その後。

 一年の月日が流れた。

 俺は未だにミュージシャンとして芽が出ずにコンビニのバイトを続けていた。大丈夫、クレームはもうほとんど入れられない。

 ようやく売り上げが戻った。と店長はご満悦の様子だ。


 あの日以来、そう、夢乃綴と出会って以来、彼女は煙の様にテレビやラジオ等のメディアから姿を消した。

 メディアは初めの1ヶ月こそ、ここぞとばかりに取り上げた。

 けれど、「人の噂も七十五日」なんて言うことわざもある様にここ最近ではめっきりと彼女のニュースなんて聞かなくなった。

 世間は正直で、残酷で、そして見窄みすぼらしい。あの日以前の世界と変わりゃしてない。


 綴はもしかしたら、あの夜に言っていたことを実行しに行ったのでは無いか、と思う。

 だとしたら彼女は今頃、この世界の何処で歌を歌ってるのだろう。

 アメリカか、ロシアか、中国か。

 それとも、俺が名前も知らない様な小さな、小さな島国か。

 言葉は通じてるだろうか。文化の違いに苦労してないだろうか。

 とても心配になってしまう。


 けれど。


 けれど、綴なら大丈夫だろう。

 世界でただ一人の俺のファンなのだから。

 『本物』を知ってるのだから。


 だから、彼女もきっと今頃、歌っているはずだ。

 俺と同じ、大事なピックを使って。

 俺の大嫌いな歌を。

 甘ったるくて、綺麗事で……。

 いいや、力強くて、楽しそうで、懐かしくて。

 けれど、繊細で、誰よりも悩んで、傷ついて。

 心の何処かを温かくしてくれる歌。

 

 だから俺は今日もギターを奏でよう。歌を歌おう。

 今の俺を見たら彼女はなんて言うだろうか?

 『相変わらず、弾きにくそうなギター。』

 なんて馬鹿にするだろうか?

 そんな場面を想像すると自然と笑みが溢れる。

 だけど俺は今日も歌う。奏でる。あの場所に立つ。


 彼女の人生を変えた様に、誰かの人生を変えれると自分の音に願って。

 

 

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嫌いな歌。 柳 荘樹 @sojumaru

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