、倒れそうになるの。


やめてほしい。


ひどい人なのに。自分で断る勇気がないから、人に断らせようとするずるい人なのに、期待してしまう。


「早く結婚したい。」ってそれは、本音なの?私が気を許すと、急に掌を返したりはしない?わからなくて、怖い。


あなたの考えてることが、まだわからない。不安で怖い。


と、思ってる時期があった。あなたがただの大人ぶっていただけの人だと分かった時から怖さは別のものに変わった。


私が暗くなってから、友人の男性と話していた時、クドクドと説教してきた貴方に私は言った。


「貴方は、私の父なのですか?」

貴方は真顔で、答えた。凄みがあって、綺麗な顔だな、と思った。

「私はリリアの父でも、兄でもないよ。ただの婚約者でもない。」

私はカッとなった。貴方は綺麗な少し怒った顔で近づいてきた。

「私は君が好きなだけのただの男だ。」

私の顔を大きな手で挟む。


「こう見えて私は独占欲が強いんだ。君が婚約を破棄したくても、もう逃がさない。…リリア?大丈夫?」


私は見惚れていた。間近でみる貴方はいつもより必死で、私を失いたくないみたい。私自惚れて良いのかな。


「君の選択肢を奪いたくなかった。君が、私みたいなおっさんを好きになるなんて、ないと思ってたし。でも、さっき男といる君を見たら、無理だと思った。君を手放すなんてできない。好きなんだ。愛してる。」


だんだん顔が近づいてきて、念願のくちづけをされる。くちづけって初めてで。こんなに、とろとろ にされるものだって知らなかった。キスで、貴方の心はわかった。泣きそうよ。


貴方も同じように泣きそうなくせに、

「やっぱり泣き顔も可愛い。」

って笑う。貴方も、可愛いわよ。


不安や怖さがなくなると、彼の行動は逆にわかりやすく見える。私のことが好きで好きで堪らないみたい。泣きそう。

私だってずっと好きなのよ。貴方より年季が入ってるの。


離してなんてあげるもんですか。

覚悟して。結婚したら、容赦しないわよ。






おわり









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男装令嬢は騎士様の制服に包まれたい mios @mios

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