第22話 登録者10万人突破配信

「一、十、百、千、万、……十万」


 何度数えても間違いない。

 ついに、ついに登録者十万人の大台を突破出来たのか。

 まぁ? 俺はともかく他の三人の力を持ってすればこのぐらいは当然というか。寧ろ遅いまであるけど、何にしてもすっごい嬉しい。

 これで銀の盾貰えるんだろ。確か百万人で金の盾、一千万人でまた何か貰えるんだったか。

 一千万人は途方もないし現実味が無いけど、もう一つ上の金の盾は出来れば欲しいなあ。


 どうする? どうしよ?

 せっかく突破したんだし、記念の配信でもするか。

 昨日作った賽銭箱の宣伝も出来るしな。



「――というわけで今夜、配信したいんだけど」


「どうせなら前みたいにみんなと一緒にゲームしたいなあ」


「…あの時の澪歌はほんとに強かった」


「ミオちゃん見てくれてたんだ」


「対戦もした。ボコボコにされたけど」


「なんじゃなんじゃお主ら、妾が居らぬ間そのような面白い事しておったのか。今回は妾も参加するのじゃ!」


「じゃあ決まりだな。今回は持ってる中で一度に遊べる人数が一番多いレースゲームで遊ぶか」


「優君、通信切断はやってもいい?」


「あれは無しでお願いします。あれされるとどうしようもない」


「えーっ。だったら今のうちに練習しよっかな」


「妾もやっておくのじゃ」


「僕も付き合う」


 俺もTwitterに告知上げてから練習しとこ。




『こん』

『こんー、10万人突破おめ\1000』

『こんこん、はよ銀の盾見たいわ』

『今晩は』

『今日は久々の参加型みたいで嬉しい\2000』

『なんとか一回は入りたい!』

『初めて来たけど美女ばっかり!そこ俺と変わって欲しいわ』


 チャンネル登録者の数は10万人を越え、休日なのとその記念配信というのもあってか、視聴者の数はもうすでに1万人を突破しており、チャット欄の流れもいつもより早く流れていた。



「早速のスパチャありがとな」


「今日はまた前みたいに一緒にゲーム出来るね」


「僕は初めてだけど加減しないから」


「妾も練習したし、ゆーちゅーぶでランカーなる者の動画見て勉強もしたのじゃから加減は不要じゃ。――それよりほれ、皆のもの。何か気付かぬか?」


 俺の隣に座っているゆかりはこれ見よがしに配信画面へ向かって自身の頭を触っていた。



『耳と尻尾が、…無くなってる!』

『なんてこと…』

『有っても無くても可愛いわあ\3000』

『もう出てこないの?』

『もう、もふれんのか』

 


「みなが賽銭箱に入れてくれたお陰で、隠す事が出来るようになったのじゃ。本当に感謝するのじゃ。お守りはまだまだ力が足りておらぬが気長に待ってたもれ。隠した耳と尻尾は――ほれ、こうしたら元通りじゃ」



『おおっ!また出てきた』

『良かったー』

『これがないとただの美少女だもんな』



「あー、いいか。Twitterの方で見てくれてたとは思うが、もう一度確認のためにルール説明するわ」



『頼む』

『オナシャス』

『助かる』



「基本4レースで1セット。4回レースしてそれが終わる毎に一回部屋解散。回線切れとかで途中で落ちたってなっても、それはまあドンマイということで。途中から空いたところに別の人が入っても問題ないけど、参加出来るレース数は少ないのは予め了承の上で頼む。あ、あと、ルールがルールなので今回は澪歌の通信切断は禁止にしてる。――これぐらいだっけか」



『なるほど』

『把握』

『把握した』

『はよはよ』

『はやくしよ?』

『了解しました(*゚∀゚)ゞ』

『始まる…、たった8つの席を巡った争いが…\800』



「分かった? 一応説明文はここの説明欄に載せてるから。――じゃあ、待たせたなお前ら。早速今から部屋作るから」


 キャラクター選択から勝負は始まっている。キャラクターの重量、マシンの性能、パーツとの組み合わせ。それぞれに特徴があって、これだけやっておけば完璧! という組み合わせは存在しない。自分が得意なコース、走る可能性が高いコースなども踏まえた上でそれらを選ばなければならない。


 ちなみに俺は小回りが効く軽量型。このゲームめちゃくちゃ得意ってわけでもないし、コースの特徴も全部把握しきれていない。だからまあ、落ちたり被弾したり壁にぶつかった時でも素早く立て直しが可能とされている軽量型にした。

