第22話 溺れる

萎れたローズが、元気になるまで、腕に抱いていたかったが、どんどん水分が失われていくので、欲は出さずに、腕から離した。


ローズが少し、意識を取り戻したので、もう一度抱き寄せると、顔を赤くしたまま、拒否はしなかったので、サイオンは嬉しくなってしまった。


「ローズ嬢、もう一度キスしても?」

潤んだ瞳で見つめられ、返事をまたずにキスしたが、怒られなかった。


少し長めのキスをする。抱きしめて、

結婚してくださいと、お願いすると、顔を胸に埋めていたローズが顔を出し、

はい、と微笑んだ。


お互いに真っ赤になる。は、恥ずかしい。


ディアンに報告すると、私の方が上司だというのに、したり顔でポンポンと肩を叩かれる。


不思議と腹は立たなくて、ほっとしてしまう。どっちが上司だ。


「とりあえず結婚式までは気は抜けないですよ。新郎が二人とか、笑えないでしょう?」


兄からの嫌な脅し文句だけど、否定はできない。やりそうだ。


これから少しずつ、ローズには女装の良さを説いていかなくては。しかし、女性なのに、女装て…。


気が変わらない内に、結婚の準備をする。結婚式のドレスは、プロに任せて、小物は自分で作りたいらしい。


新婦の小物ではなくて、男性用ばかり作っているとの報告を受けて、戦々恐々としていたが、つまりは、サイオンにつけてもらいたいものを作っていたみたいで、心配は、杞憂に終わった。


結婚しようとしてから、結婚式までは、あっという間で、婚約する前から考えると驚異のスピードだった。


一度お互いを意識してからは、タガが外れたように、仲良くなり、ローズは今は、男装は数える程しかしなくなった。


とはいえ、夜寝る時に男装するのは、ちょっと変な気分になるからやめてほしい。


結婚して、はじめての夜、男装を仕掛けられたのは、ちょっとしたトラウマだ。あー、怖かった。


ローズなので、襲われはしないのだが、

途中で、これもまあ、有りかな、と思ってしまった自分が怖かった。


開けてはいけない扉を開きかけたような。閉めたけれど。


平民の生活は、楽しいようで、不平不満もなくて、ほっとする。

結婚してからは、頻繁にディアンが様子を見にきては、納得して帰っていく。


次はお前の番だな、と脅すと、まんざらでもないような顔をして、笑う姿に、

大人になったなぁ、とおっさんめいた反応をしている自分に笑う。


ディアンは婚約者に婚約破棄をしてもらいたいらしいけど、されないと思うし、せいぜい振り回されてしまえ、と思う。


ちょうど、今の私みたいに、彼女に溺れてしまえばいい。



幸せの形は人それぞれで、私にはずっと好きなことができることが、幸せの形だった。他の人の言う恋愛とか、結婚とかは幸せと言うより、義務でしかなかった。興味も持てず、私は行き遅れになるのね、と思っていたし、特に悲惨だとは思わなかった。


男装は私を表現する一つのある手段でしかなくて、私が令嬢として生きていくのがしんどくなった時の息抜きだった。

おかしなことにサイオン様を好きになってからは、息抜きが必要でなくなった。


私がサイオン様を好きになればなるほど、自分が令嬢で良かったと思うようになった。


結婚式は花嫁として、堂々と参加し、男装は頭の片隅にすら居なかった。


初夜の悪戯は、ただの照れ隠しだったのだけど、サイオン様は気にされなかったみたい。ちゃんと、慈しんで優しく抱いてくださった。さすが、歳上なだけあって、とてもスムーズで、甘い時間だった。不満なところは一つだけ。サイオン様は騎士だから体力があるのでしょうけれど、私はそんなにないので、休憩は長めに頂きたかったわ。


途中で、意識を失ってしまったから。


そのあとの、照れながら謝るのは、心臓に悪いぐらい素敵で、すぐに許してしまった。 


平民の生活は楽しい。料理はもう少し特訓が必要ではあるけれど。令嬢としてははしたないかな、って遠慮していたことも、サイオン様が笑ってくださるので、たくさんしてみるの。


例えば、サイオン様をその気にさせるとか、キスを強請るとか、膝に乗るとか。

疲れている時には遠慮するのだけど、その場合は、サイオン様が誘惑してくださるから、大丈夫なのね、きっと。


だから、いつも、毎日恥ずかしいけれど頑張って誘惑するの。


最近気づいたの。サイオン様は、笑うとフニャと、していたのに様子の違う日があるって。


身体が熱くなって、サイオン様に絡みついてしまう。はしたないと叱る人はいないけれど。サイオン様にどんどん作り替えられていく気がする。


「ローズ、愛してる。」

愛を囁かれる度に、身体が反応するのは、どこかおかしくなったのかしら。


思考力も、かなり低下してる。何も考えられなくなって、サイオン様のことばかり考えてしまうの。


「ローズ?気持ちいい?」

私が、返事ができないのを、確認して、目を細めている。その顔も好き。


動きを止めて、もう一度尋ねる。

「ローズ?」

意識が朦朧としながら、返事をしたけれど、聞こえなかったみたいね。


「やりすぎたか…ローズ、愛してる。」

薄れゆく意識の中で返事をもう一度かえしますね。


「私も愛してるわ、貴方。」














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