最終話 夢のヒーロー

 三人に手を振った後、僕は商店を出て公園に向かった。

 会いたいって言ってるみたいだけど、何の用事だろうか?

「あ、△△さーん!」

 公園に入った瞬間、待ってましたと言わんばかりに高校生くらいの男の子が駆け寄ってきた。

「来てくれたんですね!」 

 この子は○○さんの息子で、僕が十年前に助けた男の子だ。その時に比べたら、ずいぶん大きくなったものだ。

「うん。会いたいって言ってたんでしょ。どうしたの?」

 少し離れたベンチで、○○さんが手を振っている。それに応えて僕も手を振り返す。

「えっと……。オレ、△△の弟子になりたくて……」

「弟子? 僕の?」

「はい。憧れてるんです。お願いします!」

「う〜ん。上手く教えられるか分からないし、期待に応えられるかも分からないけど……。それでも良いなら」

「え、良いんですか!? ありがとうございます! やった……」

 男の子は小さくガッツポーズをしたと思ったら、居直してきれいな角度で頭を下げてきた。

「え? どうしたの?」

「師弟関係になるんですから、礼儀は大切ですから。では師匠、これから宜しくお願いします!」

「ははは……。こちらこそ宜しくお願いします」

「話は済んだ?」

 タイミングを見て、○○さんがこちらにやってきた。

「あ、お母さん。うん、△△さんが弟子になっても良いって!」

「そう。良かったね」

「久しぶり○○さん。元気にしてた?」

「うん、私は元気。ありがとう。△△君は?」

「まあ、元気。そうじゃなくてもすぐに治すけどさ」

「はははっ。確かにね。あ、そうだ」

 ○○さんは、さっきのベンチの近くにある、遊具が並んでいる方に向かって人を呼んだ。

「──ちゃーん! おいでー」

 すると、遊具で遊ぶ数人の中から、3歳くらいの女の子が走ってきた。その子は僕の姿を確認すると嬉しそうな顔をして、タックルをするように僕に飛びついた。

「おお、──。泥だらけだね、遊んでもらってたの?」

「うん! あそこにいるおねえちゃんと、おにいちゃんが遊んでくれました! あとね、○○おねえちゃんと、こっちのおにいちゃんも!」 

 ○○さんのもう一人の子と、後は近所に住んでいるっていう、この子の友達か。一緒に遊んでいるのをよく見かける。

 僕は娘の頭を撫でて、泥を軽く払った。

「そうか。良かったね。ご飯は食べた?」

「うん! オムライス食べにいきました! おとうさんは?」

「まだ。昨日帰るのが遅かったから、お昼に起きたばっかりでさ。おにぎり買って来たところ」

「そうかー。たくさん食べて、おおきくなるんですよ!」

「ははは。もうお父さんは大きくならないかな?」

「なんで?」

「大人は大きいから、大きくなれないんだよ。いや、大きくなったから大人かな?」

「ふーん。では、──は、また遊んできますね! じゃあね〜」

「ああ、うん。気をつけてね」

「はーい」

 女の子はさっきの遊具の所に戻っていった。

「元気過ぎて、私の方が先に疲れちゃいました」

 そうは言いつつも、○○さんは楽しげだ。

「いつもありがとう」

 僕は丁寧にお礼を言った。

「いいって。私も子ども好きだから」

「ありがとう。そうだ、旦那さんも元気?」

 数年前、○○さんは再婚したんだ。最近は忙しくてなかなか会えていないけど、僕達は家族ぐるみでの付き合いで、子どもはよく遊んで貰っている。

「ああ、元気。ありがとう。でも最近少し太ってきてるの」

「まあ、それくらいなら良いんじゃないかな?」

 幸せ太りってやつだろうし、健康を損ねない程度なら微笑ましい限りだ。

「ご飯が美味しいからって、親父は食べ過ぎなんですよ」

「まあ、美味しいなら仕方ないよ」

 談笑していると、またスマホが振動した。

「ああ、仕事が入ったから行かないと……。ごめん、娘を頼んでいいかな?」

「分かった。気をつけて」

「うん、ありがとう」

「今度はどこに行くんですか?」

「内緒。と、言うより、僕もまだ知らないよ。機密情報は漏れないように、極力メールとか電話で伝えないようにしてるからね」

「怖く無いんですか?」

「怖くない事は無いけど、事前に資料とか情報を貰えるし、準備も抜かりない。頼りになる仲間もいるからね、仕事に入ったら恐怖なんて平気さ」

「良いですね。じゃあ、△△さん。気をつけて」

「うん。行ってくる」

  