 それにどうせ皆、俺の事狙ってくるだろうし、打開コースでワンチャン狙いが一番トップを取れる可能性があると考えている。


 澪歌はバランス型。キャラクターをはじめ、マシン、パーツもどのようなコースになろうとある程度は対応出来る組み合わせにしていた。

 練習ではそこそこ走れていたが、俺と同様に全てのコースを把握しているわけではなさそうだった。


 ミオは王道の重量型。キャラクター、マシン、パーツ。その全てがガチ勢の大半が使用している物で固められており、一切手を抜くつもりがないミオの本気度が伺える。

 もともとやりこんでいたのか練習でも圧倒的な強さを見せていて、こちらのアイテムが上手いこと機能した時しか勝利する事は出来なかった。


 ゆかりも俺と同じ軽量型。YouTubeでランカーの走りを勉強した効果か、俺が思っていたより遥かに飲み込みが早く、練習では幾つかのコースのショートカットをもう物にしていた。

 4人の中ではミオに次ぐ実力を身に付け、重量型でも充分戦えるだろうが、好みのキャラクターが軽量型だったのでこれで行くらしい。



 部屋の作成が終わると同時に参加者が集まり、ほんの数秒で12人全員の枠が埋まり、それぞれが選択したレースの中からルーレット方式で走るレースが決定された。


「うわー、初手ここかあ」


「私もここ苦手なんだよね」



『いきなりこことか草』

『長いとこ引いたな』

『優は潰せ』

『皆に挨拶しに行かなきゃ(使命感)』



 ステージの曲が流れ、各マシンに乗ったキャラクターが位置につく。

 燻ったエンジン音が静かに響く中、カウントダウンの機械音と共に赤く点っていたランプは青へと変わり、一斉に爆音を響かせスタートラインを後にした。


 選ばれたステージは一周辺りが他と比べ屈指の長さを誇り、空は飛ぶし水の中だって走行せねばらなず、途中でギミックとしてお邪魔もコース上に登場する。

 総じて空と水中への備えと、プレイヤー自身の高い操作技術が問われる難コースとして扱われていた。


「よーし良し。今のとこは良い調子」


 開催者特権でスタートラインは一番先頭だったし、スタートダッシュも成功。

 すぐに重量型に抜かされたものの、邪魔も無くアイテム次第で充分先頭も狙える位置。

 このまま――っと。

 迫り来る音に後方確認が出来る視点に切り替えると、後ろが投げてきた甲羅が俺目掛け飛んできていた。


「あっぶな! ちょっと仕掛けてくるの早くない?」


 すんでの所でマシンの軌道を変え、何とか避けてみせた。


 まあ、こういう視聴者も参加出来る企画だからな。

 そりゃ主催者に挨拶やら何やらで仕掛けてくるのは良く分かる。俺が逆の立場だったらおんなじ事、いやそれ以上の事は仕掛けに行ったと思うから。

 にしても、仕掛けるの早すぎる。挨拶代わりにしたってもうちょい待つと思ってたが、中々好戦的な奴もいるじゃないか。


 そのまま一周目はミオが先頭、ゆかりは4位、5位に俺が付け、澪歌は後方10位で回った。


 二周目も順位に大きな変動は無かったが、ラストの三周目で大きく状況は変化した。


「あっ、良いアイテム引いちゃった」


 と熾烈なドベ争いをしていた澪歌が、全員を小さくするアイテムを使用。その後すぐ自動操縦で高速に移動するアイテムを連続で引きまさかの4位に滑り込み。


 ミオはその被害を受けながらも何とか1位でクリアし、ゆかりは少々揉まれて7位でゴール。


 一方の俺はといえば、小さくなっている間に後ろから来たプレイヤーに踏まれ、大きさが戻ったとたん甲羅に被弾。

 それでも何とか進んでいると無敵状態の奴が突っ込んできてステージ外に飛ばされた。

 タイムアップになる前に何とかゴールしたものの、結果は11位。それもあと少しでドベになりかけていたギリギリのところ。



『ミオつっよ!』

『澪歌ちゃんの怒涛の追い上げ凄かった\1000』

『てか皆意外と速くてびっくり!』

『優に挨拶出来て良かった!残りはあと三人』

『優とゆかりはドンマイ。あれはしゃーないって』



「いやー、一レース目からやってくれたなお前ら。俺なんか、被害担当みたいな立ち位置になってない?」


「でも楽しそうだった」


「いや、うーん。どうなんだろ、まあ狙われるのは分かってたから何とかしようとしてみたけど。まあ次はもっと避けてみせるわ」


 などと言いながらも2レース、3レース、4レース目も参加者による熱烈なアイサツを受け順位は沈んでいく一方で、そのまま1セット目は終了し順位発表の画面に推移していった。


