第23話 皆で買い物
「今日は前に言った通りお買い物に行こっか」
朝早くまだスーパーも開いていない時間帯、朝食を食べ終えまったりしているところに澪歌は提案を投げ掛けた。
「あー、あれか。大きいゆかりの服買いに行くって言ってたな。それか」
「そうそう。下着は通販で買っちゃったけど、他は実際のお店で見たいなあって」
ゆかり本人は小さい方が色々と楽なので良いと言っていたが、澪歌とミオは大きいゆかりにも色々と着せたいのか様々なファッション誌を見せては盛り上がっていた。
そのかいあってかファッションに無頓着だったゆかりも多少は興味を示すようになっていった。
通販で買った下着については、胸の大きさが大きさだけに澪歌の物ではち切れそうだったが、何とかギリギリ押し込めれたものの苦しそうだったし、かといって着けないわけにもいかない。
とはいえ、あのサイズだとその辺の下着売場に行ったところで置いているはずもなく、澪歌とミオが正確なサイズを測り、大きい人専用の通販サイトで三人で選んだ可愛らしいデザインのを幾つか購入した経緯があった。
「今から行くのかのう?」
「まだお店開いてないけど、開く少し前には出発しよっか」
「ん、僕も楽しみ」
「三人共、気を付けて行ってこいよ」
「「「えっ?」」」
綺麗にハモったなー。にしてもこの感じ、俺も連れていかれるパターンっぽい。出来ればだらだらしてたかったんだが。
「何を言ってるの優君? 優君も一緒に行くんだよ?」
「…優も一緒じゃなきゃダメ」
「そうじゃそうじゃ。男の手も必要なのじゃ」
「僕達だけだと変な人に声かけられるかもしれないし」
「いや、まぁ、それは、…まあそうだな」
もし仮に声かけられても軽く撃退出来るだろ。
澪歌の心霊現象にゆかりの使えるようになった神通力。ミオは、まあ霊能力はあんまり対人だと意味なさそうだけども。
最初から三人は俺も連れていくつもりだったようだし観念するか。
「分かった分かった。俺もついていくよ」
日焼け止めのクリームを塗り日傘もさして日焼け対策を万全にした三人とともに店への道中を歩く。
それぞれ二人に分かれ相合傘の形となっていたが、傘の大きさはそれほどなく自然と肩が触れあいそうな距離となっていた。
「優君、日傘してると違うでしょ?」
すぐ隣で寄り添うように歩き、微笑みながら澪歌は話す。
「そうだな、正直舐めてた。上からの日差しを遮る分、かなり楽に感じるわ」
これで反射熱も無くなってくれたら文句無しなんだが。
あー、しかしあれだな。こんな暑い中歩くぐらいなら車でも買った方が良いのかもしれんと何度も思うんだが。
実際、近くにスーパー、コンビニ、ホームセンターもあるし、バスと電車もそう遠くない距離なんだよな。
この季節こそ車欲しいとか思ってるけど、実際に買ったら駐車場の料金やら多様の税金とかで、結構持っていかれるんだよ。
遠出をしたい時は前みたく、公共交通機関使ってそっからレンタカーなのが結局一番良いように思う。
そう考えるとどうにも食指が伸びないんだよな。
そういえば着る毛布は結構前から出てるけど、去年だったか着るクーラーってのが出たよな。あれ欲しい! なんでも出た当初は人気になりすぎて速攻品切れになったみたいだけど、置いてるかな? 頼むから置いてて欲しい!