 僕は一度家に帰り、仕事に必要な道具を予め入れておいたバッグを持って、車で仕事に向かった。

 車を運転しつつ、手早くおにぎり三個を食べて、お茶を流し込んだ。一瞬で食べちゃったけど、カラスミのおにぎり、なかなか美味しかった。また食べるとしよう。

 そして、芋ようかんをしっかり味わいながら、ドライブを楽しんだ。

 僕のやってる仕事は不定期に入るし、お察しかもしれないけど危険が付き纏う。だから皆に心配されるけど、僕にしかできない事もあるし、やりがいも感じる。でも、決まった休みは無いし、プライベートもあんまり無いし、親しい人達とも満足に会えないのは、正直に言うと不満は有る。

 でも、これは僕が選んだ道だから、絶対に後悔はしない。皆、僕が打ちのめされて、ウジウジしている姿なんて見たくないはずだしね。

 僕はとある屋敷に入り、車を停めた後荷物を持って建物に入った。

「おはようございます──さん。あ、総理になったんでしたね。おはようございます、総理!」

 入り口にはピシッと決まったスーツを着た老齢の男性が待っていた。僕がさっき言った通り、この男性は先日総理大臣に成った人だ。

「おお、やっと来たか△△君。おはよう。そうだ、まだ成ったばかりでしっくり来ていないがね」

「総理自ら迎えてくれるなんて、今日はどのような仕事でしょうか?」

 総理は僕を中に入るよう促し、歩きながら話した。

「今回は国外だ。詳しい事は部屋に入ってにしよう」

「分かりました。そうだ、□□さん、議員に立候補しているみたいですね」

「そうだ。私が若い頃よりしっかりしているが、我が子となるといつまで経っても心配だ。下手に力を貸す事もできんしな」

「□□さんだったら大丈夫でしょう。賢いし優しさもありますが、何より父譲りのカリスマがある」

「嬉しい事を言ってくれるね。さあ、入って」

 邸の一室に入り、僕と総理は向かい合わせに座った。

「さっそくだが、今回の仕事はここだ」

 僕は渡された資料に目を通す。

「──国で、トルネードが起きたんですね? それで、救助活動を……。現地の軍とかでは足りないんですか?」

「施設も直撃したみたいでね。それに大型という事もあって、被害を受けた範囲が広いのだよ」

「──国は確か、そろそろ雨季に入る頃でしたよね?」

「そうだ。だから、救助が遅れれば、避難に遅れた人たちが生き埋めになってしまう」

「分かりました。資料は移動中に目を通しておきます」

「いつもすまないな」

「仕事が無い時は一週間以上休みになったりしますし、大丈夫ですよ」

「君にはいつも助けて貰っている気がするな」

「こちらこそ、□□さんや総理がいなければこんな事できませんでしたよ」

「それは君の努力の結果だ。しかし、あの時は驚いたよ。何通も『辛い』だとか、『目眩が酷くてまともに歩けない』だとか、『死にそう』だとか□□からのメールが並んでいたのに、急に『治った』って来てね」

「その話何度目ですか。感謝されるのは嬉しい限りですけど」

「いいじゃないか。いつも仕事仕事って、忙しくしていた私が、家族や周りの人達に目を向けるきっかけにもなった。あの時は□□にも悪い事をしたしな。△△君のおかげで命拾いをしたよ」

「いえいえ、持ちつ持たれつですよ。□□さんや総理が僕のの事を公にしつつも、僕にも人権があると声を大にして言ってくれましたし。この仕事も用意してくれました」

「恩返しは当然だ。まあ、私達だけではなかったがね。ああ、すまない。引き止めてしまったな」

「いえ。では行ってきます」

「任せたぞ」

「はい」

 僕が立ち上がると、後ろで待機していた自衛官が敬礼をした。僕はそれに応えて敬礼をする。コミュニケーションは挨拶から始まる。それに今回は彼と彼の所属する隊と協力する事になるから尚更丁寧にしないとね。

