第90話 エピローグ
日下部君と付き合い初めて1ヶ月が経った。
夏休みも終わり学校が始まる。
でも、学校での私の環境はほとんど何も……変化しなかった。
相変わらず話せる相手は日下部君だけ……それ以外は授業を受け、本を読むだけの高校生活。
そして、雪乃さんは何事も無かったかの様に時々クラスに来ては、日下部君と少し会話をして帰って行く。
日下部君も、今まで通りの対応をしていた。
相変わらずの外面の良さは健在だ。
でも、まあ……私自身も舞台に上がれば同じ。
多分雪乃さんは学校という舞台に居るのだろう……そしてその舞台に日下部君が必要だったんだろう。
雪乃さんにとって、たかが高校の舞台で演じる自分は役不足だと思う。将来もっと大きな舞台に上がった時、日下部君では役者不足になるかも知れない。
その時、そんな時が来た時に、雪乃さんの仮面が剥がれ、本当の顔を私や日下部君に見せてくれるかも知れない。
そして……代わり映えしない学校生活とは一転、放課後の私の生活は激変した。
「あうううう、明日菜あああ、助けてええぇぇ」
家に帰るといつも強気のお姉ちゃんが私にしがみつく様に泣いている。
その原因は……。
「お姉さま! また逃げて! さあ、早くこの問題を解いて下さい!」
お姉ちゃんの後ろから参考書を持った楓ちゃんが鬼の形相で追っかけて来る……。
「うええええええん、無理いいいい」
お姉ちゃんの服を掴みズルズルとリビングのテーブルに引き戻す楓ちゃん……。
「ああ、明日菜さんお帰りなさい、収支報告書の修正をしておきました。後、仕事の出演依頼が3件ありましたので見積り書に目を通しておいて下さい」
「あ、うんありがとう」
「本当、お姉さまのどんぶり勘定には呆れてしまいました、今後は明日菜さんが最終確認をしてくださいね」
「あ、うん……そうする」
「さあ、お姉さま! せめて今月中には中学生以上の学力にしましょうね?」
「あうううう、勉強嫌い……数学嫌いい」
「まさかあの私を手玉に取ったお姉さまが、算数もろくに出来ない『バカ』とは思いませんでした……でもそれくらいでお姉さまの輝きが消えるわけではありません……だけど、お姉さまは完璧でなければなりません! 大丈夫、私が教えればフェルマーの最終定理くらい直ぐに解ける様になりますよ~~」
「うにゃあああ、いらにゃいいいい、そんな力いらにゃいいいい、明日菜~~~~」
「……まあ、お姉ちゃんもこれを機会にちゃんと勉強した方が良いんじゃない? 仕事する時お母さんと約束したんでしょ?」
「あうううう、裏切り者~~明日菜のばかあああ」
お姉ちゃんはあの後、楓ちゃんを連れて帰り仕事を手伝わせようとした。
自分の側に置いて監視と再教育を施そうと考えていたらしい。
しかしそれが仇となった……楓ちゃんはお姉ちゃんが適当に書いている収支報告書等を見て呆れ返ってしまった。
お姉ちゃんの弱点は他でもない算数……。
出演料も適当で、契約書もろくに交わさない……その、人を見る目だけで今まで凌いで来た。
それを楓ちゃんが「アホか……」と一蹴、逆再教育となってしまった。
でも……お姉ちゃんには悪いけど、私の野望……ううん、希望が一つ叶った……。
楓ちゃんと仲良くなるという目標が達成出来た……。
涼君の、あ、学校では日下部君だけど、家に帰れば涼君って呼んでいる……うへへへ。
楓ちゃんが、私を涼君の彼女として認めてくれているかは、わかならない……でも、こうやって親しく話してくれる事がとっても嬉しい。
楓ちゃんも、涼君の事大好きだから、それが一番心配だった……。
今のところはだけど、良い関係でいられている。
そして……。
「おじゃま、あっと、ただいまあ」
「「「お帰りなさい~~」」」
涼君は毎日家に来てくれる様になった。
あれから涼君とじっくり話す事が出来た。
皆と家族になりたいっていう私の夢も伝えた。
涼君は少し複雑そうな顔で、「良いよ」って答えてくれた。
勿論付き合って直ぐ結婚って意味じゃないって事はわかってくれている。