ちらっと、横を見てみると首にかけられたネックレスの細い金属のチェーンが目を引く。
長めのチェーンの先は胸の中に仕舞われているが、先端にあるのはおしゃれな飾りや高価な宝石でも無い。
澪歌とゆかりが外でいきなり消えないようにと作ったアレにほんの少し穴を開け、ネックレスのように改造したものだった。
ミオに相談した時、彼女も賛同してくれて今の形へと姿を変えた。
本来なら衝撃、火や水でもびくともしない封を施していても、それを行った本人には簡単に解除出来たようで、改造を終えてからまた封をしたというわけだ。
ということで今の澪歌とゆかりはネックレスの形でそれを身に付けていた。
「到着到着、じゃ早く中入ろ」
ホームセンターの向かい側、ここにも大型スーパーが建てられており、こちらの方がファッション関係の店が多く入店しているのでこちら側から見て回る事となった。
「あー、生き返る!」
「やっぱりお店の中は涼しいね」
「まっこと。文明の利器はすごいのう」
「どこから見て回る?」
開店してほんの数分、客もまだ少ないながらも店内の案内板を見ている三人は他の客の目を引いていた。
美人どころが三人、それも薄着で一ヶ所に集まっていたらそりゃ目立つなって方が無理な話。
俺だってそんなのいたら見るに決まってる。スーパーだからガン見は出来ないけど、それでも可能な限り目に焼き付けようとしょうもない努力を惜しまないだろうよ。
「決まったか?」
「うん。先ずはここから行ってみよ」
三人の協議の結果、上の階のファッション関係の店全て見て回るようだ。
あまりに値段が高過ぎる物以外は気に入ったら購入する方向で話し合いは決着したらしい。
まあね、YouTubeで稼げてるの百パーあの三人のお陰だから、その辺りは文句言えないけどさ。
ファッション関係の店舗結構あるぞ。荷物的な意味合いでも可能な限り手加減してほしいところだ。
「どうかなっ?」
「可愛い」
「…どう?」
「綺麗だ」
「どうかのう?」
「似合っている」
一店舗目へ入ってはや数十分以上経ち。
既に店の更衣室の三ヶ所は三人によって使用されていた。
先程から持ってきた服に着替えてはその感想を求められ、しかもそれが一向に終わる気配がない。
最初からこれだと、一体いつになったら帰れるんだろうか。
そもそも閉店までに全部の店見て回れるのかすら怪しい。
大体、そこに居てと言われたけど、女性用の店にある更衣室前で待機って、端から見たら変質者にしか見えないだろ。さっきから他の女性客も俺の方を見てヒソヒソ言ってるし、その内店員に注意されそう。
なんて考えてる内にまた新しい服を着た澪歌達が感想を求めて、返す。
「もう、優君。さっきから同じような事しか言ってないよ」
「そうじゃそうじゃ」
「僕達、魅力無い?」
「――……いや、あれだよ。三人共、もとが美人だからなに着たって似合ってるから、そういう反応になってしまうんだよ」
嘘は言ってない。ほんとに三人共綺麗だし、何着ても似合ってるのも事実だ。
まあ早いとこ買う服決めてここから移動させてくれって方が強いけど。
あれ、さっきいた女性客はどこに――って、うわ。店員さんもこっち来てる。
他の女性客から苦情でも入ったのか申し訳なさそうに女性の店員が話しかけてきた。
「あのー、すみません。ここでお待ちになられると他のお客様のご迷惑になりますので…」
「私達がそこで待っててほしいって――」
言葉を続けようとしていた澪歌を手で制し、俺は店員へ向き直った。
「そうですよね、ほんとすいません。すぐに移動しますので」
低姿勢な態度にまた店員も「すみません…」と申し訳なさそうに言い残しその場を後にした。
「というわけだから、俺は店の前のベンチにでも座っとくな。あんまり遅くなるなよー」
三人にそれだけ言うと返事も待たずにそそくさとベンチへと。
いやー、正直助かった。あの店員さんが来てくれたお陰でこうして座っとけるし、もう感想を求められる事も無くなった。
俺が居なくなった事で見せる相手がいなくなり、その後たったの数分で三人は会計を済ませてきた。
「優君、お待たせ」
「もっとかかると思ってたけど早かったな」
「見せる相手がいなくてはのう」
なるほど。
じゃあ少しでも早く終わらせる為に基本的に店内までは行かないようにしとこ。
「次、行こ?」
俺の考えは多少正しかったようで、その後の店では一店舗目よりは早く戻ってきた。といっても基本的に、三人共買い物に時間をかけるのか一店舗辺り二十分近くは毎回待たされたが。