 1位はミオ。

 実力もそうだったが、早めに集団から抜け出す事で被害のほとんどを回避することに成功し、危なげない走りで総合順位トップで終了。


 澪歌は4位でフィニッシュ。

 レース中は順位の変動が激しかったが、各レースの終盤からアイテムを使った怒涛の追い上げ戦法でこの順位を勝ち取った。


 中位の6位で終わったのがゆかり。

 澪歌と同じようなレース展開があったが、終盤に他のプレイヤーからの被弾を受ける場面もあって中位である6位に収まった。


 俺? 俺は堂々の10位。

 他のプレイヤーから圧倒的な数のアイサツを受けながらドベじゃなかった事は評価してもらいたい。

 ――でもあれだな。

 なんか結果的に中途半端な感じになったな。これならドベの方が配信的にも美味しかった気がするけど、まあそこはガチでやってるって事でそうそう取らんと思っている。



『ミオちゃんこれもガチ勢じゃったか…!』

『優以外は結構良い感じな順位だなこれ』

『寧ろあれだけ狙われて最下位じゃないのが凄いわ\1000』


 そうだろうそうだろう。そういうのもっと言ってくれ。


『次は参加したいわ』

『この配信いつまでやるつもりですか?』


「一応俺は徹夜のつもりだが、三人は眠くなったら寝ても良いからな」


「私はほら、幽霊だから寝なくても平気だし最後までやるよ」


「…僕もそのつもり」


「妾もそうじゃが、もしかしたら途中で寝てしまうやも知れぬ」


「その時はちゃんとベッドまで運ぶって。――それじゃ、次やるか」


 その後も澪歌、ミオ、ゆかりの三人は安定した成績を残しているのに、俺はといえば相変わらず熾烈な下位争いをしていた。

 一度だけ中位終了出来たが、それ以降さらにアイサツが苛烈なものとなってしまった。なんて恐ろしい。


 そういえば、宣伝と配信の効果かゆかりの賽銭箱も順調にお布施が集まっているようで、想像を遥かに越える速さで力が戻ってきているらしく、この調子なら近いうちに完全に力が戻るやも知れぬとゆかりは何度も礼をいっていた。


「――……お、これは」


 最早何十回目のレースか数えておらず、今日だけで何回も走った打開コース。

 三周目にして上位は団子状態で俺のアイテムは特に強力な物が二つ。

 これ、待ちに待った一位狙えるんじゃね?

 仕掛けるなら早めにしないと。どうせ他のプレイヤーにも持ってるアイテム知られてるんだし、妨害されるならこっちが先に仕掛けてやる!


