第4話
「この真下に水脈があります。この場所に井戸を掘ろうとかと思うのですが、どうでしょうか?」
念のため村長に確認を取るとすぐに許可をくれた。
半信半疑な二人を余所に、ケイジはボーリングマシーンを取り出した。この装置は円筒型をしており、地面と接する部分に掘削用の歯がついている。これが高速回転して地面を掘る構造になっており、そのときに出た砂や土などは別の保管場所にマイクロ化して入れられ、ある程度たまったらどこかで処分するという方式を採用していた。だが、土は有益な資源であるため、大抵はそのままの状態で保存していた。
「これで穴が掘れるのですか?不思議な魔道具ですわね」
浄化マシーンを見ているからか、ソフィアは特に疑う様子はなく、逆に興味津々といった様子だった。一体どんな動きをするのだろうか。ソフィアの目は輝いていた。
目標深度までのデータを入力すると、少し離れるように指示をだす。全員の安全を確認すると、掘削開始のボタンを押した。
唸り声を上げて装置が動き出し、徐々に地面へと潜り始めた。その様子を驚きの表情で皆が見つめる間に、ケイジは次の装置を取り出した。
これは穴を開けた後の壁面を強固に補強する装置である。壁面の土をまるで石のように固めることができるのだが、その原理は土の構造を変化させ、それを繋ぎ合わせていると取り扱い説明書には書いてあった。
固めるマシーンを先ほど空けた穴に入れると、すぐにスイッチを押した。この装置と掘削マシーンは連動しているため、これだけで勝手に作業をこなしてくれる。実に便利な道具だった。
数分と経たずに井戸を堀終わった。確認してみると、穴の底に水が揺らめいているのが見える。少し小さな井戸になったが、当面は大丈夫だろう。
「堀終わりました。これで井戸としては機能しますが、まだ水を汲み上げられるようにはなっていないので、後はお願いしてもいいですか?」
自動水汲み装置までつけるとメンテナンスに困る。それならば村の人達で運用できるものにしてもらえた方がいいだろうと考えた。
「もう堀終わったのですか!?・・・凄い、底に水が見えますわ」
「本当ですか!?おお、ありがとうございます。あとは我々に任せて下さい。滑車を設置する事など、造作もないことです」
村長の指示によりすぐに滑車が用意され、水が汲み上げられるようになった。
問題への素早い対処に、ソフィア達の評価は益々上がったのであった。
ソフィアと共に領内の町や村を見て回ること数日、いつものようにその日の視察を終えて屋敷に戻ると、いつもとは違う、何か緊迫した雰囲気が漂っていた。
「お父様、何かあったのですか?何やらみんな浮き足だっている様子ですが」
「ああ、ソフィアか。実はな、先の魔物が山から降りてくる原因が分かったのだよ。どうやらあの山にゴーレムがさまよっているらしい。しかも、かなりの大型のようでな、攻撃をしたものの、あまりの大きさにどうにもならず、撤退を余儀なくされたらしい。今からその対策会議がある。ソフィアもケイジ殿も一緒に参加してもらいたい」
「分かりましたわ。ケイジ様、参りましょう」
ソフィアはケイジを連れて足早に会議室へと向かった。
そこにはすでに何人もの人達がおり、意見を交わしていた。
「あの巨体を破壊するには攻城兵器をぶつけるしかない」
「しかし、動く巨体にどうやってぶつけるのだ?あれは止まった物にしか当てられないぞ。ゴーレムまで近づく間に多くの兵士が犠牲になるぞ」
「何か有効な魔道具はないのか?城壁を破壊できるようなものがあれば」
「そんな物があるとは聞いたことがないな。魔法が使えるという古のエルフを探しだし、力を貸してもらえれば・・・」
会議室は多くの声が飛び交っていた。そのどれもが、現在の戦力では巨大ゴーレムを倒すのは不可能だと言っていた。
「何とか地面に倒すことができれば、何とかならないだろか?」
「倒れたところで破壊できるのか?攻撃を加えた者は硬すぎてどうにもならないと言っていたぞ。斧やハンマーで太刀打ちできるのか?」
まだ付近の町や村には移動してきてないが、いつ動きがでるのかは分からない。近くの町や村にはいつでも避難できるように言ってあるが、その先、ゴーレムがどう動くかは分からない。もし、領都に向かって進撃してきたら被害は甚大である。下手すると、伯爵領は壊滅状態になるだろう。
「どうしてこんなことに・・・」
遂には弱音を吐く貴族達。ここにいる誰もが自分の身の安全を考えている。
この異様な空気にソフィアも呑まれたらしく、顔色を悪くしている。
「大丈夫ですよ、ソフィア様。まだ状況が差し迫っているわけではありません。何か対抗する方法があるはずですよ」
ケイジはソフィアを安心させるべくそう言った。しかし、手をこまねいて見ている訳にはいかない。すぐにケイジも何か自分にできることはないかと考えた。
爆発物なら大量に保有しているので、ゴーレムとやらを破壊することは可能であろう。しかし、どのくらいの規模の爆発物が必要になるのか、また、それを使用した時の環境に与える影響を考えると、頭の痛い問題だった。いくら民の安全を確保するためとは言え、無差別に破壊するのはよくないはずだ。