 僕は彼の車に乗り込み、一緒に飛行場に向かった。

 ──中学校爆破事件。その後僕と++さんは逮捕される事になった。ファイルを渡し、僕達は知っている事を話して、☓☓教穏健派の協力もあって、事件を起こした☓☓教の過激派の人達は漏れなく逮捕された。

 ++さんは直接的に殺人をしたとは言えない事や、子どもの頃から代表やその取り巻きから洗脳的教育をされてきた事もあり、刑はそこまで重くはならなかった。

 でも、僕は本拠に指紋もあり、いつの間にか爆弾にも指紋がつけられていて、(実際は合成とはいえ)爆破命令を下した音声が残っており、☓☓教の者と一緒に行動をしていた事から無実の可能性は低いとみなされて、既に指名手配されていた事もあり、終身刑が言い渡された。詐欺罪に公務執行妨害とか、暴行罪とかも加えられていたな。何にしても、僕はそのままでは一生を塀の中で過ごすしか無かったんだ。

 しかし、そうはならなかった。一年が経った後僕は突然釈放された。

 急に塀の外に出されて、わけも分からなかった所に一つの迎えの車がやって来た。その人は、僕を見ると笑顔になり、

『英雄をいつまでもこんな所に入れていたら、罰があたるからね』

 と言った。その人こそ、現総理だった。あの時はまだ目立たない一議員でしかなかったみたいだけど、僕にとっては輝いて見えた。

 僕はその時まですっかり忘れていたけど、思い出したんだ。僕達が初対面ではなかった事を。

 無愛想で笑顔を忘れていた僕に笑顔の大切さを教えてくれた、いつかのお客さんこそ、この人だったんだ。この人の笑顔は人を惹き付ける。それは老若男女問わずだ。カリスマな上に手腕もあるからこそ総理にも選ばれた。

 それだけじゃない。僕が逃げる前商店に行ったときに助けた、インフルエンザらしき病気に罹っていた男性は、□□さんで、この人の息子だったんだ。□□さんは総理に、僕がインフルエンザを治した事を伝えて、その後も色んな病院にかけあってくれた。

 病院の人も証言だけじゃなくて、僕が患者さんを治している姿をいつの間にか動画に収めていて、それも役に立った。

 ○○さんは僕の無実を信じ、率先して署名活動をしてくれていた。おじさんとおばさんも商店街の人達と協力しあい、僕の両親も加わってビラを配ったり、役所等にかけあってくれた。

 皆のおかげで再捜査することになり、結果無実と見做されたわけだ。

 皆には本当に感謝している。

 晴れて娑婆しゃばに戻った僕は皆に会いに行った後、さっそく元認知症だったおばあさんの所に向かった。どうやら娘さんとは仲直りしたようで、皆で一緒におばあさんの淹れた美味しい紅茶を楽しんだ。

 僕を助けてくれた人達に、お礼に行くために暫く休んだ後、総理から……、まだその時は総理大臣ではないんだけど、その人が声をかけてくれて、その時に実験的にだけど、僕は世界で初めての、

 

 それから災害が起きた地域に行って、数えきれない程人や動物を救助した。次に不治の病や治すのは不可能と言われた怪我を世界を巡って治していった。

 その時に僕のこの力を研究したんだ。すると、普通の人には無い器官が備わっており、そこから特殊な力が出ているとの事だった。結局詳しい事は分からなかったんだけどね。

 瞬く間に僕は世界的に認知され、五年前に晴れて正真正銘のヒーローという職業に就く事ができたんだ。

 ++さんもその頃出所できて、今はおじさんとおばさんが働く個人商店で副店長を任せられている。まあ、人数も少ないし、++さんは物覚えも良かったから当然とも言えるな。

「ん、どうしたんですか?」

 車が急ブレーキをかけて停められた。

「すみません。急に猫が飛び出して来て、しかも退いてくれないんです……」

 確かに車の前には猫がいた。

「すみません。降りますね」

 確かに車の前から動かずにいるけど、それより気になったのは、何度も同じ方向を気にかけている素振りを見せている事だ。

「はい」

 僕が車を降りて猫に近づくと、

「にゃあ」

 と、一鳴きしてその方向に走り出す。僕も走って追いかけると、その先には一本の木があった。

「子どもか!」

 その木の枝は折れていて、一人の男の子が片手一本で宙吊りになっている。早く助けてあげないと、落ちてしまう。

「助けて……。助けて……!」

 秒毎にどんどんずり落ちて行く。

「もう頑張ってくれ、すぐに助けるから!」

 足に力を込めてスピードを上げる。もう少し、もう少し!

