第24話 御守りに祈りを込めて

「皆のもの、コンなのじゃ~」


 ある昼間、小さいゆかりが配信画面へ挨拶をする。


『コンコン』

『こん~』

『ゆかり一人って珍しい』

『こんちゃ~』


「みおとれいかはお菓子作りをしておる。ゆう、例の物持ってきて欲しいのじゃ」


「ほいほい。しっかし予想してたより重いわこれ――っと」


 配信画面とゆかりの間に大量の物が入った細長い木のかごを置くと、上の方にあった物が幾つかかごから溢れだした。



『あっ』

『これは!?』

『もう来たのか\500』

『仕事が早い』


「察しておる者もいるようじゃが、そうじゃ。これは以前から言っておった御守りじゃ」


 力を取り戻した暁には御守りでも作ろうかと。

 確かに以前そう話していたゆかりは力が戻った後、三人に御守りをどういったものにするか相談を重ねていた。


 まず在庫は出来るだけ抱えないように一人一つまでの完全受注製造、値段は一つ800円。


 デザインに関しては一番時間がかかり、四人全員入れるのか、それとも四人の内からランダムに二人入れるのか、表情やポーズに幾つかの種類を入れるのか等、ここだけで数日間はかかった。

 最終的に御守りを作るといったゆかりが小さいのと大きいのでそれぞれの面を埋める事で決定。


 その後、プロのイラストレーターに希望を送って、その完成図を受け取った。

 最後に、予約数に少し余裕を持たせた数を業者に制作依頼をし、今ここに完成した実物が届けられた。

 

「どうじゃ? 中々よい出来じゃろ?」


 配信画面に向かって良く見えるように完成した御守りの両面を見せる。



『可愛い』

『良い出来』

『今から来るのが楽しみ』

『もっといっぱい買いたかったぜ』

『来たら額縁に入れなきゃ』



「うむうむ。お主らの評価も上々で妾も嬉しいのじゃ。――じゃが、これはまだ厳密には完成しておらぬ」



『なんだってー!?』

『これで完成してないって?』

『マジでか!?』

『こっからさらに何かするの?』



「ゆう」


「はいよ。――あっ、これは余分に注文したのだから問題ないぞ」


 と一つ御守りを取ると封を開け、中に入っている小さな白い包み紙を開くと、数ミリの厚さの木片を取り出した。

 それはどこをどう見ても何の変哲もないただの木片にしか見えない。



『? ただの木片だよな?』

『特になんも変なとこはないけど…』



「確認したのう。ではゆうよ、戻してほしいのじゃ」


 木片と紙を元通り御守りに戻すと、それをゆかりの前に置いた。

 しっかりと見えるよう御守りの山が入ったかごも画面の外へ移動させて。


「ここに妾の力を少し――」


 話しながらゆかりの人差し指の先が淡い光を放つ。

 その指先が御守りに触れると光は中に吸い込まれていった。


「入れて、完成じゃ!」


「で、だ。外側は変わってないけど中は――、こうなってるんだ」


 外側と中にある白い包み紙には変化がないものの、木片には焼き印をしたような跡で『ゆかり』ともう一方の面には『ありがとうなのじゃ』、と印がされてあった。



『……マジ?』

『すっげ\888』

『手品とかそんなんじゃないよな?』

『凄いの見れたわ\5000』

『どんな仕組みだよ!?』



「妾はこれでも神じゃからのう。力を取り戻した今、これぐらいなんてことないのじゃ。問題は数なのじゃが」


「いっぱい予約来たからな。確か一万は来てたか」


 正直来ても数千ぐらいだと思ってたけど、その倍は軽く越えてくるんだもんな。

 まあ実際こんな可愛い、神様だって信じてなくても、少なくとも人間じゃない少女がやってたら買ってみるってなるよな。


「うむ、ありがたいことじゃ。じゃが数が数だけに可能な限り早くし順次発送も行うが、届くのが遅くなってしまう者も出てくるのじゃが、そこは理解してほしいのじゃ」



『了解』

『りょ』

『事前報告ありがたい』

『分かった』

『気長に待ってるよー\1000』



「みな、ありがとうなのじゃ。――報告も終わったが、せっかくじゃしこのまま作業に移るとしようかのう。お主らも飽きたならちゃんねる閉じて構わんからのう」



『作業用BGM代わりに流しとこ』

『とりまつけとく』

『いつまでやんだろ?』



 作業に移るといってもマイクはそのままで、少し作業音は聞こえてくる。

 御守りを取る音、作業を終えた御守りを優が受け取り封筒に入れる音。時折遠くから聞こえるミオと澪歌のお菓子作りの音。


 しばらくの間、そんな緩やかな時間がゆっくりと流れていたが、配信画面の遥か外、キッチンの方で設定された時間が終了した事を知らせる甲高い機械音が部屋に響く。



『なんだなんだ!?』

『ビックリした』

『急に音なったな』



「優、縁、お待たせ」


「美味しそうに出来たでしょ~」


 ミオと澪歌の持ってきた大きな皿にはこんがりと色目の付いた二色のクッキーが沢山のせられていた。



『クッキー!\500』

『うまそうー』

『まさかの飯テロ』

『腹減ってきた』



「さっきから良い匂いがして辛かったのじゃ~」


「また旨そうに出来たな。――では早速」


 出来立てなだけあって持つとほんのり温かく、いざ口にすると中に入れた部分が途端に消えるように無くなっていき、濃厚な風味が味覚を直接刺激してきた。


「うっま! これなら幾らでも食えるって。二人共プロか!?」


「私はミオちゃんを手伝っただけだから」


「澪歌のお陰でいっぱい用意出来た」


「どれどれ、では妾も。――んんっ、なんという美味なのじゃ。…………すまぬ皆のもの、一旦作業を中断するのじゃ」


 完全に作業の手は止まり、四人ですっかりクッキーをつまむ時間とかしていた。

 


『なんだと!?』

『俺も食いたい』

『ちょっとクッキー買ってこよ』


 食べ終わると再び作業音が聞こえてくる緩やかな空間となって、時間だけがゆっくりと過ぎていく。

 作業を開始して数時間。終わった御守りの数は早くも数百を越え、順調にその数を伸ばしていく。

 キッチンからは何かを切っているのか包丁の音が小さく聞こえ、時折、澪歌がミオに料理を教わっているような声も聞こえてくる。

 昼過ぎに始まったこの配信も、外に視線をやれば茜色に染まった空が次第にその影を落としていくのが分かる。

 だんだんと料理の完成が近付いているのか油の跳ねる音も聞こえ、炊飯器からも完成を知らせる機械音が鳴っていた。


「ん、んん~っ」


 ゆかりが大きく伸びをすると一つ二つ、小気味良い骨の音がした。


「もうこんな時間とは。少々集中しすぎたかのう」


 終わった数は軽く数百を越え、この調子でやっていけば1ヶ月程で全て終わるだろう。


「今日はこの辺にしておくのじゃ。皆のもの、またのー」



『おつおっつ』

『お疲れ様ー』

『乙、結局最後まで流してたな』

『おつかれー。いやー飽きずに見れたわ』

『こういうのもまったりしてて良かった』



 別れを告げ配信を終える。今日出来た分は既に宛先が書かれた封筒に入れ続けたし、早速明日にでも送っておこう。


 じきに始まる人気番組のためテレビを入れ、もうそろそろ出来上がるであろう夕食の前にテーブルの上をゆかりと二人、片付けた。

 

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住んでる事故物件で頻発する怪奇現象をYouTubeに上げてみた すらいむ @suraimu-

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