「行くぞ、――勝負ッ!」


 雷鳴がコースに響き渡り、他のプレイヤーが小さくなった。無敵回避したのはおらずこの隙にすかさず高速移動のアイテムを連打連打。

 小さく捉えていた先頭集団の姿もみるみる大きくなっていき、あっという間に追い越して。


「よしよしよしよし! 勝ったこれは勝ッ――なっ!」


 突如、なんの前触れもなく隣に座っているゆかりの体が光に包まれた。

 その光は段々強くなっていき次第に目を開けるのすら困難になっていく。


『なんだなんだ、?』

『なんのひかり』

『まぶしっ』

『見えねえ』

『なんもみえん』



「なんだいきなり、でも――」


 こういう時って大体面倒な事になる気がする。一応見えないように――。

 そう思い、隣のゆかりを配信画面に映らないよう、俺が覆い被さるようにゆかりをうつ伏せの状態で床に隠した。


 やがて光は収まり下を見ると、尻尾と耳が生え俺と同じぐらいの背丈がある女性がそこにいた。

 これが元の姿とでもいうのだろうか。

 背中からでも分かる大きな二つの物体、急激に体が成長したせいでさっきまで着ていた衣服はあちこちが破れ、ほとんど裸といって差し支えない状況。

 配信画面を見てみるとチャット欄は混乱していたようだが、きちんとゆかりの姿を隠す事は出来ていた。


「う、う~む。いったいこれは…。――な、なんと妾は」


「おっとそのまま動くなよゆかり。間違っても身を起こそうとするな」


 ゆかりの肩を抑えながら動かないよう努めて冷静な声で話す。


「それがほんとの姿なのかは知らんが、今ほとんどすっぽんぽんだから、配信画面に映ったら一発BANだからな。このまま向こうまで這って行って」



『マジ!?』

『見たい見たい見たい見たい!』

『下脱いだわ』

『全裸待機』

『優は見たか!?』



「う、うむ。分かったのじゃ」


「私達はゆかりちゃんに入りそうな服持ってくるね」


「優、見ちゃダメ」


 そのまま澪歌達がゆかりの着替えをさせている間、ゲーム画面を見てみるとレースはとっくに終了し、取れるはずだった1位は水泡に帰した。

 仕方ない、うん。こればっかりは仕方ないよ。

 1位取れただろうがこういう事なら仕方がないって。寧ろあれだろ、BANを未然に防いだんだからナイス俺! って話だろ。

 しかし、あんなに成長したって事はそれだけお布施がされてたって話だろう。

 確かにオンラインで世界中の人がお布施出来るようになったとはいえ、流石に早すぎる。それだけ皆やってくれたって証拠だな。ほんとにありがたい事だ。


 ゆかりの方はまた子供の姿に戻れるみたいだが、せっかくなので本来の姿で一度出てみたい、との事で澪歌の服を着せているところだった。


「あれっ、ちょっと入らない? …何とかギリギリいけるかな?」


「んっ、んん、少し苦しいのじゃ…」


 チラリとゆかりの方を見てみると、澪歌が自身が持ってるブラを何とか着けようとし、ミオははち切れた衣服を脱がしていた。



『ナニが起こっている!?』

『実況はよ』

『実況して!役目でしょ!』

『今なんか悩ましい声が聞こえたんですけど』


 このまま何もせずに待っとくってのも配信者として失格だろう。

 ここはこいつらの希望を叶えてやるか!


「いいかお前ら、今な、ゆかりが急に大きくなってほとんど何も着てないぞ。まあBANされるから見せないけど」



『マジ!?』

『マ!?』

『そこにいるのがマジで裏山』

『これは有能\3000』

『続報はないか!?\1200』



「スパチャサンキュー。続報かあ。――あれだ、あれがあった。お前ら、何がとは言わんがゆかりのが一番でかい」



『……マジでか!?』

『あのつるぺったんが』

『メロンが6つになるのか\666』

『……(゚A゚;)』

『もう来れそう?』



「またまたスパチャサンキュ。――あ、今着替え終わったみたいだ。もうこっち来てるわ。――お疲れ、三人共」


「ちょっと予想外に手間取っちゃった」


「ん、大変だった」


「二人すまぬのう。お陰でたすかったのじゃ」


 ワンピースで現れた本当の姿のゆかりは、髪に更なる艶が増し、容姿も端麗、居るだけでどこか気品を感じさせる雰囲気を持っていたが、話し方はいつも通りのそれだった。

 にしてもほんっとにでっかい。あんなに服を押し上げて。

 澪歌とミオも大きいけど、こうして三人見比べると、メロンが4つにスイカが2つと言った方がより正確だと思う。



『でっっっっ!』

『やっば』

『色気も凄いわ\8181』

『……ふぅ』

『並ぶと破壊力がヤバい事になってる』



「刮目せよ皆のもの。これが妾の本当の姿なのじゃ! みなのお陰でこんなに早く力を取り戻せた事、本当に感謝するのじゃ。近く、お守りの方も考えておくので楽しみにしておくのじゃ」


 そこまで話すとゆかりは自身の胸へ視線をおとした。


「それにしても、いきなりこの姿になっても中々不自由だのう。身長の違いに慣れぬ上にこの胸の成長ぶり。下は見えぬは肩は重いわで、これなら子供の姿のままが楽なのじゃ」


「まあそこはゆかり自身が好きな方で良いと思うぞ」


「成長した方の服も今度一緒に買いに行こうね」


「私も選ぶの手伝う」



『みんな仲良い』

『素晴らしいことだ』

『荷物持ちでも何でもいいからついていきたい』

『裏山』



「お前ら、急に光ったり止まったりしてごめんな。――それじゃ改めてゲームの続きをやっていこうか!」


 配信は宣言通り夜を徹して行われ、朝日が登ってなお数千人の視聴者がいる中、盛況の内に幕を下ろした。

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