雪乃さんや、楓ちゃんの様にって所が引っ掛かっているらしい。
それはそうだよね、そういう関係が嫌で私と付き合い始めたのに、私が目指しているのがそういう関係だなんて……ね。
でも……良いの、多分同じにはならないから、また違った家族に、楓ちゃんや雪乃さんとは違う、私と涼君の関係になれると思う。
出来れば……涼君にとって特別な家族でいられれば良いなって、そう思っている……。
「明日菜ああぁ、そう言えば聞いてなかったけどさあ、あんた達毎日部屋で本ばっかり読んでるけどさあ、やることやってんの?」
「……やること?」
リビングで楓ちゃんに勉強させられているお姉ちゃんが、そう私に聞いてくる。
キッチンで涼君にお茶をいれながら私はそう聞き返した。
「そうよーー、もう付き合い始めて1ヶ月経つのにあんた達から何て言うの、こう、恋人って雰囲気が伝わって来ないのよお」
「……雰囲気って……どんな雰囲気なのよ」
「えーーそうねえ、夜の焼肉屋にいるカップルの様な雰囲気?」
「……? わかんない、なにそれ?」
お茶をお姉ちゃんの横に座っている涼君に出しながら、私は意味のわからない事を言っているお姉ちゃんに再び聞き返す。
「明日菜さん、お姉さまは……その……お兄ちゃんと……もう……したのか? って聞いてるんですよ!」
顔を赤らめて楓ちゃんは私にそう言った。
「ぶふぁあ、か、楓!」
それを聞いた涼君がお茶を吹き出す……した? 私は足元を見る……下ってなんだろう?
「した?」
「……ああ、もうお姉さま! この妹さんは本気でわかってないみたいです!」
「まあ、明日菜じゃねええ」
「これじゃいつまで経っても私、諦められないじゃないですか!」
「まあ、諦められないからって、幼なじみさんと違って、貴女じゃどうする事も出来ないよねえ?」
「禁断の愛なんて普通の事ってお兄ちゃんを洗脳」
「ハイハイ、だからそう簡単に洗脳なんて出来ないの」
「お姉さまの数学の学力アップよりは簡単だと思います!」
「そ、そんなに!? 私って、そんなにレベル低いの?」
「はい! かけ算出来ないとかドン引きです」
「うええええええええん」
なにやら誤魔化された……一体なんなんだろうと、私は涼君の隣に座ってそっと聞いてみた。
「したって?」
「しししし、しらねええよおおおお」
「ええええ、何でえ? 教えてよおお涼君~~」
「知らないったら知らない! ほら今日もまた一緒に読むんだろ?」
涼君は立ち上がりお茶を持って部屋に行こうと私を促す。
「え? あ、うん」
また今日も一緒に読書……凄く楽しいけど……やっぱり恋人同士になったんだから、少しは………………あ!
私は振り向いて二人を、お姉ちゃんと楓ちゃんを見る。
「ん?」
「したって……そう言う事! ふ、ふえええええ! し、してない、してない!」
「あら、何を想像したのかしら?」
「多分キス以上の事だと思いますお姉さま」
「き!」
「ほらお兄ちゃん、ようやく明日菜さんが意識し始めたよ、今日がチャンスだね、頑張って~~」
「う、うるせええ! ほら明日菜行くぞ」
そう言って涼君は私の手を握る……。
ドキドキ止まらない……こういう事は凄く苦手……でも……一生に一回……涼君とだったら……良いかも知れない。
家族になる前、今だけの、このドキドキを……私はほんの少しだけ……堪能したいって……そう思っていた。
完
【あとがき】
読んで頂きありがとうございました。
ここで一旦終わらせる事にしました。
またいつか続きを書くかもしれませんが(  ̄ー ̄)ノとりあえず。
次回作はもう少し普通の恋愛にしようかなと(笑)
その際は、また読んで頂ければ幸いです。m(_ _)m
外面のいい幼馴染みに、いいように使われた、だから俺は彼女よりもいい女と付き合う事にする。そして出会った女子は秘密でモデル活動をしていた隠れ美少女だった? 新名天生 @Niinaamesyou
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