やるならばスマートに。環境破壊も最小限に。これがケイジに課せられた使命である。
うーん、と唸りながらレガリアに積まれている兵装と、あり得ない項目が使用可能になっていることに気がついた。
その項目は、レスキューロボ。災害救助用の巨大ロボットである。
従来のレスキューロボはバトルアーマーの兵装とは別に区分されており、並走するトラクターに積んである。
そのため、トラクターに積まれたロボットがないこの世界では、使うことが出来ないはずである。
項目が点灯しているということは、使用することができるのか?だとしたら、レスキューロボは一体どこから出てくるのか。ケイジの疑問は尽きなかったが、もしこれが使えるのならば、環境破壊は最小限ですみ、被害も最少限に抑えることができるだろう。
「ソフィア様、1つ試してみたい方法があるのですが」
ケイジがあらましを聞いたソフィアとアルフは狐に摘ままれたような顔をした。
「本当にそのようなものがあるのですか?」
【信じられんな。まさか巨大ゴーレムを生む出せるとは】
「実際のところはやって見なければ分かりません。可能かも知れませんし、単に表示がおかしくなっていただけかも知れません。しかし、もし使えるのならば、一番被害の出ない方法だと思います」
半信半疑ではあったが、とりあえず試してみようということになり、領主の許可を得て例のゴーレムのいる場所へと向かった。
護衛達に囲まれ、鬱蒼とした森を抜けた。なるべく周囲の魔物を刺激しないようにと、最少人数での移動であったため、万が一魔物に襲われたら、と心配する護衛達は、目的地に着いた時には既に疲労困憊であった。一方のケイジの強さを知るソフィアは全く心配をしておらず、元気な様子であった。
突如森が開け、不自然な空き地が、目の前に現れた。どうやらこの場所にゴーレムがいるらしい。良く見ると広場の中央付近に岩の塊が転がっている。
「あの岩がゴーレムです。今は形作っていませんが、近づくと人形となりこちらを襲ってきます。十分に気をつけて下さい」
「分かりました。では早速準備を始めましょう」
見た感じ、バトルアーマーのみでも勝てそうな気がするが、念には念だと思い、当初の予定通りレスキューロボで排除することにした。
コンソールを叩くと、設置場所を指定するようにとの表示が出た。見たことない表示だったが、邪魔にならない場所を指定し、OKボタンを押した。
指定した地点に幾何学模様が輝いた。なんだなんだと周囲がさわぐ間に赤と白のツートンカラーのレスキューロボがその巨大な姿を現した。
呆気にとられる一同。
「こ、これがケイジ様が言っていたレスキューロボなのですね。まさかこんなに大きいとは思いませんでしたわ」
「どうやら問題なく使うことができそうなので、ちょっと行ってきますね」
そう言うと、コントロール席へとスルリと滑り込んだ。
「え?中に入るのですか?」
『ええ、これは内部から操縦するようになっているのですよ』
ロボから発せられる声に、再び辺りが騒然となった。ケイジは気にせずレスキューロボをゴーレムの方に向けた。それに気がついたのか、ゴーレムがその身を起こし始めた。
ミサイルで攻撃するのならロボでもできるだろうと考えたケイジは、工作用の巨大ドリルを腕に装着した。
「な、なんだあれは・・・」
起き上がったゴーレムに向けてのドリルが突き刺さる。機械が硬い岩を砕く轟音が鳴り響いた。
予想以上の硬さにケイジはゴーレムに蹴りを入れ、体制を崩すと距離を取った。
すぐさまケイジは装備を変えた。高温にした刃で対象を切断するヒートカッターである。
先のドリルで穴が空いたゴーレムの動きは緩慢になっていた。そこに容赦なくヒートカッターが唸りをあげる。ゴーレムは呆気なく真っ二つになり、崩れていった。ケイジのバイザー表示からもゴーレムの反応が消えた。
「やった、やったぞー!」
護衛の兵士達が声をあげた。
「さすがですわ、ケイジ様。誰一人被害を出さずに解決してくださるだなんて」
【信じられん、何なのだ、アレは。見たことも聞いたこともないぞ。さすがは神の使途、ということか】
レスキューロボを仕舞ったケイジはそこにいた全員に祝福されて帰路に着いた。
「我々が手をこまねいている間に片付けてくれるとは、何と礼を言えばよいものか」
「いえ、衣食住を提供してもらっているのです。このくらいのことなら御安い御用ですよ」
ことも無げにケイジは言ったが、本来なら大惨事に為っていてもおかしくない案件であった。下手をすれば伯爵家が潰れていたかもしれないのだ。
「ありがたいお言葉だが、やはり何か礼をせねば示しがつかん。そうだ、ケイジ殿。娘のソフィアをもらってはくれないか?」
「え?」
突然の申し出に思わずソフィアの方を振り向いた。
ソフィアは顔を赤く染め、恥ずかしそうにうつむいた。しかし、否定はしなかった。
どうやら満更でもないらしい。ケイジはそう判断した。
レガリア えながゆうき @bottyan_1129
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。