今日の、ポメ

「えっと……」

 吾輩は、編集長の言葉の続きを待った。

 どうやら、考えをまとめているらしい。

 吾輩は何か、見落としていたのだろうか。

 吾輩が撮ってきた写真、動画、土産話のどこに、ヒントがあるというのだ?

 ……全く、わからん。

「ポメ、これから俺が話すことは、あくまで想像の話だ。それだけ、了承してくれ」

「あい」

 吾輩は、しっかりと編集長の目をみて返事をした。

 編集長は「コイツは……」という顔をしながら、話を始めた。

「やうふっふーが書いたこの文字なのだが」

 編集長は、吾輩の携帯に映る例の文字を、画面越しにトントンと叩いた。

「……わざと下手くそに書いていると思う」

「え」

 え。

「紙とペンが置いてあるような家に住む生き物が、ここまで文字が下手くそだろうか、いや、下手くそではなーい!」

「ひいぃ!」

 突然の反語。突然の大声。吾輩はビビり上がった。

「……恐らく、ペンの持ち方を変えたり、利き手ではない方の手で書いたりしているのだろう」

「……なるほど」

 吾輩は、そこまで見ていなかった。はて、やうふっふーは左手で書いたか、右手で書いたか……うーん。

「それともう一つ」

 編集長は、動画に映っていないやうふっふーの存在を再び挙げた。

「……何故映っていないんだったかな?」

 編集長の声色が、まるで吾輩を責めているように聞こえたので、すっかり吾輩はビビり上がりっぱなしである。

「……っと、トイレに籠ってたんです」

 吾輩が、トイレに籠っていたような気分になる。

「何故トイレに?」

「何か、変な液体飲んでお腹壊してたから」

「そこだ!」

 ビシッと編集長に指を差される。

「お腹を壊したのは、果たして、変な液体を飲んだから……なのか?」

「え」

 え。

「もしその液体は、腹痛に効く薬だったとしたら……? そして、その腹痛の原因が、ロールケーキの食べ過ぎだとしたら……?」

 編集長の目が鋭く光る。まるで狩りをする鷹のような目だ。吾輩は、食われちまう。

「……と、考えることができるわけだよ。ポメ」

 編集長は、突然いつもの編集長に戻った。鋭い視線は和らぎ、いつも吾輩に接しているような穏やかめの態度に戻った。

「……そこまで、考えてませんでした」

「まあ、そうだろうな。ふっふーワールドなんて世界がそもそも、よくわからないからな」

「はい。まるで、不思議の国のアリスの世界に迷い込んだような、そんな気分でした……」

 シュンとする吾輩の頭を、編集長は優しく撫でた。

「まあまあ、とにかく、よく頑張ったな。ちゃんと、ふっふーの記事を、書き上げるんだぞ」

 ……そうだ。吾輩は探偵ではない。一介の記者だ。

「そうだポメ、美味しいシュークリームを買ってきたんだが、食べるか?」

「え、いいんですか!」

「わあ、ありがとうございます!」

 突然斉藤が乱入してきた。うるせえ。あっち行ってろ。しっし。

「何でそんな睨むんだよポメ」

「うるせえ、シュークリームは吾輩のものだ!」

「まあまあ、ちゃんと二人分用意してあるから、安心してくれ」

 そう言って編集長は、自分のデスクへと戻っていった。

「ああ!」

 編集長は、午前中に聞いたレベルのどでかい声を一発かました。

「ど、どうしたんですか!」

 吾輩と斉藤は、思わず驚き駆け寄ってしまう。

「せっかく買ってきたシュークリームが……」

 ……な、なんだって!?

 吾輩は嫌な予感がし、ふと近くのデスクに置かれている厚紙のような何かに視線をやった。

「まさか……」

 吾輩は、手に取ってみる。そこには、黒いマジックペンのようなもので文字が書かれていた。


 はっはっは

 うまかったぞ

 じゃあの


 ふっふー


「アオォォォォォォンンンン!」

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ふっふーだにっとの冒険 ふっふー @nyanfuu1818

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