「あっ、もうこんな時間!」
澪歌の示す時計を見ると、既に時間は正午を回りお昼時の時間帯となっていた。
恐ろしい。何とか半分近くの店は回ったけど、もうこんな時間になってたのか。既に結構な量買ってて袋もいっぱいなのに。
これからさらに半分あるかと思うと、帰れるのは一体何時になるのやら。
「お腹空いたのじゃ~」
「どこかで食べてく?」
「そうだね~。あ、でもその前に袋いっぱいだし、みんなの纏めて送ってもらお?」
どこで聞いてきたのか、一階のサービスセンターで頼むと有料で宅配サービスもしているらしい。
俺も知らなかった。
というかまた身軽になった事だし、昼飯食べた後が怖いわ。
俺の心配通り、お昼を食べ終わった後も店内の買い物は続き、再び荷物を増やしていった。
「ねえ、あそこ――」
ミオが指差した先には男性用の大きな店舗が広がっていた。
「そうだよね! 優君のも見繕わないと」
「いや、俺は別に」
でもここに着るクーラーあったりするかな。だとしたら少し見に行くのも――。
「ほれ、ゆう。行くのじゃ」
少し思案している間に、袋を持ったゆかりに手を引かれ店舗の中へ入っていった。
「品揃えは豊富みたいだな」
大きな店舗なだけあって成長期を迎えた年頃の少年向けの物から、ダンディーな老人向けの物まで幅広い年代を充実な品数でカバーしていた。
三人はというと、それぞれ買い物かごを片手に俺に似合いそうな物を見付けては次々にかごの中へ入れていた。
とにかく先ずは着るクーラーあるか聞いてみないと。店員は――居た。
「あのー、すいません」
「はい、何でしょうか?」
「ここって着るクーラーって商品置いてますか? こういうの何ですけど」
スマホでその商品の画面を見せてみるも、店員の反応は鈍い。
「申し訳御座いませんが、その商品はうちでは取り扱っておりません」
反応で薄々察したけどやっぱりそうか、置いてないか。
「そう、ですか。すいませんわざわざ」
「そんなこちらこそ申し訳ありません」
無いかー、残念。
こうなると俺の目的は終わったんだし、もう帰りたいんだが、あいつら何かかご一杯に入れてるんだけど。
「優君、これ試着して?」
澪歌達の元へ戻ると、三人はそれぞれ衣服が一杯に入ったかごを渡し、試着を要求してきた。
「…これ全部か?」
俺の問いに当たり前のいわんばかりに三人は首を縦にふる。
いやいや、流石にこんないらんって。大体買ったところで収納スペース絶対に足りないし、こんな毎日着飾ったりもしない。
俺としては服に金かけるぐらいなら食い物に金かけたいわ。
試着だけにしたってこの量は多すぎるだろ。このままじゃ着せ替え人形になってしまいかねない。
「あー、流石に量多いから、もうちょい減らして。それと、買うにしても二着までだ!」
「だ、駄目かな?」
「駄目」
「どうしても?」
「どうしても」
「後生じゃから」
「駄目なものは駄目」
俺の妥協するつもりの無い対応に諦めたのか、それぞれかごの商品をみるみる減らしていった。
「これだけでもやって欲しいな?」
三人が協議しながら残したのはほんの数点。これならそんなに時間も取られないし、三人に付き合おうか。
「――カッコいい!」
「そ、そうか?」
前まで一人で試着して姿見で良さげだったら買ってたんだけど、こうして試着したのを誰かに見てもらうなんて初めてだし、誉められるのも何か恥ずかしいな。
「良く似合ってる」
「惚れ惚れするのう」
「じ、じゃあ次のに行くから」
逃げるようにカーテンを閉め、再び一人の空間が訪れる。
やばい、やばいぞこれは。
ニヤニヤしてたりしなかったよな。――今は大丈夫だけど。
面と向かってあんなの言われたら、ちょっとアレだろ。あー、エアコン効いてるはずなのになんか暑いわ。
とにかく、残りも何とか平常心を忘れずにやり過ごそう。間違ってもニヤニヤしたりしないように。
その後はどうにかやり過ごし、三人に決めてもらった二着を購入した。
「流石にもうそろそろ帰ろうか」
開店してすぐ来たスーパーもそろそろ仕事帰りの人々で混雑する時間帯となっていた。
もういい加減帰りたい。帰ってだらだらしたい。
「あと一店舗だけお願い。そこでおわりだから」
「…ったく、しゃーない。そこで最後だぞ」
最後の店舗も見て回りスーパーを後にすると、空は茜色に染まりつつあり、帰り道は日傘も必要なく季節柄珍しい涼やかな風が吹いていた。
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