「うあー!」

 とうとう力の限界に達し、男の子の手は離れてしまった。

「え?」

「よく頑張ったね。もう大丈夫だ」

 間に合った。男の子が地面に激突する直前、僕は間一髪で抱きかかえる事ができた。

「何で木の上にいたの? 危ないよ」

 できるだけ優しく言った。

「ごめんなさい。猫さんが降りられなくなってたから……」

「助けようとしたんだ?」

「うん。僕もヒーローみたいになりたかったんだ」

 落ち込んでしまった男の子の頭を撫でて、僕は笑って見せた。

「君はもう、この猫さんにとって立派なヒーローだよ」

「そんな事ないよ! 助けられちゃったし」

「何いってるの、ヒーローだって皆と協力するし、助けられる事もある。それに、その猫さんは、ほら、君のおかげで無事にここにいるよ」

「うにゃあ」

「ほんとだ。よかった……」

「でも、あんまり無理はしちゃダメだよ。ヒーローがやられてしまったら、皆悲しむからね」

「わかった」

 僕は男の子を立たせて上げるついでに、怪我をしていた手を治した。

「ヒーロー?!」

「ああ、バレてしまったか! ふふっ。そうだよ。ヒーローは皆を助けに行かなくちゃならない。だからもう行くけど、一人でも大丈夫?」

 わざとらしく、コミカルに言ってみせる。

「大丈夫! おれも、ヒーローだし!」

「頼もしいヒーローだ。それなら大丈夫だね」

「ばいばい!」

「うん、バイバイ!」

 僕は男の子に手を振った後車に向かった。

「あ、ヒーローのおにいちゃん!」

 少し離れた所で、さっきの男の子が僕を呼び止める。

「何?」

「ありがとう! それと、おれの好きな飴あげる!」

 男の子は何かを投げる動作をした。

「あれ? 飛んでこないな……」

 キャッチしようにも、その飴がいくら待っても見当たらない。地面に落ちてしまったか?

「ポケットに入ってるよ! みてみて!」

 言葉に従って、僕はポケットをあさった。

「本当だ……」

 いつの間にか胸ポケットに飴が入っていた。見落としか? 太陽の光が眩しくて見えていなかったのか?

「あったでしょ?」

「有った。ありがとう!」

 ポケットに有った飴を手に、高く上げて取り男の子に見せた。

 男の子はそれに満足して頷くと、走って行ってしまった。

 僕はそんな男の子を見送って車に戻った。

「大丈夫でしたか?」

「はい。無事に助けられました」

「では、動かします」

 自衛官はサイドブレーキを下げてアクセルを踏んだ。

「お願いします。……そういえば」

「何でしょうか?」

「これから僕みたいな力を持った人が、出てきたりするんでしょうか?」

「どうでしょうか……。私にはわかりません。ですが、もしかしたら既にいるかもしれませんよ」

「そうですね」

 もしかすると、さっきの男の子はなんだろうか?

 彼も僕の仲間ヒーローになるんだろうか?

 特殊な能力は、使い方を間違えば時に人を苦しめる。僕は手当てだったけど、この先どんな能力を持つ子が出てくるか分からない。能力次第では犯罪にだって使えるかもしれない。だから、良い事ばかりとは言えないけど、僕が今頑張れば、ヒーローが格好良いと思える存在であり続けられれば、全てでは無いかもしれないけど、その子達だって正しい道に進めるはずだ。


 人生は何が起こるか分からない。この物語だって突然だったから……。

 でも、一度は諦めてしまったヒーローの道を、夢だったヒーローの道を、僕は今、こうして歩んでいる。

 だから僕は、この先何が起きたとしても、希望を捨てずに進み続けていく。

 

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夢のヒーロー 是呈 霊長(ぜてい たまなが) @Tamanaga

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