第21話 デート

女性の格好でデートは初めてで、ローズは緊張する。


何故だろう。サイオンとデートと聞いて、男装したいと思わなくなった。

男装したローズにも、護衛をしてくれるサイオンだけど。決して男装を嫌がる人ではないけれど。


前はローズでありアーサーであるのを楽しめたと言うのに、今となっては、アーサーに嫉妬してしまいそう。


男装をしないと言うことは、町娘に変装しようが、令嬢のまま行こうが、男女のカップルとして見られる。


当たり前だけど、それがローズは恥ずかしくて仕方ない。男装した時にマリアにされたように、女性側から腕を組むのははしたなくないか、手を繋ぐ方が良いのだろうか。


サイオンに任せよう、と思ったり、どうしたらいいかと焦ったりする。


「お嬢様、お迎えが来られました。」

「あ、はい。ね、これおかしくない?」

「可愛らしいですよ。頑張って誘惑してきてくださいね。」

マリカの軽口だけで、真っ赤になるのはどうしたら良いの。


「誘惑、勉強したらよかったわ。」

「お嬢様はそのままで大丈夫ですよ。」


「サイオン様がお待ちです。いってらっしゃいませ。」

少し待たせてしまったのに、サイオンは朝から爽やかな笑顔を振りまいている。

機嫌が良さそう。良かった。


サイオンに挨拶したら、すっと腕をだされる。あ、さすが。

腕を組むと、サイオンの顔が崩れたように見える。


あれ、この方こんな顔でしたっけ。

何かフニャフニャされているわ。

いつものあの凛々しいお顔はどこへやら。


二人になると、サイオンの顔が形を取り戻し、キリッと引き締まった。

護衛モードが発動したみたいだ。

元に戻るのなら、またあの顔をさせて見たい気がする。

ああ、私に誘惑の技術があったなら。


「あの、そんなに見つめないでください。」恥ずかしそうな顔をして言われる。「あの、いろいろ我慢できなくなります。」

「はあ。」色々って何ですか?とか聞いたらダメなんですよね、多分。


歩いている道筋で、どこに連れて行ってくれようとしているかが、わかる。たくさん通ったから。お店に行くといつも集中して、大興奮してしまうのだけれど、今すでに興奮してるから、心配だ。


サイオンに愛想尽かされないだろうか。


貴族用の店と違い、入口にも商品が所狭しと置いてあり、人が入りにくい。

器用に通り、エスコートしてくれる。場違い感がものすごいのに、補正してみえるのは、何故なのかしら。サイオン様の周りに、キラキラした物が散らばっている。サイオン様にあんまり、見ないで、と言われたのに、見てしまうわ。


どうしたらいいのかな。





サイオンは、ローズしか見えていない。ローズの周りだけ、明るく光が当たっていて、見てしまう。


ローズはとても素直に感情を現し、表現する。貴族の上辺しか見せない化かし合いを見ている身からすると、不安になるが、その分新鮮に写る。ローズは自分と結婚すると、平民になってしまうが、その方が幸せみたいだ。


貴族社会は、疲れると言っていたから。

平民になっても、マリア様やライラ様からお誘いはあるだろうし、私が近衛騎士から外れるわけではないし、何ら変わりはない。身分だけ、変わる。


本人が気にしていないことを、思い悩むのが、馬鹿みたいに、ローズは楽しんでくれてるようで、嬉しくなる。


ローズをお店に連れて行ったあとは、自分が一度行って見たかったお店に連れていく。カフェなのだが、料理もあるお店で、来い来いとうるさかったので、一緒にローズを連れて行こうと思っていた。

そのカフェは、エドワード王子とスタン王子の妹君であるリサ王女がプロデュースした庶民向けのカフェだ。


シェフの方が、特殊な能力があり、一から王女が育てた、と胸を張っていたので、一度行って見たかった。予約した時の王女の顔を思い出し、笑いがこみ上げる。


ローズは不思議そうに、でも輝く笑顔で微笑みを返してくれて、それだけで胸がいっぱいになる。


お店にいくと、シェフのルーがいて、王女が公務すっとばして、こちらに来たがったのを止めたと言う話を聞いて、ぞっとする。

誰とくるのか異常に気にしてたからなぁ。


ルーの作るご飯は、とても美味しい。じんわりと、滋養に良い。悪いところを直してくれるような、胸がいっぱいになるような。


ローズも一口食べて、私が言いたいことがわかったみたいで、終始美味しそうに、楽しそうに食べていた。


唐突に、ああ、ずっとこうしていたい、と思った。


ご飯を食べ終えて、またエスコートして歩く。「疲れてないですか?あちらで休みますか?」

空いているベンチで休むことにする。


ローズは夜会の着飾った姿は勿論美しいが、今の変装した平民の格好もとても愛らしい。周りには余り人はいない。ローズの可愛らしさを独り占めできて、嬉しい。


「あの…お願いがあるのですが。」

「はい?」ローズの人を疑うことを知らない性格はこの先、不安はある。


利用しておいて、何を言う、と怒られそうだが。


ローズの体を抱っこさせて貰う。

恥ずかしがっていたが、やってみたかったのだ。顔を真っ赤にしているのが、可愛くてもっと見たいと思ってしまう。


そのまま座って話をしていると、蚊の鳴くような声で「そろそろおろしてください」と言ったが、聞こえなかったフリをして、抱っこし続けた。許容量を超えたみたいで、虫の息になっていたので、たまらず、口づけると、くたっと萎れてしまった。


ディアンに、叱られるな、と思った。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る